太陽の下の18才(1963年)

若者たちが島を訪れて夏のリゾートを楽しむイタリア式お気楽観光映画です

こんにちは。大船シネマ館主よのきちです。今日の映画は、カルロ・マストロチンクエ監督の『太陽の下の18才』です。1960年代から70年代にかけて恋愛を求める若者たちグループを描く青春映画というジャンルがさかんになり、アメリカ映画でいえば『アメリカン・グラフィティ』が代表作ともいえますが、本作はそうした青春映画の嚆矢ともいえるような古典的な青春リゾート映画です。出演しているほとんど無名の俳優の中でひとりだけ段違いに目を引き付けるのがカトリーヌ・スパーク。ファッションモデルのようなスラリとしたプロポーションで登場した途端に、本作はカトリーヌ・スパークのために作られたのではないかと思わせられます。

【ご覧になる前に】舞台となったのはナポリ湾の西に浮かぶイスキア島です

ナポリを離れた連絡船の船長が汽笛で恋人にさよならを告げた後、イスキア島に着くと現地の恋人にこんにちはの信号を送ります。船から降り立つ大勢のリゾート客の中の若者グループは、先に到着していた友人兄弟から博打で負けて借金を抱えていると相談されますが、構うことなくダイビングや居眠りなどそれぞれの目的を果たすためホテルに入ります。船で帽子を海に落とされた金髪のフランス人女性ニコル・モリノがチェックインした部屋に戻ると、若者グループのひとりの男がベッドにいるのを見て大騒ぎ。彼はニコラ・モリノという名前で同姓同名だったためにダブルブッキングされていたのでした…。

主演のカトリーヌ・スパークはジャック・ベッケル監督の『穴』にノンクレジットで出たのが映画初出演でしたが、1962年の『狂ったバカンス』で初主演を果たし、中年男を翻弄する小悪魔的な美少女を演じて注目を浴びることになりました。カラー映画での出演は本作が初めてで、カトリーヌ・スパークの金髪や小麦色の肌が鮮烈な印象を残すこととなり、一気にアイドル女優の仲間入りを果たしたのですが、実は彼女の父親はシャルル・スパークというフランスの有名な脚本家でした。1937年にジャン・ルノワール監督が発表した『大いなる幻影』はフランス映画史に残る名作で、その脚本をルノワールとともに共同で書いたのがシャルル・スパークだったのです。

カトリーヌ・スパークは父親が高名なだけではなく、伯父のポール・アンリ・スパークはベルギー労働党の議員から外相を経験した後にベルギーの首相を務めた人物。1956年には北大西洋条約機構(NATO)の事務総長に就任し、欧州経済共同体の設立に尽力したことから「欧州連合の父」とも評される偉大な業績を残しました。ポール・アンリ・スパークから見るとカトリーヌ・スパークは姪にあたるわけで、フランスで生まれてイタリア映画で活躍するカトリーヌ・スパークを見て、ポール・アンリ・スパークもヨーロッパの人々が自由に往来する欧州連合の未来の姿を想像したのかもしれません。

監督のカルロ・マストロチンクエは他に目立った作品を残していない一方で、脚本のカステラーノ・ピポロはフランコ・カステラーノとジュゼッペ・モッチアの二人による共同名義なんだそうで、1950年代から90年代にかけてイタリア映画で多くのシナリオを残しています。カトリーヌ・スパークの前作『狂ったバカンス』もこのコンビによる脚本で、イタリア式コメディ映画の量産にはこのコンビの脚本が欠かせなかったようですね。

一番の注目は音楽でして、無名時代のエンニオ・モリコーネが作曲を担当しています。中でも海辺のパーティシーンでかかる「ゴーカート・ツイスト」はジャンニ・モランディという歌手が歌っていて、レコードにもなりヒット曲となりました。日本でも伊藤アイコや青山ミチなどがカバー曲としてレコードにしていますし、ムーンライダーズがアルバム「カメラ=万年筆」の中で取り上げています。

【ご覧になった後で】カトリーヌ・スパーク以外見るべきものが皆無でしたね

いやー、久々につまらない映画を見てしまったという感じの駄作でしたね。夏のリゾートでの恋愛エピソードの羅列というには、あまりにそれぞれの挿話に工夫がないですし、出演者たちにも魅力がないので見続けるのが非常にツライ映画でした。借金返済のために金を工面しようとする兄弟たちはあまりに愚鈍過ぎてコメディになっていないですし、ドイツ語教師に恋のメッセージを訳してもらうのも最初から目当ての女性には旦那がいることがわかっているので無駄話でしかありません。囚人の恰好で富豪女の家に潜入するのもボートに這い上がる場面がいかにも浅瀬で撮影しているのがミエミエで、安普請にもほどがあると思ってしまいます。まあストーリーを追うのも面倒くさくなるような映画でした。

その中でカトリーヌ・スパークの登場シーンだけは眠気が吹っ飛ぶような魅力がありました。ホテルに入ってリゾート着に着替えるところやテラスのレストランでツイストを踊る場面などはカトリーヌ・スパークの華奢な肢体に目が惹きつけられますし、ファッションセンスが最高に良いので、真っ白な細いパンツ姿はそのまま現在の女性ファッション誌に掲載できそうなくらいカッコよかったですね。175cmの高身長ながら細身の身体が非常にスマートな感じに見えて、その後はレコードを出したり1965年に来日したりと、1960年代のファッションアイコンのひとりだったといえるでしょう。

カトリーヌ・スパーク以外で見るべきポイントはイスキア島の風景くらいでしょうか。本作に出てくるイメージとは違って、実際のイスキア島は火砕丘と溶岩ドームが集合してできた火山島なんだそうです。作物のほとんどはブドウ畑で栽培され、火山活動によって現在でも地震が頻繁に起こるんだとか。映画に出てくるのどかなリゾートの光景は夏のわずかな時間に限られているのかもしれません。

カトリーヌ・スパークは1945年生まれですから本作出演時には十八歳で、邦題はそこから取られているものと思われますが、このとき彼女は結婚していて、すでに夫がいたんですよね。しかもその結婚相手と本作で共演しているのです。誰なのかなと思って調べてみたら、なんと借金兄弟の弟マシューを演じたファブリシオ・カプッチが旦那だったんだとか。あまりのギャップに「えー!」と叫んでしまいました。なんでカトリーヌ・スパークのような美女があんなうだつの上がらなそうな男優と結婚までしてしまうのか、しかも父親や伯父が世界的にも高名な脚本家・政治家というセレブなのになんでなのか、と思いませんか?本当に男女の仲だけは誰にも理解できませんよね。(A021024)

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