終着駅(1953年)

列車が出発するまでの時間経過がリアルでドキドキします

こんにちは。大船シネマ館主よのきちです。今日の映画は、ヴィットリオ・デ・シーカ監督の『終着駅』です。ヴィットリオ・デ・シーカといえば『自転車泥棒』が有名で、ネオリアリズモと呼ばれる現実直視型の暗い映画が専門のようですが、この『終着駅』はリアルな演出をしながらも、基本線はメロドラマなところが特徴です。ローマのテルミニ駅に着いてから、パリ行きの直行列車が発車するまでの1時間半をほとんど映画の上映時間と同じ尺で描いています。さまざまな人たちが行き交う駅の構内で、不倫の深い仲になった男女がローマに残るのか残らないのかを決めることは、女が夫を捨てるのか捨てないのかにつながります。恋愛映画でありながら、サスペンスフルな展開が楽しめる佳作です。

【ご覧になる前に】キャストもスタッフもビッグネームが揃っています

姉を訪ねてローマに滞在していたマリアは、あるアパートの呼び鈴を押そうとしますが、やめてテルミニ駅に向かいます。娘にお土産を買い、甥に荷物を持ってこさせるマリアのもとに、駆け込んできたのはアパートの青年。彼はローマでマリアと出会い、マリアは夫と別れて彼と暮らす約束を交わしていたのでした。マリアが乗るパリ行きの列車はあと1時間半で出発しますが、必死で引き留める彼を前にすると、ローマを離れようとするマリアの決心は揺らぎ始めます…。

主演はジェニファー・ジョーンズとモンゴメリー・クリフト。黒髪のジェニファー・ジョーンズは、この映画のプロデューサーであるデヴィッド・O・セルズニック(ヒッチコックをイギリスからアメリカに呼んで『レベッカ』を作らせた人)と結婚していた時期で、エキゾチックな雰囲気が魅力的。吸い寄せられるような澄んだ瞳が印象的なモンゴメリー・クリフトは、一途で繊細な年下男性を演じていますが、実際の年齢はジェニファーよりひとつ下なだけです。ちなみに、かつての映画雑誌ではスクリーン誌だけが、「モントゴメリー」と表記していて、モンゴメリーなのかモントゴメリーなのかよくわからなかったのですが、英語発音では[tu]が入るのが本当なんだとか。ま、どっちでもいいですけど。

あと、クレジットを見て驚くのが、トルーマン・カポーティがダイアローグを書いていること。カポーティといえば『ティファニーで朝食を』ですし、ドキュメンタリータッチな犯罪小説『冷血』が有名ですが、この映画の製作時はまだ二十代のころ。主役ふたりのセリフをカポーティが書いたものとして見ると、違う味わい方ができるかもしれません。ついでにいえば、マリアの甥の役で出ているのは、リチャード・ベイマー。そうです、『ウエスト・サイド物語』のトニーなんです。子役でキャリアを積んでいたんですね。

【ご覧になった後で】もどかしいふたりよりもテルミニ駅が主役の映画

いかがでしたか?マリアとジョバンニの、ふたりの気持ちが頻繁に揺らいで、見ていてもどかしかったですよね。ひとめを気にして、引込線に退避した客車に入り込んでキスしたりするのが、いかにも不倫カップルっぽくて、たぶんキスだけでは済まなかったんだろうなという描き方もされていました。これがジェニファー・ジョーンズとモンゴメリー・クリフトの美男美女コンビでなかったら、見ていても「どっちでもいいよ、もう!」ってなるんでしょうね。

そしてこのふたりとともに、映画の主役はテルミニ駅でしたね。駅だからいろんなところに時計が映って、パリ行き20時30分発の出発が近づくのが、観客にもしっかりわかるように撮っています。また、テルミニ駅ですれ違うさまざまな旅の人たちの様子も、つぶさに描写されていました。聾啞学校の生徒たちや、ユダヤ人観光客一行、移動途中の兵隊たち、オレンジを落としては女をひっかけようとする中年男。さらには、客車への不法侵入で警察に連れていかれる段になると、犯罪者っぽいイタリア人たちや覗き屋も登場します。別れるの別れないのと右顧左眄して煮え切らない主役のふたりよりも、テルミニ駅の人たちを見ていたほうが、よっぽど面白いかもしれないです。

そんな中でマリアが体調の悪い妊婦を助ける場面が出てきます。マリアは三人の小さな子どもたちに大量のチョコレートを買い与えるのですが、こういうのを見ると、戦勝国の驕りというか、貧しさには施しをみたいな偽善というか、無意識で行われている差別を感じてしまいます。また、駅の構内で撮影しているからだと思いますが、照明の光量不足でキャメラの被写界深度が浅く、けっこうな数のピンボケ画面が出てきます。もっと映像の完成度を大切にしてほしいところです。あとは主役ふたりの会話シーンが多いので、ふたりのアップの切り返しが多用されていて、短いショットつなぎが映画全体から情感を奪ってしまったように見えます。メロドラマなのに、主役のふたりの感情よりも時間経過のサスペンスが目立っているのは、そのせいかもしれません。よって佳作ではありますが、必見とまではいかない残念なポジショニングの映画と言えるでしょう。(A092221)

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