モスラ対ゴジラ(昭和39年)

ゴジラの対決ものがシリーズ化されてゴジラは悪役に徹してモスラと戦います

こんにちは。大船シネマ館主よのきちです。今日の映画は、本多猪四郎監督の『モスラ対ゴジラ』です。ゴジラは本作ではモスラと対戦するのですが、モスラは平和を愛するインファント島の守り神という存在ですので、となるとゴジラは悪役に徹するしかありません。当然ながら対戦結果はモスラの勝利となるわけで、対決ものとはいっても日本の各都市をゴジラが破壊するのをなんとか食い止めようとする自衛隊の活躍が同時並行で描かれます。また円谷英二による特撮技術が一段と進化していて、ワンランク上の特撮映画に進化しているのも大きな特徴になっています。

【ご覧になる前に】今回はゴジラが名古屋城やテレビ塔を破壊します

台風が猛威を振るった翌朝、静岡県の倉田浜沖に巨大な卵が浮かんでいました。不動産業を営むハッピー興行の熊山は卵を引き上げた地元の漁師たちから卵を買い取ることに成功し、卵を見世物にしたレジャーランドを造成し始めます。新聞記者の市郎と写真部の純子は動物学者の三浦博士とともに熊山とその背後にいる虎畑の悪行を記事にしますが、逆にレジャーランドの宣伝になるばかり。そんな市郎たちのもとに現れたのが南海の孤島インファント島からやってきた双子の小美人。彼女たちはモスラの幼虫が孵化するので卵を返してほしいと頼むのでしたが…。

昭和29年に公開された『ゴジラ』は戦時下の東京を観客に思い出させて大ヒットし、東宝に莫大な利益をもたらしました。すぐさま東宝は翌年に『ゴジラの逆襲』を発表、そこでゴジラは大阪でアンギラスと戦います。その後はラドンやバラン、モスラなど別の怪獣を登場させて、一旦はゴジラは封印されていましたが、昭和37年に『キングコング対ゴジラ』でゴジラがスクリーンに復活。アメリカRKOピクチャーズからキングコングのキャラクター使用権を得て、映画の上での日米決戦再現が話題になり興行的にも大成功しました。東宝としては、ゴジラを他の怪獣と対決させれば儲かるという金脈を発見したようなものでしたから、本作ではモスラを引っ張り出してきて対戦相手にすえることにしたのでした。

モスラが登場するということでモスラと小美人、インファント島などの基本設定は、昭和36年公開の『モスラ』を踏襲しています。『モスラ』の原作は中村真一郎、福永武彦、堀田善衛という当時の日本文学界を代表する小説家が書いていて、それを脚色したのが関沢新一。関沢は『キングコング対ゴジラ』の脚本を書きおろした人で、キングコングをどのようにゴジラと対決させるかをオリジナルで構想した経験を生かし、本作でゴジラ対決シリーズの基礎固めのしたのでした。その後、昭和期のゴジラシリーズはすべて関沢新一が脚本を書いていますし、『海底軍艦』など怪獣が出ない東宝の特撮ものでも主力としてペンをふるうことになります。

特技監督はもちろん円谷英二。円谷はハリウッドを見学した際に最新鋭の撮影機材が完備されているのを見て、東宝にも同じレベルの機材を導入したいと考えました。そこでオックスベリー社のオプティカル・プリンター1900を購入し、『マタンゴ』でその光学合成を生かした特撮を試しました。この1900型はスリーヘッド方式だったのですが、それに飽き足らない円谷はフォーヘッド方式でさらに多重合成映像が可能になる1200型を円谷プロダクションとして発注します。当時の金額でも数千万円もする購入代金はとても支払えるものではなく、TBS勤務の息子円谷一がTBSが購入するよう社内で奔走し、その結果「ウルトラQ」をはじめとするウルトラシリーズの特撮がTVで実現することになったのでした。本作はそんな訳ありのオプティカル・プリンター1200が活用された作品でして、そのため合成場面が数多く挿入され、円谷英二の特撮技術を存分に楽しめるようになっています。

本作でゴジラは名古屋の街を破壊しつくすという設定になっています。名古屋城は戦前までは「尾張名古屋は城でもつ」と言われたように金鯱を戴く現存天守閣をもった国宝の城でした。しかし太平洋戦争末期の名古屋大空襲でその天守閣が焼失、残った石垣の上に昭和34年に鉄筋コンクリート製の天守が再建されました。また名古屋の中心地にあるテレビ塔は高さ180mの日本初の集約電波塔で、東京タワーは昭和33年の完成ですからテレビ塔はその4年前の昭和29年に開業しているのです。本作では、実際に名古屋城の櫓門の下やテレビ塔の真下を群衆が逃げ惑う大規模なモブシーンがロケーション撮影されていまして、当時の名古屋の街が映像に残された貴重な記録にもなっています。

【ご覧になった後で】洗練されたゴジラの動きと小美人の特撮が印象的でした

いかがでしたか?前作の『キングコング対ゴジラ』は東宝創立30周年記念作品でしたから、アメリカのキングコングを登場させるというところが一番の売りだったわけですが、本作からはまさしくゴジラの対決ものが本線となってシリーズ化されたのでした。なのでゴジラ対自衛隊、ゴジラ対モスラ、ゴジラ対モスラの幼虫などの対決場面それぞれに特色が出るような工夫がされていて、1時間半の上映時間が飽きることなく楽しめるようになっていました。

中でも注目なのがゴジラの動き。非常に計算されたというか無駄がないというか理詰めというか、ゴジラの動きに納得感があって、本作で着ぐるみによる怪獣の演技が高いレベルで洗練されています。たとえばテレビ塔が倒される場面。何の目的もなくただ壊すのではなく、ゴジラの尻尾がテレビ塔の台座に引っかかってしまうという流れになっていて、尻尾をはずそうとしてぶん回しているうちにテレビ塔が傾きゴジラの方に倒れてくるのです。また名古屋城の場面では、城のお堀はゴジラにとっては道に突然現れた穴ぼこと同じで、そこに足をとられてしまうんですよね。お堀でよろけたゴジラはそのまま天守閣に向けて横倒しになり、その拍子に天守が崩れ落ちていきます。こうしたアクションの連続性というか必然性が非常によく考えられていて、しかもそれが特撮技術上できちんと演出されているのが、実によく出来ているなあと感心してしまうところでした。

またタイトルバックの台風に巻き上げられる波の表現からしてそうなんですが、風でテントがなぎ倒されたり船が打ち上げられたりする倉田浜の場面や、翌朝に建ち並ぶポンプ機が干拓地から海水を排水しているショットなどは、特撮なのか本物なのか一瞬見分けがつかないくらいに精巧に作られていて、円谷組の特撮技術のハイレベルさが伺える映像でした。インファント島に上陸した際の白骨が並ぶ岩間や島民が祈り踊る洞窟内の場面でも、美術さんの独創的な仕事が南海の孤島のイメージをよく伝えていたと思います。

さらにオプティカル・プリンター1200の威力が凄かったですね。本作はかなりの頻度で実写と特撮の合成映像が出てきますが、超ロングショットの場合は、遠くに合成されたゴジラがやや白っぽく映っていて、それがたまたま距離感の表現になっていて逆にリアル感が増していましたね。またキャメラを横にパンしてとめた画面のところで、山の向こうにヌっとゴジラが出てくるなんて動きのあるワンショットの中で光学合成をやってしまっているのも驚きでした。もちろんザ・ピーナッツ演じる小美人の合成が出番が多くて見せ場も多いのですが、やっぱり人物の合成になるとどうしても輪郭がボヤけてしまい、現在の目で見ると健闘はしているけど少し精度が甘く見えます。それよりはザ・ピーナッツが等身大で演じて周りのセットを8倍にして作ったという応接椅子の下を逃げ回るショットなんかは、1968年にアメリカで放映されたTVシリーズ「巨人の惑星」を先駆けしたようで、そちらのほうが円谷組の実力を示していたのではないでしょうか。このアイディアが「ウルトラQ」の「1/8計画」というエピソードに転用されたのかもしれません。。

そして豪華な出演者たち。スマートだけども肩肘を張らない感じがさわやかな宝田明に自立した職業女性っぽくありながらしっかりお茶くみはする星由里子。この二人なら他にはもう何もいらないくらい、当時の東宝ではトップスター同士の共演でしたね。本作が公開された昭和39年はちょうど若大将シリーズが中休みのとき。昭和38年の『ハワイの若大将』の次が昭和40年の『海の若大将』で、なぜかといえば加山雄三が黒澤明監督の『赤ひげ』に出るため黒澤組以外の仕事ができなかったためなのです。けれども東宝としてみたらそのおかげで星由里子を怪獣映画に出演させることができたので、ケガの功名だったかもしれません。あと小泉博の真面目そうなんだけどどこかトボけた感じが好感度大でした。脇ではいつも卵を食べている藤木悠や悪役ながら他の出演作よりも出番もセリフも多い田島義文などが目立っていますし、声の大きい田崎潤や自衛隊の司令官が似合う藤田進、神主が似合う沢村いき雄、島の長老が似合う小杉義男などなど、どの俳優がどの役を演じているかを見るだけでも楽しめます。東宝って本当に俳優に恵まれた映画会社だったんですね。(A041322)

コメント

スポンサーリンク
タイトルとURLをコピーしました