突撃(1957年)

スタンリー・キューブリックの初期監督作品で第一次大戦の独仏戦が舞台です

こんにちは。大船シネマ館主よのきちです。今日の映画は、スタンリー・キューブリック監督の『突撃』です。スタンリー・キューブリックはユナイテッド・アーティスツ社の『現金に体を張れ』でハリウッドで初めてとなる監督作品を発表しましたが、本作はその翌年に製作されました。ハンフリー・コッブという人が1935年に書いた小説が原作となっていて、第一次大戦の独仏戦における第二次エーヌの戦いを描いています。邦題の『突撃』はなんとも味気のないタイトルですが、原題の「Paths of Glory」は「栄光の道は墓に続いている」という詩の一節からとられているそうです。

【ご覧になる前に】共同製作のカーク・ダグラスが脚本変更に反対しました

1916年、フランス軍のブルラール大将はミロー将軍に独仏国境の「アリ塚」攻撃を命令します。塹壕を訪問したミロー将軍は兵士たちを叱咤激励しながらダックス大佐に前線の指揮を執るよう伝えますが、大佐はドイツ軍の攻勢に多くの兵を失うことを懸念します。大佐の命令で斥候に出たロジェ中尉はパリス伍長を残したまま帰還してしまい、同僚を失った伍長は中尉の卑怯な行動を非難します。しかし翌朝には総攻撃が開始され、ダックス大佐はピストルを片手に兵士たちを奮起させアリ塚に向って突撃するのでした…。

スタンリー・キューブリックは1953年に伯父に資金提供してもらい『恐怖と欲望』という中編を初監督しました。そのときから自らプロデューサーとして映画製作全体を統括する立場を貫いていて、実質的なデビュー作である『非常の罠』では製作・監督・撮影・編集と一人四役をこなしていますし、前作『現金に体を張れ』はジェームズ・B・ハリスと共同で製作も担当しています。本作も前作に続きジェームズ・B・ハリスが製作者としてクレジットされていますが、実際は主演のカーク・ダグラスもプロデューサーとして加わっています。というのも原作を読んだカーク・ダグラスが「興行的にはどうかわからないがこれはいい映画になる」と直感したらしく、本作の製作資金を出すことになったようです。

脚本はスタンリー・キューブリックがカルダー・ウィリンガムとジム・トンプソンと共同で書いていて、カルダー・ウィリンガムは後にマイク・ニコルズの『卒業』の脚本に参加する人です。ジム・トンプソンは『現金に体を張れ』に続くキューブリックとの共作で、本作の2年後にはスティーヴ・マックイーン主演で映画化されることになる『ゲッタウェイ』の原作を発表しています。

三人共同で書かれた脚本は興行面のことが気になったキューブリックによって製作途中でハッピーエンドに書き換えられますが、それに大反対したのがカーク・ダグラスでした。もともと原作に書かれたテーマに共鳴して出資したダグラスでしたから、キューブリックも翻意して元の脚本を採用することになったんだとか。このゴタゴタで不仲になったという説もあるようですが、カーク・ダグラス自ら製作総指揮をとった『スパルタカス』では撮影途中でアンソニー・マン監督が解任され、カーク・ダグラスによって後任に指名されたのがキューブリックでした。なのでダグラスは本作を通じてキューブリックの手腕を認めていたというのが正解のようです。

独仏戦の現場を再現するためにドイツ・ミュンヘンに近い農場の土地を農産物の収穫見込み代を上乗せして借りて、荒れ地にしたうえで塹壕を掘って最前線の広大な戦場が作り上げられました。塹壕はキャメラをドリーで移動させるために実際の幅より広く作られたそうで、キャメラマンもゲオルグ・クラウスというドイツ人が起用されています。ロケ地に近いミュンヘンの撮影所や古城が使われたということですから、全編すべてがヨーロッパで撮影されたことになります。

【ご覧になった後で】戦闘シーンは前半だけで後半が社会劇となる構成が見事

いかがでしたか?独仏戦の塹壕戦を描く戦争ものなのかなと見ていると、戦闘シーンは無茶な突撃作戦を敢行する前半部分だけで、本作の真骨頂は後半以降の見せしめ処刑にありました。高官たちの無理な作戦を正当化するために兵士の敵前逃亡に全責任を負わせようとして、三人の兵士が選ばれ形式的な裁判を経て処刑される後半部分は、一転してシビアな社会劇になっています。三人が銃殺されてしまう展開はハリウッド映画にしてはかなりショッキングだったはずですけど、カーク・ダグラスの言う通りハッピーエンドなんかにしなくて成功だったと思いますよね。

脚本のうまさなのかもともとの原作がそうなのかわかりませんけど、前半と後半でガラリとテーストが変わるこの構成が本作を異色の戦争映画にしていました。そのうえでキューブリックの演出も初期作品にもかかわらず、キューブリックらしいスタイルが垣間見えました。特に印象的なのは塹壕内部の移動ショットで、狭い塹壕の中を将軍や兵士をとらえながらドリーバックする映像は後のキューブリック作品を彷彿とさせますし、本作から多くの戦争映画が影響を受けているように感じます。またちょっと引きのサイズで長回ししながら俳優の演技に観客を集中させる手法も冴えていて、作戦本部でアドルフ・マンジューとジョージ・マクレディがやりとりする場面や、舞踏会の一室でカーク・ダグラスが自軍への砲撃をミロー将軍が命令したことを暴露する場面などでより一層緊張度を高めていました。

そして登場人物たちのさばき方も見事でしたね。見せしめにされる三人もそれぞれにリアリティがあって、パリス伍長を演じるラルフ・ミーカーはブロードウェイ出身の俳優さんのようですが、上官との対話で自分の意見を言いつつも最後は上下関係を崩さないところや処刑を恐れて泣き崩れるところなどに舞台俳優らしさが出ていました。また斥候時に手榴弾を投げて部下を殺してしまうロジェ中尉をやったウェイン・モリスは実際には第二次大戦の英雄だったんだそうで、戦闘機のパイロットとして目覚ましい戦果をあげたのにもかかわらず、士官らしくない卑怯なキャラクターを控えめに演じていました。

本作は男だらけの戦争映画で、最後にひとりだけ酒場で「Der treue Hussar」という民謡を唄うドイツ娘が出てきます。この人はクリスティアーヌ・ハーランというドイツの女優さんで、本作への出演がきっかけとなりスタンリー・キューブリックと結婚することになります。『時計じかけのオレンジ』では「Special painting & sculpture」としてクレジットされていて、映画製作者としてキューブリックを支えることになりました。

しかしながらどうしても違和感があるのは、本作はフランス軍の高官と兵士たちを描いていてタイトルバックにもフランス国家が流されるにも関わらず、全編で英語が使われているところでした。アメリカ映画なので当然なのですがフランス人が英語をしゃべるというのがどうにもこうにも不思議な感じがしてしまい、英語至上主義みたいなものの胡散臭さを消すことができませんでした。フランス軍の不正を暴いているということでフランス国内では本作は1978年まで公開禁止になっていたという話もあり、それはフランス人が英語を話すという言語の問題も影響したのではないでしょうか。ちなみにアドルフ・マンジューが演じた一番あくどい大将は後にヴィシー政権を率いるフィリップ・ペタンがモデルになっているらしいですね。(U123123)

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