大映の「黒シリーズ」第7作は田宮二郎演じる白バイ隊員が事件を追います
こんにちは。大船シネマ館主よのきちです。今日の映画は、富本壮吉監督の『黒の爆走』です。昭和37年から39年にかけて製作された大映の「黒シリーズ」は全11作ありまして、本作はその中の第7弾にあたります。田宮二郎が白バイ隊員を演じていて、轢き逃げ事件の犯人を追うという物語は、「交通戦争」と呼ばれた交通事故の増大を背景にしたものでした。田宮二郎は昭和39年の一年間で5本の「黒シリーズ」に主演し続けることになるのでした。
【ご覧になる前に】舟橋和郎と小滝光郎が共同で書いたオリジナル脚本です
幹線道路を三台のオートバイが猛スピードで飛ばすのを見て、白バイ隊員がサイレンを鳴らして追跡を始めます。三方に分かれたうちの一台は住宅街の公演を横切ると子供を轢いてそのまま逃走しました。白バイから降りた津田は通りかかりの巡査に子供の手当を頼み、犯人を追いますが取り逃がしてしまいます。骨折で入院した子供を見舞った津田は恋人の麻子の兄で検察官の伊藤に轢き逃げ犯を捕まえる方法を訊きますが、白バイ隊員の本分を忘れるなと釘をさされます。それでも津田は手がかりを探ろうとあちらこちらのオートバイサークルに通うのでしたが…。
昭和39年の交通事故による死者数は全国合計で13,000人を超えていて、3,000人以下にまで減少した現在に比べると、まさに「交通戦争」といわれるほど自動車やバイクによる事故が多発していました。毎月1,000人以上が交通事故で命を失くしていたわけで、昭和45年には死者数は16,765人とピークに達することになります。交通事故が身近で頻繁に起きていた当時の社会問題を背景にした本作では、オートバイがメインモチーフに取り上げられています。
白バイ隊員を主人公にした脚本を書いたのは舟橋和郎と小滝光郎のコンビで、「黒シリーズ」は第1作から第6作まですべて連載小説などを原作にしていましたから、本作は「黒シリーズ」初のオリジナルシナリオものになります。舟橋和郎は戦時中に治安維持法違反で検挙された経歴の持ち主で、戦後はフリーの脚本家として『きけ、わだつみの声』を書いた後に『雪夫人絵図』や『雁の寺』で共同脚本家として名を残しています。一方の小滝光郎は市川雷蔵主演の『ある殺し屋の鍵』など大映作品でシナリオを書いた人。舟橋和郎と小滝光郎のコンビは「黒シリーズ」第9作の『黒の凶器』でも再び共同脚本を書くことになります。
監督の富本壮吉は大映東京撮影所に入社後、成瀬巳喜男の『あにいもうと』や豊田四郎の『或る女』などで助監督を務めた後に昭和35年に『暁の翼』で監督に昇格しました。大映でプログラムピクチャーを撮っていた富本壮吉は斜陽化する映画界に見切りをつけてTVドラマの演出家に転身。TV黎明期の「ザ・ガードマン」から始まって二時間ドラマを数多く手がけることになっていきます。
キャメラマンの中川芳久は大映東京撮影所でキャメラを回し続けた人で、市川崑監督の『処刑の部屋』や今井正監督の『砂糖菓子の壊れるとき』などのほかに「黒シリーズ」では本作の前に『黒の試走車』『黒の報告書』『黒の死球』を撮っています。美術の間野重雄は『鯨神』『白い巨塔』あたりが代表作で、『盲獣』では江戸川乱歩のおどろおどろしい世界を見事に具象化した人。また音楽の池野成はジャズをうまく使う音楽家で『黒の試走車』『黒の報告書』『黒の死球』『黒の商標』『黒の駐車場』と「黒シリーズ」の大半の作品に楽曲を提供し続けました。
【ご覧になった後で】田宮二郎とともにオートバイが主役を張っていました
いかがでしたか?オリジナル脚本ながらなかなか観客を引き付ける面白い展開で、1時間15分という中編っぽい尺を飽きずに見ることができました。田宮二郎が演じる白バイ隊員が仕事熱心な正義漢で好感が持てますし、子供を轢き逃げ事件に巻き込んでしまった自責の気持ちを持ちながらも婚約者の協力を得て犯人捜しをするプロセスが丹念に描き込まれていて、やっと目当ての三人組に行き着くところからは潜入捜査のようなサスペンス風味が加わってきます。自力で歩こうとする子供を抱きあげるエンディングも田宮二郎の真剣な眼差しによって感動的ですらありますし、結婚前の藤由紀子をアパートに泊めさせない潔癖さも田宮二郎の爽やかな演技でウソっぽく見えませんでした。
白バイ隊員は警視庁や県警の交通部交通機動隊に所属する警察官で、交通違反の指導・取締りに従事しています。白バイは機動力に優れていて緊急配備や被疑者の追跡などで刑事課と連携することも多く、事件発生時にはすぐに警戒態勢に入れるよう訓練されているらしいです。そういう背景からすると、交通課の白バイ隊員が本来刑事課がやるべき仕事に首を突っ込むのはあり得ないことではないのかもしれません。確かに休日を使ってまでして単独で犯人を捜索するのはやり過ぎっぽいのですが、それを不自然に感じさせないのは田宮二郎の熱心さが伝わってくるからなんですよね。
いろいろなオートバイサークルに参加するところは当時のオートバイ人気を想像させます。犯人の乗っていたのがYamahaスカイライナーだったり大阪を目指す終盤ではBSAやBMW、ハーレーダビッドソンなど輸入バイクが出てきたりするのは観客に当たり前のように理解される前提で作っていますので、当時のオートバイ人気はなかなかのマニアックさだったんでしょう。そういう背景を考えると本作のもう一人の主役はオートバイそのものだったのではないでしょうか。
十数台のオートバイが東京から沼津を経て山間部を走り抜ける展開になると、本作は地道な犯罪捜査ものから躍動感溢れるロードムービーの様相を呈してきます。ここはオートバイを走らせている間は犯人たちも全体を把握することができないというシチュエーションをうまく使って、犯罪組織によるオートバイの移送が目的であることを突き止め、逆に田宮二郎が警官であることがバレるというストーリー展開をスリリングなものにしていました。
富本壮吉の映像演出も冒頭の幹線道路での追跡シーンは横からの短い移動ショットを次々につなげてダイナミックに見せていましたし、終盤の山間部での追っかけは正面と背面から切り取ったショットをタンタンと連打してリズム感のあるアクションシーンになっていました。惜しむらくは藤由紀子が田宮二郎から犯人たちに電話するよう頼まれたにもかかわらず、そのまま電話することなく終わってしまったこと。尺数の関係でカットされてしまったのかもしれませんが、田宮二郎が首を突っ込み過ぎたために藤由紀子が危険にさらされるという王道を描いてほしかったところでした。
病院で子供を見舞った田宮二郎と藤由紀子が新居の下見に行くラストシーンもなかなか清々しい印象があって、私生活においてもこの二人が一年後に結婚することになるのを予感させるような雰囲気が漂っていました。また田宮二郎の隣人を演じた大辻伺郎や藤由紀子の兄役の藤巻潤など脇もしっかりしていて、大映「黒シリーズ」が実力派であったことを感じさせる一本でした。(A071826)

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