顔役暁に死す(昭和36年)

若大将シリーズが始まる直前に加山雄三が主演した都会派ギャング抗争もの

こんにちは。大船シネマ館主よのきちです。今日の映画は、岡本喜八監督の『顔役暁に死す』です。加山雄三といえば「若大将」シリーズなわけですが、本作は『大学の若大将』の3ヶ月前に公開されていて、たまたまですが加山雄三と田中邦衛が初共演した作品でもあります。監督の岡本喜八は『独立愚連隊西へ』ですでに加山雄三を主演に抜擢していましたので、そのキャラクターを最大限に引き出しながら、地方都市で縄張り争いをするギャング集団の抗争をさまざまな映像テクニックを使って描いています。

【ご覧になる前に】岡本喜八一家ともいえる出演陣の顔ぶれが楽しめます

倉吉市で市長再選の祝賀パレードが行われている中、雑居ビルの階段をライフルをもって登る男がいます。そして一発の銃声によって狙撃された市長は命を失ったのでしたが、1年後アラスカから帰国した市長の息子次郎は自宅が父の後妻久子の手に渡っていることを知ります。倉吉市には後藤組と半田組のふたつの暴力団が勢力争いをしていて、市長の座を継いだ次郎の伯父の今村は、子供のための遊園地だけが倉吉市の誇りだと語るのでしたが…。

岡本喜八が東宝で監督に昇進したのは昭和33年のことでした。翌年に作った『独立愚連隊』は中国戦線を舞台にして西部劇テイストを加えたオリジナルな戦争ものとして注目を浴び、続編というか姉妹編の『独立愚連隊西へ』では東宝の新人だった加山雄三を主役に配しました。それ以降、俗に「喜八一家」とか「喜八ファミリー」と呼ばれるようになる常連の俳優たちを使い続けていて、他の映画ではあまり印象に残らない人たちが岡本喜八作品だと別人のように生き生きと与えられた役を演じるようになったのでした。

筆頭は中谷一郎(なかたにいちろう)で、『独立愚連隊』でははぐれ部隊の隊長役をやっていた人です。なんでも岡本喜八家の別棟に下宿をしていたとかで、本作では加山雄三の敵役ながら互いに心を通じ合わせるという重要な役で出ています。次は中丸忠雄あたりでしょうか。中谷は俳優座出身ですが、中丸は東宝ニューフェイスで入社した後は端役程度の出演歴だったにも関わらず『独立愚連隊』でニヒルな中尉役に抜擢されました。岡本喜八の代表作でもある『日本のいちばん長い日』で演じたクーデターを画策する椎崎中佐役は、中丸にとっても代表作といえるでしょうか。あとはミッキー・カーチスで、ロカビリー3人男としての歌手活動がメインの人ながら、ちょっとクセのある役を演じさせると非常に印象深い役者さんでした。

加山雄三の映画デビュー作は昭和35年の谷口千吉監督の『男対男』でしたが、2作目の『独立愚連隊西へ』でその邪気のないキャラクターが存分に活用されました。岡本喜八は続けて『暗黒街の弾痕』でも加山を起用していますから、加山雄三にとって本作は映画出演7作目にして岡本作品3作目ということになります。昭和36年4月に本作公開の後、7月に『大学の若大将』が公開されて「若大将」そのものが加山雄三のニックネームとなって人気が爆発することになっていきます。

原作は大藪春彦のハードボイルド小説のようでして、脚本の池田一朗と小川英は日活でよく共同シナリオを書いていたコンビです。日活では昭和32年くらいからいわゆる「無国籍アクション」を連打するようになっていましたから、本作は明らかに日活のアクション映画路線を意識して作られていたはすです。なので日活で定番シナリオを書いていたコンビを起用して、東宝でも作れるんだというところを見せようとしたのかもしれません。

【ご覧になった後で】短いショットで畳みかける機関銃のような演出でした

うーん、よくわからなかったんですけど、後藤組と半田組はいったい何をどうしたくて争っていたんでしたっけね。麻薬や賭博のような違法行為を仕切っているわけではなさそうでしたし、建築業や運搬業などの権益争いをしていたわけでもないようです。開巻まもなく外人客が集まるカジノっぽい場所が映し出されますが、それもワンショットのみで、そもそもこんな地方都市に外人マーケットがあるとは思えません。そんなわけで2つの組織は市長殺しの真犯人を突き止める弾丸の薬莢をめぐって駆け引きを繰り返すという、なんともみみっちいお話になってしまっていて、しかもそれがどんな利益につながるのかが全然見えてきませんでした。

たぶん岡本喜八監督はほとんどストーリーに興味がなく、自分の作りたい映像だけにしか気が回らなかったようですね。短いショットを次々に畳みかけるようにつなぎ合わせて、映画のテンポ自体は実に軽快なものでした。そんな短いショットの中に自分のやりたいことを押し込めたというような作り方だったような気がします。堺左千夫演ずる根本刑事が殺される場面のような、銃弾を撃たれて倒れると堺左千夫の顔が赤い照明で照らされるなどの色の変化へのこだわりだったり、タイプライターのキャリッジの上にピストルをおいてすべらせるなどの小道具の使い方だったりは非常に冴えていて、見ていてもなかなかカッコいいなと思わせるところが多々ありました。

そんな映像的カッコよさを狙ったのがクライマックスの遊園地での銃撃戦だったのだとは思いますが、いかんせんこれがなんとも滑稽な場面になってしまっていました。闇夜に突然浮かび上がる観覧車とか回転をはじめるメリーゴーラウンドなど着想は良かったんでしょうけど、遊具にのってドンパチやっているとなんだか子供の遊びを見ているような気がしてきて「中丸くん、ちゃんと撃たれたふりしなきゃダメじゃないかあ!」みたいなセリフが聞こえてきそうになります。設定上は「ドリームランド」という遊園地ですが、実際の撮影は現在では廃止されてしまった「二子玉川園」で行われたそうです。横浜市戸塚区にあった「横浜ドリームランド」は昭和39年開園ですから、確かに本作撮影時には存在しないですもんね。

結局のところストーリーがうまく語れていないので、誰が市長を狙撃したのかもよくわからず、もし今村伯父さんだったのなら、柳永二郎がそんな上手にライフルを使えるとも思えないですよね。また女優陣を見ても、島崎雪子の後妻はネグリジェと呼べるようなセクシーな衣裳では決してないですし、水野久美もほとんど活躍の場面がなく、岡本喜八は女性の描き方が苦手と言われたのは本作においては正解だったかもしれません。

ただし加山雄三の独特な持ち味は十分に発揮されていました。豪放磊落というのでもないし野放図というのもちょっと違うし、なんて言ったらいいんでしょうかね、ああいうのを。きちんとしていてお行儀もいいんですが、やんちゃでお茶目で肩の力の抜けた乱暴者。適当な表現が見つかりませんけど、その後の「若大将」シリーズに通底するような、底の抜けた明朗さが感じられる主人公だったのが、本作の一番の魅力かもしれないですね。(Y061922)

コメント

スポンサーリンク
タイトルとURLをコピーしました