007ゴールドフィンガー(1964年)

007人気を確立させたシリーズ第三作、ショーン・コネリーの格好良さもNo.1

こんにちは。大船シネマ館主よのきちです。今日の映画は、ガイ・ハミルトン監督の『007ゴールドフィンガー』です。シリーズ第三作にあたる本作によって007の人気は英国にとどまらず世界へ波及。特にアメリカではケンタッキーを舞台にしているだけあって、前作『ロシアより愛をこめて』の倍以上の5000万ドル以上の興行収入を記録し、全米年間第三位のヒット作になりました。ショーン・コネリーのカッコよさも頂点を極めていて、黒いスウェットスーツを脱ぐと中は真っ白なタキシードというスマートな登場シーンをはじめ、スリーピースのスーツからゴルフウェアまで様々なメンズファッションで観客を魅了してくれています。007の魅力の基本形がすべて詰まっていて、とにかく文句なしに楽しめるエンターテイメント作品といえるでしょう。

【ご覧になる前に】シリーズ最高傑作と評価する人がたくさんいる人気作です

メキシコで革命派の工場を爆破したジェームズ・ボンドはマイアミに飛び、CIAのフェリックス・ライターの協力を得てホテルで賭けトランプをしているゴールドフィンガーという男に接近します。ゴールドフィンガーのトリックを見抜いたボンドは、その手伝いをしていたジルを誘い出して一夜をともにしますが、ボンドが何者かに襲われている間にジルは全身に金粉に塗られて窒息死させられてしまいます。ロンドンに帰ったボンドは、MI6の上司Mから金塊の密輸を企むゴールドフィンガーの行動を阻止するよう指令を受けたのでしたが…。

『ドクター・ノオ』はジャマイカ、『ロシアより愛をこめて』はトルコが舞台になっていましたが、第三作の『ゴールドフィンガー』では007はアメリカで活躍することになります。映画の冒頭はマイアミのホテル、そしてスイスを経由して映画の中盤以降はケンタッキーで物語が進みます。007シリーズはイギリスの作家イアン・フレミングのスパイ小説でしたから基本的には英国諜報部のお話で、本作もイギリス映画なわけですが、アメリカで興行的に成功したのを見て更なるヒットを狙ったのでしょう。プロデューサーのハリー・サルツマンとアルバート・R・ブロッコリは、世界最大のマーケットであるアメリカを舞台にすることで、007を世界的ビジネスに飛躍させたのでした。

1964年9月に英国で公開された本作は同年のクリスマスにアメリカで封切られ、翌年春には日本でロードショーされました。昭和40年の暮れに東宝系で公開された『エレキの若大将』では、コンサートの場面で司会者役を演ずる内田裕也が「レディースアンドジェントルメン、マイネーム・イズ・ショーン・コネリー、なんちゃって」というギャグを飛ばしていて、すなわち若大将シリーズの観客なら全員残らずショーン・コネリーの名前を知っているくらい、007は日本でも大流行することになったのでした。ちなみにアメリカでの人気は1960年代だけにとどまらなかったようでして、本作が1972年に全米ネットでTV放映されたときの視聴率が49%だったという逸話が残っているくらい、007はアメリカでも有数の大ヒットコンテンツになっていきました。

前作まで本シリーズの監督をつとめていたテレンス・ヤングはこの『ゴールドフィンガー』でも企画段階から関与していて、そのまま監督する予定だったようですが、報酬面で合意することができずに契約を断念したそうです。変わって監督についたのがガイ・ハミルトン。本作をはじめとして『ダイヤモンドは永遠に』『死ぬのは奴らだ』『黄金銃を持つ男』とシリーズのうち四作品を監督することになり、007シリーズの監督というイメージだけが定着することになりました。しかし、実はキャロル・リードの名作『第三の男』で助監督をやっていますし、『空軍大戦略』や『ナバロンの嵐』といった戦争映画も監督していますので、イギリス映画においてはそれなりのポジションを確立した人でした。

007シリーズの中でどの作品が好きかという質問にはいろんな回答があることとは思うものの、この『ゴールドフィンガー』を真っ先にあげる映画人も多いようで、かのスティーヴン・スピルバーグ監督も007シリーズの最高傑作であると絶賛してやまないそうです。またアルフレッド・ヒッチコック監督も本作の中で、フォート・ノックスで門番をやっているお婆さんがいきなりマシンガンをぶっ放す場面がいたくお気に入りだったとか。映画人にも人気の本作ですが、『ロシアより愛をこめて』がスパイ・サスペンスとして一級品だったのに比較すると、アクション・エンターテイメントとしての007シリーズを確立したのは本作だったといえるでしょう。

【ご覧になった後で】シリーズの中で最も007らしくゴージャスでした

いかがでしたか?本作は007シリーズの中でも、展開といい見せ場といい俳優陣といい秘密兵器といい、すべてが豪華で贅を極めた最もゴージャスな雰囲気をもった作品でしたね。金粉をまとった女性の身体に投影される名場面の数々。シャーリー・バッシーのパワフルな歌唱による印象的な主題歌。メキシコからスイス、アメリカへ舞台が移るグローバルな展開。ゴールドフィンガーが商売道具とするのがシンプルに高価で美しい金塊であること。アストンマーティンDB5に詰め込まれた仕掛けの愉しさ。マイアミのホテルや小型飛行機の機内の豪奢な内装。ゴールドフィンガーがマフィアたちにグランドスラム計画を説明するときの室内移動とジオラマの出現。そして7秒前で停止する起爆装置。もう見ていても一時も飽きさせないシーンの連続で、心底満腹感を味わえる超豪華アクション作品でした。

ショーン・コネリーは結果的にはジェームズ・ボンド役から離れていくことになるわけですが、ショーン・コネリーがボンドを演じたシリーズの中では本作が最もボンドらしさに溢れた演技を見せていたと思います。兵器から酒まで様々な知識を披露しながら、悪党たちを挑戦的な態度で挑発する大胆不敵さ。常に笑みを浮かべながら難題を乗り切ってしまう余裕ある奮闘ぶり。そして美女たちをあっという間に陥落させるセクシーな男伊達。『ロシアより愛をこめて』は帽子を被った姿がなんとなくもっさりした感じがありましたが、本作はアメリカが舞台ということもあって英国的な几帳面さが剥がれ落ちて、シャープで磊落なキャラクターが完成の域に達しているように思えます。ショーン・コネリーは本作の直前にはヒッチコック監督の『マーニー』に主演していて、ティッピー・ヘドレンに執着する富豪の役を演じていますが、その暗さを微塵も感じさせない明朗さが『ゴールドフィンガー』の魅力に直結したといえるでしょう。

また本作はデザインコンセプトにおいても007シリーズを代表する作品になっています。ロバート・ブラウンジョンによるタイトルデザインはたぶんシリーズの中で最も有名で、誰もが思い出せるようにシンプルにデザインされています。このタイトルバックで金粉に塗られた女性を演じたのは、本編で殺されるシャーリー・イートンではなく、マイアミのプールサイドでジェームズ・ボンドの背中をマッサージしていたマーガレット・ノーランというイギリスの女優。ノーランは実はビートルズの最初の出演映画『ビートルズがやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ!』にも脇役で出ていたそうで、だとすると列車の中で「恋する二人」を演奏する場面だったのかもしれません。それにしても黒バックに金色の女性を配し、その身体に名場面を投影する一方で、白文字でキャストとスタッフをクレジットしていくこのオープニングタイトルは本当に最高にゴージャスで、映画史上でも記憶に残るタイトルデザインではないかと思います。エンドタイトルにもマーガレット・ノーランの金色の顔がアップになって出てきましたけど、初公開時には「007 will return」が「女王陛下の007」になっていたのだとか。その後、ロケ地の関係で次回作が「サンダーボール作戦」に変更になり、リプリントされた以降は「サンダーボール作戦」のクレジットが生かされているようで、今でも初公開時のプリントを映像化したVTRなどでは「女王陛下の007」の文字が残っているとのことでした。

本作のボンドガールであるオナー・ブラックマンはショーン・コネリーより年上で、撮影時には三十九歳だったそうです。確かに笑うとシワが出る感じがしていますし、前作のダニエラ・ビアンキに比べると魅力度において劣るのかなと思ってしまいます。ダニエラ・ビアンキが演じたタチアナ・ロマノヴァ役のオーディションに参加していたのが、ジルの復讐にやってくる妹のティリー役をやったタニア・マレット。個人的にはこのタニア・マレットのほうがオナー・ブラックマンよりはるかにボンドガールのイメージに近いような気がして、登場してすぐにハロルド坂田の帽子の餌食になるのが惜しい感じがしました。タニア・マレットはなんと本作しか映画出演がないんですよね。それもなんとも惜しい話です。それにしてもオナー・ブラックマン演じる「プッシー・ガロア」という役名は困りものでして「豊かなあそこ」という名前が特に英語圏では問題になり、一部の敬虔な国ではあえて「プッシー」ではなく「キティ」という名前に変更して表記されたという話も残っています。彼女が率いるフライングサーカスのパイロットが全員パツキンのグラマーというのも、現在の視線でみると極端なジェンダーバイアスにしか見えませんね。まあそういう時代だったということですし、007シリーズには欠かせないゴージャス感の一要素でもあったのかもしれません。

帽子の怪人を演じたハロルド坂田は、力道山とも対戦したことがあるハワイ出身の日系プロレスラー。本作で一躍世界的に有名になりましたが、残念なことに六十二歳で亡くなっています。ゴールドフィンガーから「Oddjob」と呼ばれていて、役名かと思ったら「Oddjob」とは「雑役」とか「臨時の仕事」という意味があるそうです。あんな怪力があるのにわざわざ帽子で決着をつけようとするあたりが、頭が足りないというかいかにも悪党らしいというか間抜けた感じでした。そういえばゴールドフィンガーの使用人が全員アジア人なのも当時の人種的偏見が垣間見られてしまいますが、まあそんなことは小さな問題として置いておきましょう。なにしろフォート・ノックスを警備している軍隊が全員空中サーカス隊のガス噴霧で倒れてしまうのが、単なる演技というか見せかけだったというオチが、そのような偏見以上に笑えてしまえる仕掛けなのです。そんなチャチなところが本作をシリーズ最高傑作と言い切るのを憚らせてしまう要因になっていると思わざるを得ないのですが、いかがでしょうか。(A031422)

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