大地震(1974年)

劇場公開時に最新音響システム「センサラウンド方式」が話題を呼びました

こんにちは。大船シネマ館主よのきちです。今日の映画は、マーク・ロブソン監督の『大地震』です。1970年代に大流行した災害パニック系のディザスター映画で、ロスアンゼルスの街がマグニチュード7の大地震に見舞われる設定になっています。1974年の劇場公開時には映画館の最前列の席をとっぱらってスピーカーシステムが並べられて大音量で館内の座席を震わせる「センサラウンド方式」が導入されて話題を呼んだ作品で、同年の全世界興行収入で7位に入るほど大ヒットしました。ちなみにその年の1位は同じくディザスター映画の『タワーリング・インフェルノ』です。

【ご覧になる前に】『ゴッドファーザー』原作者マリオ・プーゾの脚本です

ランニングから自宅に帰ったスチュワートは妻のレミーと口論となり車でデニスの家を訪ねます。一人息子と暮らすデニスはスチュワートの亡くなった同僚の妻で、息子にサイン入りフットボールを持って行ってやったのでした。女優のオーディションを受けるデニスとセリフの練習をしたあとで建築会社に出勤したスチュワートは社長で義父のサムから次期社長就任を告げられます。その頃街中でひき逃げ犯人を追ってパトカーを市内から郡へ抜けて走らせていたのは警察官ルーでした…。

1970年代のアメリカ映画ではいわゆるディザスター映画が流行っていて、その嚆矢となったのは1970年に公開された『大空港』でした。製作したユニバーサル映画は『大空港』がヒットすると、プロデューサーのジェニングス・ラングに次のパニック映画を企画させます。1971年2月にカリフォルニア州のサンフェルナンドバレーで発生したマグニチュード6.6の地震がヒントになり、ラングは大都会での地震を題材にしようと考えます。

オリジナル脚本の執筆を依頼されたのがマリオ・プーゾで、プーゾは言うまでもなく『ゴッドファーザー』の原作者でありフランシス・フォード・コッポラと共同で脚本を書いてオスカーを受賞した作家。プーゾが書いた初稿ではロスアンゼルスの広範囲が舞台となっていて登場人物が多岐にわたっていたため製作予算の膨大化にユニバーサル映画の幹部たちは企画を進めることに難色を示したそうです。時を同じくしてパラマウントで『ゴッドファーザーPARTⅡ』の製作が開始されてマリオ・プーゾは本作の脚本執筆を続けることができなくなってしまいました。

マリオ・プーゾの初稿を引き継いだのは当時雑誌記者で脚本を書いた経験のないジョージ・フォックス。監督のマーク・ロブソンの助けを借りてフォックスは10回以上脚本の書き直しをさせられたそうで、それで嫌気をさしたのかジョージ・フォックスの脚本家キャリアは本作のみで終わっています。マリオ・プーゾも『ゴッドファーザー』三部作以外では本作と『スーパーマン』シリーズくらいしか脚本を残せませんでした。

マーク・ロブソンはRKOのB級映画で監督デビューした人で、スタンリー・クレイマー製作の『チャンピオン』で名を上げました。ウィリアム・ホールデン主演の『トコリの橋』やポール・ニューマン主演の『逆転』、フランク・シナトラ主演の『脱走特急』などの代表作がありますが、本作の後で監督した『アバランチエクスプレス』の完成直前に六十四歳で急逝しました。

スチュワートを演じるチャールトン・ヘストンは本作と同じ年にユニバーサル映画が『大空港』の続編として作った『エアポート’75』でも主演をつとめていて作品に重量感をもたらしていた男優でした。妻役のエヴァ・ガードナーは1960年代後半から出演作が少なくなっていた中での起用で、本作の前後には『ロイ・ビーン』や『カサンドラ・クロス』があります。プロデューサーのラングは妻役にオードリー・ヘプバーンを起用しようとヨーロッパまで交渉に行ったという逸話が残っていますが、オードリーがこんなパニックものに出演するわけがなく、プロデューサーによる単なる話題作りだったのではないかと勝手に推測しています。

そして『大地震』といえば「センサラウンド方式」となるのでありまして、ロードショー公開時にめちゃくちゃ話題になった最新式音響システムで上映されたのでした。この「センサラウンド方式」とはユニバーサル映画とMCAが共同開発した音響上映システムで、重低音専用スピーカーをスクリーンの背後に4台、劇場内後方に2台セットすることで観客の体に音の振動を体感させる特殊効果を生み出す仕組みでした。日本ではスクリーンの背後にスピーカーを置くなんてことができる映画館は限られており、劇場最前列の椅子をとっぱらって空いたスペースにサブウーファーを並べることになりました。

しかしながらアメリカでも振動の影響で映画館の天井から石膏や塗料の破片が落下するという事態が発生したり、日本でも日比谷の映画館に隣接する劇場に音が響いて芝居に出ていた山田五十鈴が激怒したりで、「センサラウンド方式」なのに音量を絞って上映するみたいな措置が取られたそうです。本作で鳴り物入りでデビューした音響システムは『ミッドウェイ』『ジェット・ローラー・コースター』『宇宙空母ギャラクティカ』の三作品に引き継がれただけで消え去る運命にあったのでした。

【ご覧になった後で】大地震発生だけでよく2時間の映画に出来たものです

いかがでしたか?1975年正月映画として劇場公開されたとき以来の再見で懐かしさ半分で見たのですが、当然ながら「センサラウンド方式」ではなく単なるサブスク配信でしたので音響で地震を体感させるという武器を持たないままの素の状態で見ると、地震が起きるというだけでよくもまあ2時間の長尺作品に仕立てたなあと感心してしまったのでした。そして感心はそれだけのことで、ストーリーもキャラクターも映像効果もどれもあまり面白いとは言えず、レナード・マルティンが「BOMB」印をつkるだけのことはあるなという作品でした。

『ゴッドファーザー』の作者であるマリオ・プーゾが本当に初稿を書いたのかと疑ってしまうほど、登場人物の中に魅力的なキャラクターがいないので、誰に焦点を当てて見ればよいのか観客は迷ってしまうんですよね。チャールトン・ヘストンとエヴァ・ガードナーは映画の冒頭から罵りあっていて、そのギスギスした関係は2時間の中で全く変化がありません。ジュヌビエーヴ・ビジョルドは家族がいるチャールトン・ヘストンとあっさり寝てしまうくらいの浅いキャラクターで、地震で脳震盪を起こした息子への愛情も不足しているように見えてしまいます。

さらにそこにサブキャラがからんできて、リチャード・ラウンドトゥリーのバイク曲芸師はスタントトラックが地震で倒れるところを見せるためだけに出てきたようにしか見えませんし、スーパーのレジ係からいきなり軍隊で指揮を取るマージョ・ゴートナーはグラマラスなヴィクトリア・プリンシパル(この女優は本作出演後にTV映画製作プロダクションを興したりスキンケア商品をヒットさせたりと起業家として大成功したそうです)を幽閉するのも男性客が喜びそうなエロ要素を入れる意図しか感じませんでした。要するに上映時間を2時間に延ばすためだけの設定でしかないわけで、というのも売りである「センサラウンド方式」が地震発生シーンの8分間しか稼働させられず、その前後に無駄な話を盛り込まないと「センサラウンド方式」だけの作品になってしまうからなのでした。

そんな中でも建設会社社長を演じるローン・グリーンはなかなかロマンスグレーが似合うジェントルマンで経営トップ自ら従業員を助けるために死力を尽くす姿がカッコよかったですよね。でも撮影当時五十九歳のローン・グリーンが五十一歳のエヴァ・ガードナーの父親だという設定はあまりに無理があり過ぎて、せめて兄くらいにしておけばよかったのにと思ってしまいました。

そして驚愕したのがラストでチャールトン・ヘストンとエヴァ・ガードナーのトップビリング二枚看板が死んでしまう展開。チャールトン・ヘストンなんだから絶対に助かるはずだよねと思って見ていたら、なんと崩壊したダムの水流にのまれた妻を後追いしてしまうのは、アメリカ映画のお約束からは考えられない結末でした。なんでも当初は妻が流されてスチュワート技師は未亡人デニスと結ばれて街の再建に尽くすというよくあるエンディングだったところ、チャールトン・ヘストンが「道徳的に正しくない」「予測可能な結末」だとして撮影を拒否したらしいですね。確かにエヴァ・ガードナーが死ぬのを黙って見逃すような人物をチャールトン・ヘストンは許せないでしょうし、エヴァ・ガードナーにしてみれば最初から最後まで損な役回りで、おまけにクライマックスはびしょ濡れになって化粧も落ち老醜をさらしながら激流に消えるという悲惨な状況なのですから、よくこんな役のオファーを受けたなあと感心してしまうくらいでした。

あとはパニック映画に欠かせないジョージ・ケネディと酔っ払いでカメオ出演したウォルター・マッソーの二人が印象に残る程度でしょうか。ウォルター・マッソーは「ウォルター・マトゥシャンスカヤスキー」というクレジットを出すことを条件にノーギャラ出演を承諾したんだそうで、しかもこの名前は彼の本名でもなんでもないんだとか。ウォルター・マッソーはこのカメオ出演前後に『突破口!』『マシンガン・パニック』『サブウェイ・パニック』『フロント・ページ』と立て続けに話題作に主演していたキャリアピーク期でしたので、劇場公開時に見たときも子供心に「あ、ウォルター・マッソーが出てる」と思った記憶があります。

一番の見せ所の大地震が発生するのはいつどこなんだろうと思って見ていたら、ヴィクトリア・プリンシパルが映画館で『荒野のストレンジャー』を見ているときで、上映フィルムが焼き切れるのは良いにしてもなぜ暗い室内を大地震発生の舞台に選んだのか理解できませんでした。もっと映像的にインパクトを与えられる表現はあったと思いますし、例えば息子にプレゼントしたフットボールが飾り棚から落ちるとかスチュワートとレミーの結婚記念写真が割れるとか地震発生をメタファー的に使うことなんて素人でも思いつきます。映画館では絵的にも広がりがなく観客の想像力を引き出せませんし、おまけにこの映画館内部のショットはストックフィルムの使い回しらしくて、『大地震』という作品の一番の見せ所で手抜きをしたのは致命的ミスだったのではないでしょうか。

それでも地震発生後のロスアンゼルスの街を遠景でとらえたショットやビルの上階から人々が落ちるショットではマット合成の特殊効果がそれなりに利いていてがんばってるなという印象を持ちました。たぶん公開当時は音響だけに注目が集まった(アカデミー賞音響賞をゲットしてます)でしょうから、特殊効果班は忸怩たる思いだったことでしょうね。(A090626)

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