必殺仕掛人(昭和48年)

TVで人気爆発した時代劇「必殺シリーズ」第一作の映画化作品です

こんにちは。大船シネマ館主よのきちです。今日の映画は、渡邊祐介監督の『必殺仕掛人』です。「必殺シリーズ」といえば「必殺仕事人」がすぐに思い浮かぶところですが、TVシリーズのスタートは「必殺仕掛人」。そもそも池波正太郎の原作が「仕掛人・藤枝梅安」ですから、そこに必殺と命名したのがシリーズ第一作となったのでした。仕掛人シリーズのあとを継いで、藤田まこと扮する中村主水が主役の「必殺仕置人」が再スタートしたときには「お仕置きって何?」みたいな感じだったのが思い出されます。とまれ、そのTV人気にあやかって映画化した松竹は、図に乗って本作のあと続けざまにあと二本も作ってしまったのでした。

【ご覧になる前に】裏稼業を主人公にして復活した時代劇ブーム

口入屋の音羽屋半右衛門の裏稼業は、依頼された殺人を代行する「仕掛け」。鍼医者の梅安と包丁研ぎの浪人左内を使って、今日も辻屋の女房におさまっていた女泥棒を心臓発作と見せかけて殺害しました。その様子を見ていたのが女泥棒のかつて相方だった孫八。ひと仕事を終えて温泉宿へ向かう梅安たちのあとを密かに追うのですが…。

昭和40年代といえば、まだ時代劇がTVの人気番組だった時期。人気シリーズがスタートしたのもこの時期で「銭形平次」が昭和41年、「水戸黄門」が昭和44年、「大岡越前」が昭和45年に放映を開始しています。いずれも正義のヒーローが主人公で1時間ドラマの最後には悪人がハハーっとひれ伏すワンパターンの展開。それはそれでその後も長く続く一方で、当時の日本は第二次安保闘争をはさんで、よど号ハイジャック事件やあさま山荘事件などが連続して勃発していた混乱期。そんな世相を反映して40年代後半になると時代劇でもアンチヒーローが登場するようになります。その嚆矢となったのが「木枯し紋次郎」。三度笠に長い爪楊枝をくわえて「あっしにはかかわりのねえことでござんす」とニヒルな見得を切る中村敦夫は、このTVシリーズで一気に人気俳優になりました。このブームに乗っかろうとして始まったのが「必殺仕掛人」。フジテレビ系列で土曜夜10時から放映していた「木枯し紋次郎」に対して、TBSネットが10時30分から「必殺仕掛人」をぶつけてきたのです。しかも仕掛人は世のため人のために悪人を暗殺する、いわば義賊の話。これなら人気が出ないわけがありません。当時、土曜の夜は10時から30分だけ「木枯し紋次郎」を見て、10時30分になると「必殺仕掛人」にチャンネルを変えるという家庭が多かったのではないでしょうか。

TVシリーズは京都の松竹撮影所で製作されていましたので、映画化権はすんなりと松竹が握ることになりました。しかし映画版の出演者はTVシリーズとは違っていて、緒形拳がやった梅安を田宮二郎が、林与一がやった左内は高橋幸治が演じています。TV放映は昭和48年4月で終了していて、映画の公開は6月。製作期間がかぶっていたのかもしれませんし、大映オーナーの永田雅一とケンカしてフリーになっていた田宮二郎が松竹に営業をかけていたのかもしれません。そんな中で山村聰だけはTVも映画も元締め役で出ていて、どっしりと安定した演技を見せてます。

【ご覧になった後で】せっかくの映画化なのに作品のクオリティはTV並み

この映画を見ていると、TVシリーズの映画化って何なんだろうと考えこんでしまいます。この程度の出来ならばTVの1時間半特番で十分だったのではないでしょうか。まず脚本がひどいです。仕掛人はその存在すら知られないからこそ仕掛が実行できるわけなのに、温泉につかりながら大声で仕掛の反省会をやったり、お互いの本名を呼び合ったり、銭湯で仕掛ける相手がいるところで今度仕掛けるのはあいつだなどと囁き合ったり。本当のプロなら絶対にこんなことはしませんよね。決定的なのは高橋幸治の左内が室田日出男の同心峯山を殺害するところ。なんと左内は番所で「峯山はどこだ」と問いかけ、さらには峯山の妾に顔を見られています。そのあとで峯山が殺されたのだったら、すぐに下手人の疑いで捕まってしまうでしょう。また、孫六と吉が混浴するのを梅安と千蔵が覗き見る場面。会話から吉が梅安の妹だということがわかる重要な場面ですが、覗いている千蔵のセリフが「チッ、遠くで何言っているのか聞こえねえや」。観客には、梅安が聞こえていないことくらいわかっていますってば。なんでわざわざセリフで言わせるかというと演出がダメだからです。覗いている側と覗かれている側の距離感をしっかり映像化しないから、そんな説明文をいれるはめになるんですね。渡邊祐介という監督も才能ない人みたいで、やたらズームは使うし、無駄に移動撮影を使うし、意味のないショットを入れるし、演出レベルはTVドラマ以下です。同時に松竹撮影所のスタッフの仕事の雑さ。風呂の場面では鬘が浮いているのがわかってしまい、長屋の奥の夕焼け空は明らかに書き割りですし、窓の外に見える雨がまるでジョウロを振り回しているような降り方。映画として見ていられないくらいひどい出来です。

それに比べると俳優たちは頑張っていて、特に千蔵役の津坂匡章はいいですね。秋野太作の芸名でご記憶の方のほうが多いと思いますが、寅さんの舎弟の登として「男はつらいよ」シリーズの常連俳優でした。中でも印象深いのが、本作の前年に出ていたNHKのTVドラマ「天下御免」。これは今ではビデオ映像もほとんど残っていない幻の作品で、早坂暁脚本、山口崇主演、タイトルバックのイラストを黒鉄ヒロシが担当した平賀源内を題材にした痛快時代劇でした。そこで稲葉小僧という鼠小僧的な役をやっていたのが津坂匡章。本作で梅安を助けようと川に飛び込んで逆に溺れそうになるシチュエーションは「天下御免」の中にも出てきたような気がします。

それにしても本作で気になるのは、前後の脈絡なく出てくるエロシーン。急に銭湯の女湯になったり、天井からのぞくとちょうど房事の最中だったり、そして野際陽子までヌードを披露したり。まあ、あの国民的時代劇シリーズ「水戸黄門」ですら、由美かおるの入浴シーンがお決まりだったのですから、昭和のTVではエロも当たり前だったのですね。そして、なぜ土曜の夜に10時から「木枯し紋次郎」がやっていて、10時30分から「必殺仕掛人」が見られていたかといえば、TVのチャンネル権はお父さんが握っていた時代だったからです。チャンネル権をもっているお父さんにチャンネルを合わせてもらうためにエロシーンが必須だったのですね。今では想像もできません。現在では、土曜の夜どころか、毎日朝から深夜までお父さんを対象にした番組などひとつもないですし、そもそもお父さんにチャンネル権がある家庭など世の中のどこを探しても皆無でしょう。(A101321)

コメント

スポンサーリンク
タイトルとURLをコピーしました