ミニミニ大作戦(1969年)

ミニ・クーパーがトリノの街を縦横無尽に駆け抜ける軽快な金塊強奪映画です

こんにちは。大船シネマ館主よのきちです。今日の映画は、ピーター・コリンソン監督の『ミニミニ大作戦』です。イギリスを代表する大衆車ミニ・クーパーの車輛の小ささと小回りの良さを活かして、イタリアのトリノの街で金塊強奪を試みる軽快なアクション映画で、公開当時はイギリスで大ヒットを記録したものの、アメリカでは大コケに終わりました。トリノは英語では「Turin」(チューリン)と呼ばれていて、イギリス映画なので映画の中では一度もトリノの地名は聞くことができず、すべて「チューリン」と発音されています。

【ご覧になる前に】フィアット社がロケーション撮影に全面的に協力しました

イタリアの山道を突っ走る真っ赤なランボルギーニ・ミウラは、トンネル出口で待ち構えていたブルトーザーに衝突して崖下に突き落とされます。ところ変わってロンドンの刑務所から出所したチャーリーは、恋人ローナが盗んできた外交官の車でホテルに入ると、ランボルギーニで事故死したベッカーマンが残した金塊強奪作戦のメッセージを受け取り、VIP待遇で収監されているブリッジャーに会いに行きます。一度は断ったブリッジャーでしたが、中国がイタリアに金塊を運ぶというニュースを見て、組織を動かしてチャーリーに協力するのでした…。

本作はオリジナル脚本作品で、イギリスのTV界で活躍していたトロイ・ケネディ・マーティンが脚本を書いています。TVシリーズは警察ドラマや政界ものだったようですが、映画では本作のほかに『戦略大作戦』があり、最近ではエンツォ・フェラーリの生涯を描いた『フェラーリ』もマーティンのシナリオです。実のお兄さんもイアン・ケネディ・マーティンという作家なんだそうで、兄弟揃ってライターだというのも珍しいかもしれません。

監督のピーター・コリンソンは本作以外にはジャクリーン・ビセットが主演した『らせん階段』やピーター・フォンダが出た『ダーティハンター』などのアメリカ映画がありますが、監督としてのキャリアは本作がほとんど初めてだったようです。なぜ本作の監督に抜擢されたのかはわかりませんけど、本作が最後の出演作となったノエル・カワードがコリンソンの名付け親のような存在だったそうで、そのコネによる監督起用だった可能性は否定できません。

主演のマイケル・ケインは1965年のスパイ映画『国際諜報局』のハリー・パーマー役で映画デビューし、1966年の『アルフィー』で人気俳優になっていました。なのでイギリスで本作がヒットを飛ばしたのもマイケル・ケインのネームバリューがあったからこそのことだったでしょう。本作での初登場ショットがマイケル・ケインの顔のクローズアップになっている演出も納得という感じです。

本作の見どころになっているカーアクションは、すべてトリノの街を使って撮影されました。ミニ・クーパーの製造元であるブリティッシュ・モーター・コーポレーションが本作に実車を提供することを拒否したのに反して、イタリアのフィアット社が全面的な協力を申し出ました。フィアットの社名は「Fabbrica Italiana Automobili Torino」の頭文字で「トリノの自動車製造所」の意味。トリノはフィアット社によって支えられた企業城下町であり、街そのものをロケーション撮影で使用させることもできる力を持っていました。さらにフィアット社は小回りのきくフィアット500を使ってくれるなら製作費5万ドルを支払うというオファーまで出したんだとか。さすがにイギリス映画であり、イギリスを代表するミニ・クーパーがイタリアの街を席巻することが本作のメインモチーフでもあったので、断られてしまったそうです。

【ご覧になった後で】脚本のいい加減さをカースタントが吹っ飛ばしています

いかがでしたか?本作は金塊強奪作戦を計画する前半とトリノの街で作戦を実行する後半に分かれていますが、もちろん街を大渋滞で交通マヒさせて、強奪した金塊を3台のミニ・クーパーで運んで逃げる後半部分が見どころになっていました。ミニのほかに大型バスなど複数の車輛が用意されて、かなり大勢のメンバーで役割分担される段取りが描かれるものの、登場人物が多すぎて誰が何をやるのかはよくわかりません。けれども輸送車から金塊を盗み取り、赤・青・白の三色のミニ・クーパーに詰め込んで逃走する以降は、ロケーション撮影のメリットを活かしてトリノの街のいろんな道路や建物、地下道などを最大限に活用しミニが疾走する映像を堪能できます。スピード感があまりないのですが、いろんなアイディアで意外なところをミニが走るので、アクションコメディーっぽい雰囲気が本作に軽快な軽妙さを与えていたと思います。

マーケットやカフェが並ぶ回廊をミニが走るなんてのは当たり前で、階段を下って地下道に入ったり、坂道の頂上でジャンプしたり、川の浅瀬を突っ切ったりとミニの軽さを活かしたカーアクションは、イタリア警察側があまりにヘボなので、手に汗握るというよりは軽い気持ちで見ていられます。そして下水道の円状の地下道を走る抜ける場面や翼状の大建築物の屋上に昇って行きパトカーを置いてけぼりにする場面は、他の映画では見られないくらいに特徴的で、トリノの街をつぶさにロケハンした成果かもしれません。

これらのカーアクションを担当したのがレミー・ジュリアン率いるカースタントチーム。モトクロスのチャンピオンだったレミー・ジュリアンは、カースタントのコーディネーターの目に留まり『ファントマ危機脱出』でジャン・マレーのスタントマンとしてデビューし、『大進撃』などでフランス映画界のカースタントを担うようになっていました。レミー・ジュリアンにとって本作はその名を世界に広めた重要なスプリングボードとなり、007シリーズや日本のTV CMまで幅広く活躍するきっかけになったのでした。

特に3台のミニがビルとビルの間を空中ジャンプするシーンは必見で、この撮影はフィアット社の工場の屋上を使って撮影されたそうです。この場面はレミー・ジュリアン自身にとってもお気に入りのスタントだったらしく、地上で傾斜角などを綿密に計算して練習した末に本番で見事にビルからビルへのミニによる大ジャンプを実現させたんだとか。また円状の下水道ではミニをくるりと一回転させながら運転することにもチャレンジしたそうで、さすがに三回失敗して中止されたそうです。

チャーリーを演じるマイケル・ケインもそのような軽快さの延長線上にあって、いかにもイギリスっぽい雰囲気を作っていましたが、片方で本作に重厚感をもたらしていたのが刑務所でVIP待遇を受けるノエル・カワードの存在感でした。俳優であると同時に作家・演出家・音楽家など多才ぶりを発揮したノエル・カワードは、1920年代にはファッションアイコンでもあり、シャツの首元にスカーフを巻いたり、タートルネックを着こなしたりしたのは、ノエル・カワードが初めてなんだそうです。本作の他には『パリで一緒に』の映画プロデューサー役がある程度なので、金塊強奪作戦成功を聞いて刑務所全体に祝福される場面での貴族的な所作による演技がノエル・カワードの代表的映画出演場面として永く記憶されることでしょう。

カーアクションがあまりに見事なので、脚本のいい加減さが誤魔化されて見過ごされるという効果もあったように思います。400万ドルもの金塊を積んだ輸送車を大渋滞に巻き込まれたというだけで一台だけ建物内に誘導できるとは思えませんし、そもそもデブ専の科学者ピーチは現場でほとんど活躍する場面もなく、どこかに連れていかれてその後どうなったかわかりません。ブルドーザーを使ってあんなに犯罪作戦の邪魔をしていたマフィアたちも終盤にはまったく姿を見せずに終わります。そして、なんとも中途半端なエンディングは本当に拍子抜けでした。一説によるとイギリス当局が犯罪成功のままで終わらせてはならぬと映画会社に圧力をかけたらしいですが、一方では続編製作のために宙ぶらりんの結末で次作につながるようにしたという話もあります。

主演のマイケル・ケインは晩年のインタビューで、「トラックがエンジンをかけ続けたためにガソリンを消費して、その重さがなくなったところで崖下に落ちる。チャーリーたちはトラックから飛び降りて助かるが、崖下にはマフィアたちが待ち構えていて、トラックが貯水池に水没する前に金塊をすべて横取りしてしまう」というエンディングだったことを明かしています。それならマフィアはどうしちゃったのかな、という疑問もなくなるので、シナリオとしてはありなのかもしれません。

蛇足ですが、今回見たのはTV初放映時の吹き替え版でして、マイケル・ケインは広川太一郎、ノエル・カワードは厳金四郎、側近フレディ役は小林清志、恋人ローナ役は小原乃梨子、科学者ピーチは雨森雅司、最初に殺されるロッサノ・ブラッツィは家弓家正という豪華声優陣による吹き替えが堪能できました。特に広川太一郎は、ひとつもアドリブを出さずに割と真面目な声で演じていて、本当に昔の声優さんはいろいろな声の演技で外国映画のTV放映の手助けをしてくれていたんだなとあらためて感心してしまいました。これらの声優さん全員が故人となってしまいましたが、声の演技だけは永遠に残ってほしいものです。(V110424)

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