リー・マーヴィンが12人の囚人による特務部隊を指揮してドイツに潜入します
こんにちは。大船シネマ館主よのきちです。今日の映画は、ロバート・アルドリッチ監督の『特攻大作戦』です。ノルマンディ上陸作戦が実行される直前にドイツに潜入してナチス将官たちが集う城館を破壊するという特殊任務を描いた戦争アドベンチャー作品で、その特務部隊が死刑など重罪を言い渡された軍紀違反者12人による囚人部隊で結成される設定が、その後のアクション映画に多くの影響を及ぼしました。1967年の全米興行収入ランキングで第5位にランクインしていて、当時のMGMに多くの利益をもたらしました。
【ご覧になる前に】「Dirty Dozen」が髭も剃らない不潔な12人を表します
イギリス先遣アメリカ陸軍の刑務所で軍紀違反を犯した囚人の死刑が執行されたのを見届けたライズマン少佐はウォーデン少将に召喚されて特殊任務につくよう命令されます。ノルマンディー上陸作戦の直前にドイツ軍の指揮命令系統を混乱させるためナチス将官が毎夜集まる城館を破壊せよというミッションを12人の囚人部隊で遂行することになったライズマンは、陸軍刑務所で12人のメンバーたちに「任務をやり遂げれば罪を帳消しにする」と言って早速専門の宿舎を建設させて訓練を始めます。しかし囚人たちはそれぞれに反発し、脱走を図ったり仲間割れを起こしたりするばかりでした…。
原作を書いたE・M・ネイサンソンは俳優出身の作家で1965年に「The Dirty Dozen」を出版しました。なぜ「Dirty」かといえば、髭も剃らず風呂にも入らずに戦場に赴く「Dozen」(1ダース)の兵士たちだからです。脚色を担当したヌナリー・ジョンソンはロンメル将軍を主人公にした『砂漠の鬼将軍』のプロデューサー兼シナリオライターをやった人で、TVシリーズの「ヒッチコック劇場」出身で『飛べ!フェニックス』の脚本を書いたルーカス・ヘラーとともに2時間30分のシナリオに仕上げました。
監督のロバート・アルドリッチは1918年生まれですから本作製作時には五十歳に手が届こうかという壮年にさしかかった時期でした。RKOに入社して助監督を経て監督に昇進、三十六歳のときにゲーリー・クーパーとバート・ランカスターが主演した『ヴェラクルス』をアクション満載の西部劇として撮って注目を浴びます。『攻撃』など戦争映画を作る一方でベティ・デイヴィス主演の『何がジェーンに起こったか?』でサイコホラー作品を撮るなどエンタテイメント路線で腕を奮いました。本作で大成功を収め莫大な利益を手にしたロバート・アルドリッチは、自身の映画スタジオを購入してプロデューサー兼務で映画製作を始めますが、あまり興行的にはパッとしない作品が続きたぶんスタジオは手放すことになったのでしょう。名声を取り戻すのは監督専業に戻ってからの『北国の帝王』と『ロンゲスト・ヤード』あたりのこととなりました。
主演のリー・マーヴィンは1964年に『殺人者たち』で主役を演じ、1965年の『キャット・バルー』で見事アカデミー賞主演男優賞を獲得しました。本作の前年にはリチャード・ブルックス監督の『プロフェッショナル』でバート・ランカスターやクラウディア・カルディナーレなどの一流スターたちとの競演に名を連ねて、ハリウッドの個性派俳優として活躍していた時期の主演作となります。しかし本作撮影時にはかなり酒に溺れていたようで、酔っ払って遅刻することもしばしばでチャールズ・ブロンソンが到着した車から転がり落ちたリー・マーヴィンをひっくり返して起こさなければならなかったくらい酩酊状態だったようです。
陸軍の上官には後に『北国の帝王』に主演するアーネスト・ボーグナインとイタリア映画の『殺しのテクニック』で主役をつとめたばかりのロバート・ウェバーが配役され、リー・マーヴィンと対立する大佐役のロバート・ライアンは『プロフェッショナル』に続いての共演となります。囚人役では1959年に『アメリカの影』で監督デビューしたジョン・カサヴェテスが異常性の高い死刑囚で出てきますし、NFLのクリーブランド・ブラウンズで活躍していたアメリカンフットボール選手のジム・ブラウンが本作出演を契機にスポーツ界から引退して正式に映画界入りしました。また、テリー・サバラスやドナルド・サザーランドが本作の囚人役で注目されて、俳優として大きく飛躍するきっかけをつかんでいます。
【ご覧になった後で】粗いながら面白い出来ですが非戦闘員を虐殺するのは…
いかがでしたか?2時間30分の長尺で長ったらしい映画なのかなと思いながら見始めるとなかなか面白く仕上がっていて、一気にラストまで楽しませてくれる戦争冒険ものでした。リー・マーヴィン演じるライズマン少佐が特殊任務を言い渡される導入があって、12人の囚人を兵士として訓練、特務部隊として少将に認められる軍事演習、そしてナチスの城館襲撃と、起承転結がはっきりと分かれた明快なプロットでシナリオが構成されていました。その意味ではしっかりした原作を見つけたことが本作の成功要因だったんでしょう。
12人の囚人による特務部隊という設定は本作以降も流用されるようになったようで、罪人にある任務を命じて成功すれば特赦を与えるというテーマ設定の亜流がたくさん生まれることになりました。『ランボー 怒りの脱出』やフランス映画の『ニキータ』なんかがこのパターンですよね。でも大元をたどると、やっぱり黒澤明の『七人の侍』に行き着くような感じもありまして、まったく関係ない男たちが集合してひとつのミッションをやり遂げるという映画はぜんぶ『七人の侍』に影響を受けているといってもいいんじゃないでしょうか。
黒澤明の映画的発想のすごいところはそれでも集団は7人までが限度と制限を設けたことでもあります。というのは本作の12人は決して全員がはっきりキャラクタライズされているわけではなく、顔と名前が一致するのは半分くらいで、残りは結局「その他大勢」扱いに終わってしまっています。真っ先に反抗するジョン・カサヴェテス、最終的には副官的に活躍するチャールズ・ブロンソン、唯一の黒人で犠牲的ヒーローとなるジム・ブラウン、将軍の真似をさせられるドナルド・サザーランド、なぜか現場で狂気に陥るテリー・サバラス、筋肉隆々のクリント・ウォーカー、この6人くらいしか印象に残りませんでした。なので城館襲撃で次々に死んでいく囚人たちを見ても、半分くらいはドイツ兵がやられるのと変わらないくらいの描き方にしか感じられませんでしたね。
本作で一番盛り上がるというか痛快なのは、軍事演習でロバート・ライアン演じる大佐が指揮する赤軍本部を占拠するシークエンスでした。ルール破りをしているのは奇襲作戦を成功させるためなのであまり気になりませんし、リー・マーヴィンが全面に出ていないのに囚人たちだけでやり遂げてしまうところに痛快さがありました。それにくらべるとナチス城館襲撃シーンはリー・マーヴィンの指揮のもとで物事が進み、しかも実戦前にカウントしていた襲撃プランがテリー・サバラスによっておじゃんになってしまうので、作戦自体が混乱して観客としても戦況がよく理解できませんでした。ほとんどの囚人が無駄にやられてしまい、もともと脱出できない稚拙な作戦だったのではないかと疑ってしまうような展開でした。
決定的にマズいのは地下室に閉じ込められらナチス高官たちを手榴弾とガソリンを投げ入れて爆殺するところ。もちろん敵軍の指揮命令系統を寸断するというミッション自体は戦術としてありなんでしょうけど、内部から開けられない構造になっていること自体めちゃくちゃ間抜けと思いつつも、結果的に地下室に閉じ込められた人たちを逃げられないようにしたうえで爆殺するというのは虐殺に等しい殺し方です。さらには地下にいる半数は非戦闘員である女性たちなのであって、もちろん武装していない一般市民なんですよね。そうした女性を含めて大量の爆破物で木っ端みじんにしてしまうというのは、いくら戦争冒険アクション映画だとはいっても、見ていてツライものがありました。こういう無神経さがいかにもアメリカ映画らしいところでもあるのかもしれません。
とは言ってもロバート・アルドリッチの演出はリー・マーヴィンをはじめとしたスター俳優たちのアップをしっかりとおさえつつ、短めのショットをテンポよくつないでいき小気味よいアクション映画に仕上げています。リー・マーヴィンは1985年のTVムービー『ダーティ・ヒーロー 地獄の勇者たち』で再びライズマン少佐を演じることになりますし、それ以降TVで続編が作られた際には主演級になったテリー・サバラスが代わって中心人物となります。まあ囚人を集めた特務部隊という設定はいかようにもアレンジできるというわけなんですね。(V081823)
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