11人のカウボーイ(1972年)

老牧場主に雇われた少年たちが牛追いの仕事を通じて成長していく物語です

こんにちは。大船シネマ館主よのきちです。今日の映画は、マーク・ライデル監督の『11人のカウボーイ』です。原題の「The Cowboys」の通りに牧場で育てた牛と馬を600km離れたベルフーシェという町に売りに行くカウボーイたちが主人公で、老牧場主に雇われた少年たちが荒野を巡る牛追いの厳しい仕事を通じて映画の進行とともに成長していくジュブナイルストーリーになっています。六十歳という設定の牧場主を演じるジョン・ウェインは本作の撮影時に六十四歳でしたから、しゃがれ声は昔のままながらもお腹だけは立派なビール腹となり年相応の配役になっています。

【ご覧になる前に】「カウボーイ」はもともと「牛飼い」の意味なのでした

牧場主ウィル・アンダーセンは冬になる前に600km離れたベルフーシェまで牛と馬を運ぼうと考えていましたが、頼りにしていた牧童たちは金鉱堀りを優先して仕事を引き受けてくれず、やっと現れたのは刑務所出の荒くれ者でとても牛追いを任せられません。友人のアンスから学校の夏休みを利用して少年たちを雇うことを勧められたウィルは、集まってきた少年たちに暴れ馬を乗りこなせたら雇おうと約束します。馬を手なずけた少年たちは見事合格し、牛追いの基本を身につけた少年たちとともに荒野に向けて出発することになったウィルですが、ひそかに後をつけてくる刑務所出の男たちのことは気づかないままでした…。

西部劇でカウボーイという言葉を聞くと、撃ち合いをするガンマンを思い起こしてしまいますが、もとは牛や馬を育てて町に売りに行く牧場の雇われ者たちのことで、カウボーイはその名の通り牛飼いや牧童という意味なのでした。本作はカウボーイの本業である牛追いを描いていて、西部劇というよりは19世紀アメリカの典型的な畜産農家の仕事ぶりが題材になっています。ウィリアム・デール・ジェニングスが自身の小説を脚色していて、他には本作のTVシリーズ化を担当しています。

マーク・ライデルは俳優出身の映画監督で、1960年代にはTVシリーズの「ベン・ケーシー」や「逃亡者」など日本でもおなじみのドラマを演出していたそうです。映画監督としてはスティーヴ・マックイーン主演の『華麗なる週末』やジェームズ・カーン主演の『シンデレラ・リバティ』などを監督していますが、一番有名なのはヘンリー・フォンダとキャサリン・ヘプバーンが共演した1980年の『黄昏』でしょうか。そんな中でこの『11人のカウボーイ』は目立つ作品ではありませんが、自らプロデューサーもつとめていますので、映画にすることについて何かしらの思い入れがあったのかもしれません。

主演のジョン・ウェインは1949年の『黄色いリボン』で定年で退官間近の大尉を演じていましたが、本作ではまさに60歳の老牧場主を演じていて、四十二歳のときと六十四歳のときに同じ年齢の役を演じたことになります。もちろん『黄色いリボン』のときのようにメイクアップアーティストの力を借りることなく、牧場主役を堂々と演じていまして、登場するだけで周囲を威圧するような存在感がいかんなく発揮されています。

そして音楽を担当しているのは、あの『スター・ウォーズ』シリーズの雄大な曲を書いたジョン・ウィリアムズです。ジョン・ウィリアムズはアメリカ空軍の音楽隊で編曲を担当してから、除隊後にジュリアード音楽院ピアノ科に進んだというイレギュラーな経歴の持ち主で、1960年代から映画やTVシリーズに曲を提供するようになりました。TVシリーズでいえば、日本でも人気のあった「宇宙家族ロビンソン」や「巨人の惑星」なんかもジョン・ウィリアムズがやっていたんですね。そのようなやや下積みの時代を経て、徐々に本作のようにジョン・ウェイン主演のメジャー作品なども担当するようになり、『スター・ウォーズ』以降は押しも押されもせぬハリウッド映画の大御所作曲家として大活躍することになっていくのでした。

【ご覧になった後で】終盤直前にジョン・ウェインが撃たれてしまうとは…

実は本作は日本での封切り時に映画館に見に行った思い出の映画でありまして、そのとき見て以来の再見だったので感慨深く2時間超の上映時間を過ごすことができました。公開当時も大いにショッキングだったのですが、主演のジョン・ウェインが映画のクライマックスを待つことなく悪役に呆気なく撃たれて死んでしまうという展開にはあらためて驚かされました。正々堂々と腕力のみの殴り合いをした後で、丸腰のジョン・ウェインが背中から銃撃を受けるのです。しかも一発ではなく腕や足を撃たれて最後に腹に銃弾を食らうという苦しませるための撃ち方で、子供のときに映画館で見ていても、あまりに無残な死に方に観客がゲンナリしてしまうようでした。ちなみにジョン・ウェインを殺す長髪の悪役を演じたブルース・ダーンは、本作公開後にはジョン・ウェインファンから多くの脅迫状を受け取ったらしく、それは2015年にクエンティン・タランティーノが作った西部劇『ヘイトフル・エイト』出演時まで続いたそうです。

それにしても本作を西部劇と呼ぶにはいつもの西部劇とはかなりテイストが違っていて、どちらかといえば牛追いの仕事を通じて少年たちが一人前のカウボーイの成長していく職能習得物語であり、子供が大人になっていくジュブナイルだといえるでしょう。学校での少年たちは女の子たちよりも頭が悪そうで、カエルで悪戯をする小僧どもに過ぎませんが、牧場での暴れ馬のロデオシーンあたりからこれはちょっと違うぞというところを見せ始め、牛追いの旅に出てからはエピソードごとに脱皮するようにして徐々に大人の姿に変貌していくのです。この少年たちが変わっていく姿が本作の一番の見どころでして、全体的に見ると出来過ぎのストーリーでやや興覚めしてしまう部分がありながらも、見終わった後の清々しい気持ちは11人の少年たちの素直そうな演技によるところが大きいように思えます。

出演している少年たちの半分くらいは、実際にロデオコンテストに出場していた本格的なロデオ少年だったらしく、本作出演後にはスタントマンとして活躍を続けた人もいるようです。またTVでシリーズ化された本作の続編的ドラマの出演者も多いのですが、大半は本作での少年役のみで映画出演歴が途切れてしまっています。そんな中で本作後も活躍を続けたのが、スリム・ハニカット役のロバート・キャラダインで、この人はジョン・フォード監督作品にも出演していたジョン・キャラダインの息子さんなんですね。特にこれという出演作は見当たりませんが、本作をきっかけに映画やTVで活躍した俳優さんがいたというのはなんとも喜ばしいことです。

というわけで基本的には思い出深い作品でもあり、好感を持って再見したのですが、本作の最大の弱点は銃をまともに撃ったことのない少年たちがいとも簡単に刑務所出の荒くれ男たちを殲滅してしまうクライマックスのファンタジー感でした。おまけに少年の誰一人として撃たれもしないしケガもしないなんて、そんなことあり得ないですよね。牛追いとしての訓練は積んできたものの銃撃戦においては素人以下なわけですから、あまりに作り物っぽい展開になってしまうのでややシラケてしまうのは否定できません。

また、本作製作当時はまだベトナム戦争の真っ最中で、しかも前年にはプレイボーイ誌にインタビューされたジョン・ウェインが公民権運動やインディアンの権利や同性愛者に対して否定的な意見を述べたことで世間から批判を受けた時期でした。それを考慮すると、終盤に銃で戦う少年たちの描写は、当時の若者たちから見れば「お前たちもベトナムに行って銃をとって戦え」と言われているようだったかもしれません。ましてや悪役のブルース・ダーンも、ロープで縛られて馬に引きずられるという残虐な殺され方になっていて、銃には銃をという復讐物語以上の執念深さが感じられます。せっかくいいお話だったのに最後にちょいとやり過ぎたよねという感じが強く、やり返すのはほどほどにして牛と馬だけを奪い返して、少年たちがベルフーシェに凱旋するというラストにしたかったところでした。このやり過ぎがジョン・ウェイン的でもあるんでしょうけど、なんとも残念な終わり方でした。(V071322)

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