死霊の盆踊り(1965年)

深夜の墓場に迷い込んだカップルが見たものは…という設定のカルトムービー

こんにちは。大船シネマ館主よのきちです。今日の映画は、A・C・スティーヴン監督の『死霊の盆踊り』です。日本では1986年に初公開されて、奇妙奇天烈な邦題とともに一部の映画フリークから熱狂的な支持を受けてカルトムービーといわれるようになった作品です。深夜の墓場というホラー映画の設定ながら実際には踊りがメインになっていて、その点ではヘンテコな邦題であるものの作品のポジショニングを適切に言い当てた名タイトルといえるかもしれません。

【ご覧になる前に】脚本は「アメリカ映画で最低の監督」のエド・ウッドです

ホラー作家ボブは恋人のシャーリーを車にのせて小説のヒントを得ようと深夜の墓場に向っていましたが、スピードを出し過ぎて事故を起こしてしまいます。車から放り出された二人が行き着いた墓場には、棺桶から蘇った墓場のマスターが女食屍鬼を従えて死霊たちの踊りを眺めているところでした。狼男とミイラ男に見つかってしまったボブとシャーリーは捕らえられて、マスターたちとともに死霊のダンスを見物することになるのでしたが…。

監督のA・C・スティーヴンはステファン・C・アポストロフの別名で、アポストロフは女性のヌードをフィーチャーしたいわゆる「ヌーディ・キューティーズ」のジャンルを得意とする映画製作者でした。ストリップショーやバーレスクショーを映画で見せるという趣向は映画勃興期からあったようですが、アポストロフはそこにホラー映画の設定を持ち込んで本作を企画したようです。

アポストロフと共同で本作を企画して原案・脚本を担当したのがエド・ウッド。エド・ウッドが1959年に製作・脚本・監督をつとめた『プラン9・フロム・アウタースペース』は上映してくれる配給会社が見つからず、TV局に安く買いたたかれて深夜枠で放映されただけに終わりました。エド・ウッドは作った映画すべてが興行的に惨敗したために「アメリカで最低の映画監督」とも呼ばれたそうですが、『プラン9』がTVで再放送を繰り返されるうちにカルト的な人気を獲得するようになります。そして1994年にティム・バートンが『エド・ウッド』という映画でその半生を紹介すると一躍再評価されるようになったのでした。

アカデミー賞授賞式前夜に最低の映画を選ぶ「ゴールデンラスベリー賞」は1981年に創設され、別名「ラジー賞」とも呼ばれて毎年真のB級映画を表彰しています。その創設者ジョン・ウィルソンの著作「ジ・オフィシャル・ラジー・ムービーガイド」では、これまで作られた最もつまらない映画100本の中に見事本作がセレクトされているそうです。

【ご覧になった後で】これはホラー映画というよりはダンスレビューなのかも

うーん、導入部やタイトルからするとホラー映画のようですが、本編のほとんどが女性ヌードダンサーたちによるレビューになっていて、その意味では邦題の「盆踊り」のほうがメインの内容でした。もちろんダンサーたちが披露する踊りの中に「盆踊り」は登場しないのですが、どのダンスも「ド」がつくくらいに見事にド下手なので、素人っぽさを強調する意味で「盆踊り」というネーミングは抜群のセンスだったのではないでしょうか。

ダンサーの中でももちろん巧拙はあって、スネークダンスを披露する女性は唯一ダンスがうまく、しかも非常に裸体が美しいので、アポストロフさんもこのダンサーの場面だけはやや長尺で見せています。しかしスネークダンス以外はほとんどダンスとはいえない代物で、ゴールドダンサー(シャーリーの二役なんだそうです)は金粉を全身にまとうだけでどうやら『007ゴールドフィンガー』の真似をしたかっただけのようですし、キャットダンスやスレーヴダンス、花嫁姿の骸骨ダンスなどそれもすぐに裸になってしまうのでどれも同じじゃないかという程度でした。一番ヒドイのはゾンビダンサーで、ダンスというよりは揺れているだけでちょっと呆れてしまいましたね。

結局はホラー映画の装いをしているもののダンス映画としても体をなしていないわけですので、ストリップショーを羅列にしたというレベルの映画でした。マスターと女食屍鬼のコンビはマントの衣装がなんとなくホラーっぽい雰囲気を出してはいましたが、狼男とミイラ男はコメディリリーフにしか見えませんし、ホラー小説家のボブは捕まっているのに裸踊りを見てニンマリ舌なめずりするような表情で「こいつはアホか」と思わせるようなキャラになっていました。しかも縛られたロープをほどくことができたのに何の抵抗もできずにノックアウトさせられてしまうので、本当に役に立たない男でしたね。

しかしながらこれだけたくさんの女性の裸体が出てくる映画も珍しく、しかもひっかえとっかえいろんなタイプのダンサーが踊るので、裸といっても顔と同じように人それぞれいろんな表情があるんだなあと感心させられました。はっきり言ってくだらない映画なのですが、ダンサーたちの裸の表情を見ていると意外と飽きずに見られたのも事実で、アポストロフさんの意図もそこにあったんではないかと思います。たぶん違ってるでしょうけど。(U031823)

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