タワーリング・インフェルノ(1974年)

パニック映画の最高峰!オールスターキャストで三時間近い大作です

こんにちは。大船シネマ館主よのきちです。今日の映画は、ジョン・ギラーミン監督の『タワーリング・インフェルノ』です。1970年前後のアメリカは長期化するベトナム戦争の真っただ中で、ハリウッドも娯楽に徹した作品を打ち出しきれずにいました。そこに登場した新しいジャンルがパニック映画。戦う相手が自然災害や大規模事故なので、戦争賛成・反対などの政治色を出さなくて済みますし、困難に立ち向かう人びとをドラマチックに描くこともできます。たぶん最初のパニック映画は1970年の『大空港』だと思いますが、ブームの火付け役は1972年の『ポセイドン・アドベンチャー』。そしてその火を業火のごとく燃え上がらせたのが、この『タワーリング・インフェルノ』でした。

【ご覧になる前に】ハリウッド初の共作・共演・共同が話題になりました

サンフランシスコで138階の超高層ビル「グラスタワー」の落成式が開かれようとしています。ビルのオーナーであるダンカンは、落成を機に退職しようとする設計士ダグを引き留めますが、ダグは恋人のスーザンとともに都会を離れるつもりです。パーティが始まる直前、81階のストックルームの配電盤がショートし、部屋は火に包まれます。ダンカンの娘婿でもある建設主任が、予算削減のために配電工事の部品規格をダグの指定から落としたことが原因でした。やがて、火は燃え広がり、駆け付けた消防隊が消火作業を始めますが…。

各映画会社がパニック映画を製作しようと競い合っている中で、ワーナー・ブラザーズと20世紀フォックスが似たような企画を進めていることが判明しました。別々に作るよりは一緒に作って大きく儲けようという合意がなされ、ハリウッドで初めて大手メジャースタジオの共同製作が実現しました。公開されると世界中で大ヒット。日本でも1972年の『エクソシスト』を抜いて配給収入トップを記録しました。元はといえば、映画化権をワーナーと20世紀フォックスがそれぞれに獲得していた「ザ・タワー」と「グラス・インフェルノ」のふたつの小説が原作になっています。同じビル火災を題材にしていたので、この映画のためにひとつのシナリオにして、題名もふたつをつなぎ合わせたタイトルになりました。

監督はこのあと『キングコング』を撮るジョン・ギラーミン。製作のアーウィン・アレンが「アクションシーン監督」としてクレジットされていますが、要するに共同監督みたいなものだったのでしょう。アーウィン・アレンは、「宇宙家族ロビンソン」や「巨人の惑星」などのテレビシリーズのプロデューサーでしたが映画界に進出。『ポセイドン・アドベンチャー』を成功させて、その勢いでこの超大作を成功させました。

そして何よりも話題をさらったのが、スティーヴ・マックイーンとポール・ニューマンの二大スターの共演です。ハリウッドではポール・ニューマンのほうがはるかに先輩ですが、70年代においてはアメリカ映画を代表する大物同士。よってクレジットタイトルでは、マックイーンが左、ポール・ニューマンは上、に配置してどちらがトップビリングなのだかわからないような表記にしました。エンドクレジットは普通なら出演者名が上から羅列されて出てきますが、この映画では最後まで、「マックイーン左、ポール・ニューマン上」の法則が貫かれています。パンフレットやチラシでもそれ以外認められなかったようで、両者が共演する契約条件に盛り込まれていたのでしょう。

【ご覧になった後で】ツッコミどころ満載ですがやっぱマックイーンがカッコいい

いかがでしたか?パニック映画の神髄をじっくり味わえたのではないしょうか。次から次へと火災が広がって、消防隊が奮闘するものの次第に万策尽きていくプロセスが、スピード感をもって描かれていました。なので、キャメラはやたらとズームしたり、微妙にパンしたりしますし、スターが出れば必ずクローズアップになるので、映画というよりはテレビドラマを見ている気分になります。スピードが出過ぎの展開も観客にじっくり考えさせるヒマを与えない作戦のようでして、ビル火災で上層階は上昇してくる大量の煙と一酸化炭素に巻き込まれて、長時間人が滞留することなど不可能なはず。ましてや日本でも昭和三十年代に設置義務が課せられていたスプリンクラーが全く作動しないなんてことは、最新基準で建築された高層ビルでは考えられない設定です。でも、そんなツッコミをしても誰も得をしないわけで、世界的大ヒットにより防災意識を高めることにつながったのなら、この映画自体は悪い見本のままでよかったのかもしれません。

そして、やっぱりマックイーンが目立っちゃいましたね。火災を起こす側の設計士と消火する側の消防士では、もとから勝負は決まっていたのですが、マックイーンは、『荒野の七人』ではユル・ブリンナーがセリフをいう間にずっとちょこまかと細かい動きを入れて自己主張していましたし、『大脱走』では独房に入っている時間が長過ぎるからもっと活躍させろと文句を言っていたそうです。この映画もポール・ニューマンより目立つ役でなければ、オファーを受けなかったかもしれません。

オールスターキャストの中で注目は、まずウィリアム・ホールデン。火災を起こしてしまうビルオーナー役は、ある意味で憎まれ役でもありますが、1950年代にはハリウッドで一番人気を誇った俳優です。二大スターの次にクレジットされていて、その存在が尊重されていたことがわかります。また、Co-staringで最初に出るのがフレッド・アステア。説明するまでもなくアメリカ史上最高のミュージカルスターのアステアは、同じ1974年にMGMミュージカルの名場面を集めた『ザッツ・エンタテインメント』のホスト役で久しぶりに映画出演したばかり。レンタルものながらタキシードを着こなした飄然とした演技で、本作によりアカデミー賞助演男優賞ノミネート、ゴールデングローブ賞では助演男優賞を見事に受賞しました。エキゾチックな美人だったジェニファー・ジョーンズは落下死してしまい、秘書と房事に耽っている間にロバート・ワグナーは逃げ遅れ、退避するパーティ客を率先して誘導するロバート・ヴォーンは吊りカゴとともに行方不明で放置されます。出演するスターが多いと、端に行けば行くほど扱いもぞんざいにならざるをえませんね。

そんな中で一手に悪役を引き受けるのがリチャード・チェンバレン。手抜き工事を指示して電線事故を引き起こす張本人ですし、妻から離婚を匂わされるとすぐにフェイ・ダナウェイに言い寄ったりして、ついには唯一の避難路であった吊りカゴに順番を守ることなく乗り込んで、あとから来る者たちを足蹴にするカンダタぶり。彼がいるから、ウィリアム・ホールデンも悪役にならずに済んでいるので、本当に感謝しかないですね。

本作の二年前にアーウィン・アレンが製作した『ポセイドン・アドベンチャー』とは、たくさんの共通点があります。パーティしている最中に災害が起こり、避難する途中でこれ以上は進めないという難所(ポセイドンでは浸水箇所を潜らなくてはならず、本作では崩壊した階段からぶら下がって階下に降ります)が現れ、災害直前に魅力的な主題歌が歌われます。ポセイドンの主題歌「モーニング・アフター」と同じく本作の「We may never love like this again」もアカデミー賞の歌曲賞を受賞しました。今回久しぶりに聴いて、涙が出そうになるくらいに懐かしかったです。(V092721)

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