ホット・ロック(1972年)

ロバート・レッドフォードがダイアモンドを盗み出すクライムコメディです

こんにちは。大船シネマ館主よのきちです。今日の映画は、ピーター・イェーツ監督の『ホット・ロック』です。博物館に展示されていた「サハラの宝石」というダイアモンドを盗み出すのですがダイアモンドそのものをなかなか手に入れられないという犯罪喜劇で、ロバート・レッドフォードと仲間三人が互いの得意分野を活かした盗みのプロとしてチームプレーで働く展開になっています。監督は『ブリット』で見事なカーチェイスを演出したピーター・イェーツ。音楽をクインシー・ジョーンズが担当しているのにも注目です。

【ご覧になる前に】原作はジョン・ドートマンダーシリーズの第一作です

刑務所から出所したドートマンダーは迎えに来た義弟ケルプのキャデラックに乗り込むと早速大きな盗みの計画について知らされます。博物館に展示された「サハラの宝石」と呼ばれるダイアモンドの所有権を主張するアフリカの中央バタウィ国のアムーサ大使は、10万ドルの報酬と日当の支払いを条件にダイヤモンド強奪を依頼しました。二人は爆弾のプロ・アランと運転のプロ・スタンに声をかけ、深夜の博物館前で自動車を爆発させ警備員たちの気をそらせている間に展示ケースの鍵を開けて宝石を盗み出すことに成功しますが、逃げる途中で宝石を持ったアランが捕まってしまいます。ドートマンダーは刑務所からアランを脱獄させようと計画を立てるのですが…。

原作はドナルド・E・ウェストレイクが書いた犯罪小説で、ウェストレイクは空軍除隊後に小説を書き始めて100冊にも及ぶ著作を残した人です。リチャード・スタークのペンネームで書いた「悪党パーカーシリーズ」はリー・マーヴィン主演で『殺しの分け前/ポイント・ブランク』として映画化されました。ウェストレイク名義で書いたのが、ジョン・ドートマンダーを主人公にした「ドートマンダーシリーズ」で、16作まで書かれたうちの第一作が「ホット・ロック」でした。1970年に出版された小説にいち早く目をつけた20世紀フォックス社がロバート・レッドフォード主演で映画化したのが本作です。

ロバート・レッドフォードは舞台からTVを経て1962年に映画デビューしますが、はじめてスポットライトを浴びたのは1969年の『明日に向って撃て!』で、ポール・ニューマンとの共演が話題を呼びスターの一人となったレッドフォードには出演オファーが殺到するようになりました。1972年にはシドニー・ポラック監督の『大いなる勇者』、マイケル・リッチー監督の『候補者ビル・マッケイ』とこの『ホット・ロック』の合わせて三本の映画に出演していて、翌1973年には『スティング』『追憶』に主演してハリウッドのトップスターの座に躍り出ることになります。

ウェストレイクの小説を脚色したウィリアム・ゴールドマンにとって本作は1969年に『明日に向って撃て!』でアカデミー賞脚本賞を受賞した直後の作品にあたります。ゴールドマンはなぜかレッドフォードの作品を多く担当していて、『華麗なるヒコーキ野郎』『大統領の陰謀』『遠すぎた橋』などレッドフォード主演作品で脚本を書いています。

監督のピーター・イェーツはイギリスで映画を作っているところをスティーヴ・マックイーンに見い出されてアメリカに渡り『ブリット』で監督に起用されました。『ブリット』でのカーチェイスは新しいアクション映画の潮流を作ることになり、ピーター・イェーツも次々に新作を発表するようになりました。ダスティン・ホフマン主演の恋愛映画『ジョンとメリー』を作った後にイギリスで戦争映画『マーフィの戦い』を製作し、そして本作では軽妙な犯罪喜劇に挑戦していて、ジャンルを問わない器用な監督として1980年代前半まで活躍を続けることになっていきます。

音楽を担当したクインシー・ジョーンズは元はジャズのトランペット奏者でしたが、1960年代には音楽プロデューサーとしてエラ・フィッツジェラルドやフランク・シナトラの新作を手がけるようになりました。その一方で映画音楽にも進出して『夜の大捜査線』や『ミニミニ大作戦』などで楽曲を提供しました。この『ホット・ロック』ではクインシー・ジョーンズの要請でエンドタイトルに演奏者の名前がクレジットされることになったらしく、そこでベースのレイ・ブラウンやサックスのジェリー・マリガンの名前を見ることができます。

【ご覧になった後で】盗んだはずのダイヤが手に入らないところがミソでした

いかがでしたか?最初の博物館からダイアモンドを盗むシークエンスがあまりにずさんで、ずさんというのは計画そのものもそうですが演出が非常に下手くそで、鍵を開けるのにタラタラと時間をかけるし、もし警備員が事故対応に行かず残っていたらどうするのかのBプランもないし、そもそも救急車が来るのも遅いし、救急隊員が見たらすぐに偽装だとバレるでしょと、すべての面において観客がイライラしてくるような展開でした。ガラスケースにケルプが閉じ込められるのは少しおかしみがあって良いのですが、その後も逃走計画が徹底されておらず、アランが捕まるところも演出に締まりがありませんでした。この盗みの場面では本当に眠くなってきてしまうくらいのつまらなさでしたね。

ところがその序盤のタラタラした感じは中盤以降をより盛り上げるためにわざと低調にしたのではないかというくらい、途中からエンジンがかかってきます。刑務所からアランを脱走させるシークエンスでは自動車をトレーラーの中に隠してやり過ごすという手口が効いていましたし、警察署の屋上にヘリコプターで乗りつける場面ではコメディタッチを活かして爆弾を使用する荒っぽさを緩和させるように見せていました。さらにはアランの父親という新しいキャラクターを参戦させて、ダイヤの在り処がわかったのに手が出せない貸金庫というシチュエーションがテンションを維持させる効果を出していました。

もちろんこのプロット自体は小説のもつ面白みなんでしょうけど、ピーター・イェーツの語り口がスマートなので、弁護士はどうやって留置所の中からダイヤを取り出したのかなんていうちょっとした疑問をうまくスルーしながらスピーディな展開に持ち込んでいるんですよね。四人組もロバート・レッドフォードだけならカッコよすぎてしまうところをジョージ・シーガル以下の三人がそれぞれの個性を発揮しているので、チームワークのほうが目立つようになっています。弁護士を演じるゼロ・モステルはもとはナイトクラブのコメディアンだったらしく、アクの強さを抑えた憎めないキャラクターを演じていました。

なので基本は原作をうまく映画向けに仕立て直したウィリアム・ゴールドマンの脚本がうまかったということになるのかもしれません。盗みの映画なのに盗む場面よりもその後のあれこれの方が面白いという構成もちょっと他では見られない組み立て方になっていますし、最後の難関となる貸金庫も呪術師に頼んで「アフガニスタンバナナスタンド」という呪文で金庫番の男が指示通りに動くようになるという仕掛けがいかにも本作にふさわしい裏のかき方でした。

というわけでラストでダイヤモンドをポケットに入れてニューヨークのストリートを軽快に歩き出すレッドフォードを横からとらえた移動ショットが最高に愉快な気分を伝えてくれました。どうやらこの移動ショットはほとんどゲリラ的に撮影したようで、たまたま向かい側のビル工事を見上げていた男性の横を通るときにレッドフォードが一緒になって上の方を見上げたりする動作が入っています。そんなアドリブ的演出も含めて、『ホット・ロック』の軽妙さはこの愉快な移動ショットに象徴されているのかもしれません。(V021523)

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