黄金の七人(1965年)

7トンの金塊を7人の男たちが盗み出す最高にゴキゲンな犯罪コメディです

《大船シネマおススメ映画 おススメ度★》

こんにちは。大船シネマ館主よのきちです。今日の映画は、マルコ・ヴィカリオ監督の『黄金の七人』です。スイス銀行の電子制御された金庫から7トンの金塊を盗み出す教授と6人の盗みの専門家たちに超グラマラスな謎の美女がからむ愉快かつゴキゲンな犯罪喜劇で、1972年にスタートした「水曜ロードショー」の記念すべき初回放映作品でもあります。金塊強奪の手口を描く前半と金塊の分け前をめぐる騙し騙されの後半が見事にマッチしているうえに音楽がとびっきりの出来栄えになっていて、1960年代のイタリア映画の代表作のひとつにあげたいくらいの娯楽作品であります。

【ご覧になる前に】ロッサナ・ポデスタはヴィカリオ監督と結婚歴があります

ジュネーヴのスイス銀行の前に黄色い車体のトラックが数台工事のために停車しました。その道路を見下ろす高級ホテルの一室に入った教授とジョルジアは、工事を始めた6人の男に無線で指令を出します。実はこの6人はヨーロッパ各地から集められた盗みのプロたちで、トラックの真下を掘って地下の配管をたどり、電子制御されたスイス銀行の金庫にある金塊を強奪しようとしているのでした。毛皮をまとったジョルジアが銀行の貸金庫に隠した発信機の電波を頼りに6人の男たちが金庫の床を地下からくり抜くと、7トンの金塊が次々と降って来るのでした…。

監督のマルコ・ヴィカリオは1950年代にはイタリア映画界で俳優として活躍していた人で、1960年代に入るとプロデューサー兼脚本家として仕事の領域を広げていきました。その中でロッサナ・ポデスタを主演に起用した作品があって、それをきっかけにしてヴィカリオとポデスタは結婚することになります。本作に続いて『続・黄金の七人 レインボー作戦』と1971年の『黄金の七人 1+6 エロチカ大作戦』では監督と女優としてコンビを継続していますが、その後二人は離婚してしまったようです。二人とも別のパートナーを見つけて、ポデスタは2013年に、ヴィカリオは2020年に亡くなりました。

スキャットによるコーラスがジャジーなムードを盛り上げる音楽が非常に魅力的なのですが、音楽を担当したのはアルマンド・トロヴァヨーリ。本作でイタリアの映画賞ナストロ・ダルジェント賞の作曲賞を受賞していて、このときに結婚していたピア・アンジェリは一時期ジェームズ・ディーンと恋人関係にあったイタリア出身の女優さんでした。トロヴァヨーリもピア・アンジェリとは離婚して、ロッサナ・ポデスタと同じ2013年に逝去しています。本作以外ではヴィットリオ・デ・シーカ監督の『昨日・今日・明日』や『あゝ結婚』などの音楽が有名なところでしょうか。

七人組が使う車もカーマニアには見どころになっているのではないと思いますが、車音痴なのでフォルクスワーゲンビートルとシトロエンのタイプHくらいしかわかりませんので、ぜひ車に詳しい方に教えていただきたいところです。すべて黄色い塗装で登場しますが、なぜ黄色なのかは映画を見てのお楽しみとさせていただきましょう。

【ご覧になった後で】これこそが泥棒映画の決定版でイタリアらしい傑作です

いかがでしたか?この映画は現在でも曜日を変えて継続しているTVの洋画放送枠「水曜ロードショー」の初回放映作品で、そのときにリアルに見たのが映画体験の原点となっており、『大脱走』『シャレード』とともに大変思い出深い作品であります。そんな個人的な思い入れはともかくとして、これほど完璧な構成の泥棒映画はほかにはないというくらいに、泥棒映画の決定版というか完成品というか90分の上映時間があっという間に過ぎてしまうイタリア映画の傑作でしたね。

とにかくオープニングタイトルからしてアルマンド・トロヴァヨーリの音楽にのって7人の男とひとりの女が紹介される小気味よさが早速観客を愉快な気分にさせてくれます。ベースラインが強調されたスローテンポと女性スキャットに男性コーラスが混じるアップテンポが交互に繰り返されて、それが黄色い車の列と灰色のジュネーヴの街並みにマッチしているんですよね。このタイトルシークエンスだけでもご馳走感が溢れていて目が離せません。

そしていきなり道路工事を装って金塊強奪作戦が開始されるスピード感。計画段階なんかすっ飛ばしてもう実行段階ですよ。プランはフィルップ・ルロワの頭の中で完成されているのですから、いかに金塊を盗み出すかのプロセスをたたみ込むように見せてくれるという展開でよいのです。強奪プロセスの描写ではトラックから下へ掘り、次が水道管を潜って横への動きになり、最後は金庫下の地下通路を経て、金庫の床に向けて真上に貫通させるという「下・横・上」の方向感が見事に伝わってきました。それぞれの関門を突破する際にはダイナマイト音を隠すために騒音作戦を発動したり、銀行内にカメラを置いて守衛の位置を確認したりという地上部隊との連携が痛快でしたし、金塊を運搬するのにベルトコンベアでトラックまで持ち上げるという奇抜なアイディアもサイコーでした。

もちろんこの窃盗の手口は細かく突っ込むならば、潜水着まで用意してわざわざ水道管で移動したのに金塊はなぜか流しそうめんスタイルで簡単に横穴を移動してしまいますし、様々な装置の設営と撤去がそんなに短時間にできるわけがないだろうと思ってしまいます。そこらへんは映画のウソをうまく使っていて、空間や時間の矛盾を忘れさせるくらいに金塊強奪の手法の手際良さが前面に出ていました。

双葉十三郎先生も本作のことを「ドロボー映画は数々あれど、これは大いにみとめてよろしき一篇」と評しておられますが、この金庫の真下を地下から穴をくり抜いて中身を奪い去るという手法はたくさんの亜流を生むことになりました。「ルパン三世」の一番最初のシリーズの最終回「黄金の大勝負」はルパン一味が大日本銀行から大量の小判を盗み出すエピソードですが、五エ門が手掘りで金庫下の厚い金属製の床を掘り当てて、斬鉄剣で床を丸くくり抜くという手口にアレンジされています。『黄金の七人』では支えきれなくなった金塊の外側が穴に崩れ落ちるのですが、「ルパン三世」では丸く切った厚い床が五エ門の頭に落ちてくるというオチになっていました。

そして後半は誰が誰を騙しているのかわからなくなるような金塊の奪い合い騒動に変わるのですが、ロッサナ・ポデスタが銀行の支配人と結託していた悪党だったというヒロイン像は、たぶん本作が初めてだったのではないでしょうか。女性が単なる添え物ではなく、実は一番のワルだったという女性上位時代を予言したストーリー展開をもっていたことは、1965年という製作年度を考えれば高く評価できると思います。そして最後に金塊がぶちまけられて、結局は指をくわえて立ち去るしかないというエンディングも非常にエスプリが効いていました。最後にお宝がパーになるというパターンは『地下室のメロディー』のプールに浮かぶ札束や『大頭脳』で船に引き上げられた自由の女神像から札が舞い散る例があります。それに比べると『黄金の七人』でのトラックが坂を下っていくという結末は非常にリアル感がありつつ滑稽な感じが強調されていて、本作が犯罪コメディである印象を深めるような効果がありましたね。

教授に使われる男たちが全員Aから始まる名前を持っていて、ヨーロッパ各地の出身であるという設定も洒落ていたのですが、たぶんどの国出身なのかがイタリア語の訛りや髪の毛の色や態度などで表現されているのだと思います。それが読み取れないのがちょっと悔しいところでした。一方でロッサナ・ポデスタがとっかえひっかえ様々なファッションを身にまとって登場するのはややもするとB級っぽくなってしまう泥棒映画をゴージャスなクラス感のある作品に引き上げていました。もちろん衣裳だけでなくほとんど裸同然の網スーツやブルーの毛皮だけみたいな演出もロッサナ・ポデスタがもつエロティックな魅力を最大限に引き出していましたね。

映画のストーリーも登場人物も雰囲気も音楽もすべてが1960年代を象徴するようでしたし、オープニングタイトルの色使いや衣裳デザインのカラーや車体の色など、作品全体で色彩設計がカラフルにコントロールされていたのも印象的でした。このカラフルな感じがそのまま1960年代のイタリアアクション映画を代表しているように感じられて、その意味でもやっぱり『黄金の七人』はこの時代が生んだ傑作のひとつといっていいでしょう。(U020223)

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