東映創立20周年記念作品は東映動画にとって最後の長編作品になりました
こんにちは。大船シネマ館主よのきちです。今日の映画は、池田宏監督の『どうぶつ宝島』です。「岩に波」の東映のオープニングロゴが出てくる前に示されるように本作は「東映創立20周年記念作品」として公開されましたが、東映動画にとっては最後の長編アニメーション作品になりました。おなじみのスティーヴンソンの小説「宝島」を大胆に翻案し、動物たちを海賊役としてキャラクター化した78分のワイドスクリーン作品です。
【ご覧になる前に】大川博氏が逝去し岡田茂社長は東映動画経営改革に着手
港町の宿屋でウトウトしながら店番をしていたジムと相棒でネズミのグランの前に義足の男が現れます。そこへ数人の黒服が襲い掛かり、義足の男はジムに小箱を預けて逃げていきました。騒ぎが収まってジムが小箱を開けるとそこには財宝が眠る宝島への航路が示された地図が入っていました。ジムとグランは酒樽型小型船で出航して宝島を目指しますが、海賊船ポークソテー号に捕まってしまうのでした…。
昭和33年に第一回長編アニメーション作品として『白蛇伝』を世に送り出した東映動画は、日本アニメ界のパイオニアとして子供たちをターゲットに次々に良作を製作していきます。しかしそうした作品を産み出す背景にはアニメーターたちの過酷な労働環境があり、昭和36年には東映動画に労働組合が結成され、全東映労連へと発展していきました。時をおなじくして「鉄腕アトム」以降TVアニメが急速に人気を獲得して、東映動画でも「狼少年ケン」を嚆矢としてTVアニメの大量生産体制に入っていくことになります。
東映動画では長編アニメーション作品を「A作」、その抱き合わせに上映する60分程度の中編を「B作」と呼んで区別していました。ところが添え物であったはずの「B作」の中で『サイボーグ009』などの大ヒット作が出てくるようになり、製作に時間もお金もかかる「A作」の存在意義が問われ始めることになります。東映動画の経営赤字を黙認していたのが東映社長の大川博で、「東映動画の良心」と言う大川博社長の庇護の下で長編アニメーション作品の製作体制が維持されていました。
その大川博が昭和46年8月に逝去して岡田茂が東映社長に就任すると、東映動画の経営改善が始まってさまざまなリストラが断行されます。従業員半減の方針が打ち出され多くのアニメーターたちが退職して他社に映ることに。大川博が「子供たちが楽しみにしているから」と守り続けていた長編アニメーション作品製作もこの『どうぶつ宝島』で最後となったのでした。
会社側との厳しい労使交渉と並行して製作された『太陽の王子 ホルスの大冒険』は社会的メッセージ性が強調された重苦しい作品になりました。『どうぶつ宝島』では楽しく明るい東映動画の持ち味を取り戻したいという製作スタッフの中で、昭和44年の『空飛ぶゆうれい船』に続いて監督(クレジットでは演出)についた池田宏は本作の中でもどこかしらに社会性のある表現を取り入れたいという考えを持っていたそうです。
そんな池田案に乗らずに「楽しくやろうよ」と主張したのが東映動画を支え続けた作画監督の森康二。『白蛇伝』から原画を描き、『わんぱく王子の大蛇退治』で作画監督に昇格した森康二は現在でも東映アニメーションのロゴマークに使われている『長靴をはいた猫』の主人公ペロのキャラクターを創った人で、大塚康生、小田部羊一、高畑勲、宮崎駿など日本のアニメ界を支える人たちはすべて森康二の薫陶を受けて一人前になっっていったのでした。
また音楽を山本直純が担当しているのも本作の特徴で、黒縁メガネと口髭がトレードマークの山本直純は「大きいことはいいことだ」のエールチョコレートのCMによって音楽家でありながらお茶の間の人気タレントのようになっていました。『男はつらいよ』のテーマソングを作曲した山本直純はクラシック音楽からポピュラーソングまで日本の音楽普及に幅広く貢献した人物で、本作でもその才能が遺憾なく発揮されています。
【ご覧になった後で】宮崎駿の原点がそこかしこで確認できる娯楽作でした
いかがでしたか?東映動画の最後の長編だと思いながら見るとなんだか切ないものもある一方で、いかにも森康二らしい丸っこくて柔らかい絵の動きや山本直純の音楽を効果的に使ったミュージカル風シーンや後年の宮崎駿の作品の萌芽が感じられるような設定・アクションが楽しめるエンターテインメント精神満載の娯楽作でした。
まずアニメーター森康二の技巧が満喫できる絵と動きですよね。キャラクター造形はどれも丸が基本で、主人公ジムとネズミのグラン、赤ん坊のバブーなど丸っこいキャラが可愛くやさしく感じられるので、子供たちはすぐさま感情移入できてしまったことでしょう。海賊たちは動物に当てはめることでやさしいと意地悪のスケールに当てはめることができて、バブーのお守りをするオットーは丸寄りのキャラクターですが、船長の座を狙う男爵はとがったヒゲをもつ細身で描かれていて意地悪グループに入ります。このように見た目でわかりやすくキャラクターのポジショニングを表現してしまうのはアニメーション映画にしかできない得意技なのですから、森康二はアニメで何を表現すべきかを完璧に知悉していた職人だったといえるでしょう。
当然動きもメリハリを利かせていて円運動と直線的な動きをシーンごとに使い分けてアクションを描き分けていました。丸い酒樽船での航海にはイルカやトビウオたちが曲線を描いて参加してきますし、海賊船の狭い空間では縦と横の動きを使ってスピード感のあるアクションが表現されていました。こうしたメリハリを巧みに移動するのがヒロインのキャシーで、人買いの牢獄で初登場するときには目や髪の毛がとんがっていて謎めいたとっつきにくい女の子として描かれていましたが、次第にジムと打ち解けていくと瞳が丸くなり髪の毛もやわらかくなっていきます。東映動画では演出よりも作画監督のほうがフィーチャーされることが多いのですが、作画監督こそが作品全体のタッチを決める指揮者でそのタクトの振り方によってキャラや動きが決まってくるわけですから、本作は森康二が作画監督をつとめたことで誰もが楽しめる娯楽作になったのだと思います。
その中で「アイデア構成」とクレジットされた宮崎駿は、森康二からの権限委譲を受けて個別のシーンで自由にアイデア出しをしたのではないかと思われます。特にポークソテー号が親玉の海賊船に襲われるシーンとクライマックスの宝島のシーンのふたつは後の宮崎駿作品に見られる特徴が如実に出ていて、本作は宮崎駿の仕事の原点を振り返る意味でも重要な作品でもあるのでした。
まず海賊船対決のシーンではマストに引っかかったロープを掴んだジムが片手でキャシーを引き上げようとしてキャシーの足に海賊がすがりついてくる数珠つなぎアクションがまさに宮崎駿調でした。ロープが弧を描くように遠心力でゆるーく回転してマストに絡みつくまでの緩急というか猛スピードの中のスローモーションというか、対照的な動きをひとつのアクションの中に取り入れるのが巧いんですよね。ここではキャシーが長靴を脱がないというのがクライマックスへの伏線にもなっていました。そしてロープが切れて落ちるとジムが甲板から船室を通って船底の火薬庫まで転がっていきます。この縦の世界観というかさっきまで空にいたのに一気に地の底に場面転換するというのもいかにも宮崎駿っぽかったです。こうした演出がTVアニメ「未来少年コナン」のゆったり飛ぶフライングマシーンや三角塔が奥深い地下構造のうえに建つ構造につながっていったのだと思います。
そして宝島で財宝を奪おうと山頂に向かうシルバー船長をジムが追いかける細い尾根道の場面での、ちょっとした衝撃で道が崩落していく設定は『長靴をはいた猫』のお城のクライマックスシーンを彷彿とさせるドタバタぶりでした。それよりも宮崎駿の原点だと思わされたのはサルのスパイダーがキャシーの靴に隠されていた暗号通りにレバーを引くと池の水が一気に放水されて、水底から現れた難破船の中から財宝が発見される仕掛け。これこそ『ルパン三世 カリオストロの城』で湖底にかつての都市が隠されていたというクライマックスを産むことになる元ネタではないでしょうか。
本作は森康二が作画監督として全体を統括しながら場面ごとにアニメーターが自由な発想で動画づくりができたという製作環境だったそうです。後にTVの「アルプスの少女ハイジ」で作画監督をつとめる小田部羊一は序盤の海が荒れるシーンで波を単純化した線で表現したといわれています。宝島への航海途中に出てくるジムとキャシーがリンゴをかじりながら語り合う場面はすべてのカットがディゾルヴでつながれていてそれがまるで恋人同士のラブシーンのような雰囲気を醸し出していましたが、あそこは小田部羊一が担当したんじゃないかなと思ったりします。推測に過ぎませんけど。
だとすると海賊会議を暗闇に陥れて地図を奪還して逃げるキャシーをいきなり俯瞰のロングショットでとらえた絵なんかは森康二のセンスなのかなと思いますし、海賊たちが演奏してダンスを披露するミュージカルシーンは宮崎駿の趣味なのかもしてません。前半の目や髪が角ばった感じのキャシーが後半で丸くなって描かれるのもアニメーターの解釈の違いが絵に出ていたのではないかと想像されます。いずれにしても「楽しくやろう」という森康二が配下の優秀なアニメーターたちの力を存分に引き出した結果、楽しいシーンが山盛りの長編アニメーション作品になったのではないでしょうか。
アニメーターの話によってしまったのですが、本作では声優の魅力もそれぞれに引き出されていて、特に男爵をやる八奈見乗児の喜劇俳優というか喜劇声優ぶりには本当に脱帽ですよね。本作は八奈見乗児にとってはキャリア初期の仕事で、後にTVの「タイムボカンシリーズ」でそのコメディアン的才能が爆発するわけですが、意外にも「巨人の星」の伴宇宙太役をこなしたりしていて、声優さんというのは本当に幅広い声が出せるんだなと感心してしまったのでした。(T090226)

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