東映がラム・フィルムと共同製作した日米合作のSF作品で監督は深作欣二です
こんにちは。大船シネマ館主よのきちです。今日の映画は、深作欣二監督の『ガンマー第3号 宇宙大作戦』です。東映は昭和41年に千葉真一主演で『海底大戦争』を日米合作で作っていますが、そのときにタッグを組んだラム・フィルムとともに再びSF作品として製作されたのが本作で、英語タイトルは「The Green Slime」となっています。日米合作なのに出演者に日本人がひとりもいない珍しい作品で、日本語版の吹き替えはテアトル・エコー所属の劇団員が担当しています。岩壁に波が砕けるおなじみの東映のロゴマークで始まりますので、いちおう日本映画に分類することにしました。
【ご覧になる前に】ガンマー第3号とは円形の宇宙ステーションのことです
国際宇宙センター(UNSC)のトンプソン司令は宇宙船が発見した小惑星フローラが10時間後に地球に衝突する事態に直面し、ランキン中佐を呼び出して小惑星爆破を指示します。宇宙ステーション・ガンマー第3号に到着したランキン中佐は、盟友エリオット中佐とともにフローラに宇宙艇を着陸させて爆弾を仕掛け小惑星を破壊することに成功しましたが、フローラから緑色の液状物体を宇宙ステーションに持ち込んでしまいます。その物体は電気エネルギーを吸収してみるみるうちに巨大化し、長い触手をもった狂暴な生命体へと変態したのでした…。
『海底大戦争』を昭和41年に日米合作として製作した東映は、その年に映画製作本数増産のために設立した第二東映をニュー東映と改称したものの、軌道に乗せることができず昭和43年にニュー東映は解散することになりました。もともと映画産業自体が斜陽化していたこともあり、東映の大川博社長はその責任を追及されて、映画製作の実権は東西の撮影所長が握ることになったそうです。
そんな時期になぜアメリカのラム・フィルムというマイナーなプロダクションとSF映画を合作してMGMの配給ルートに乗せようとしたのかその意図は不明なのですが、企画と原作にクレジットされているアイヴァン・ライナーという人は1960年代後半にB級SF映画を何本もプロデュースしていますので、日本の特撮技術事情にも詳しかったのかもしれません。当然ながらアメリカでも『ゴジラ』を生み出した円谷英二は有名でしたから、円谷組スタッフが設立した「日本特撮映画株式会社」と組んで仕事をしてみたかったというのが動機だったのかもしれません。単なる推測ですけど。
東映の映画なのに出演者全員が外国人でしかも全員白人というのがびっくりなのですが、主演級の俳優以外は日本に駐留していた米軍関係者を動員してキャスティングが行われたそうです。主演のロバート・ホートンはアメリカのTVシリーズに出ていた人で「ヒッチコック劇場」なんかにもゲスト出演していますし、ライバル役のリチャード・ジャッケルは海軍軍人だった経歴をいかして戦争映画の脇役で活躍していました。男優二人とは違って女優のルチアナ・パルッツィは『007サンダーボール作戦』でオートバイに乗って登場する敵役として出演経験があり、本作の中ではいちばんのビッグネームでしょうか。
監督の深作欣二は『仁義なき戦い』を撮る前で東映のプログラムピクチャー番組を担当する位置にいましたが、昭和41年に千葉真一主演で撮った『カミカゼ野郎 真昼の決斗』は文芸プロダクションにんじんくらぶが台湾の映画製作会社と合作で作った作品で、東映専属の深作欣二が外部に出て完成させたことで注目されました。1978年には『スター・ウォーズ』が火をつけたSF映画ブームにのっかって東映が作った『宇宙からのメッセージ』の監督もしていまして、深作欣二にとって本作での経験がそのときに生きたのかもしれません。
特撮を担当した「日本特撮映画株式会社」は円谷英二のもとで主に特殊美術を任されていた渡辺明が特殊撮影技師の川上景司とともに設立した特撮専門の製作プロダクションでした。スタッフは東宝出身者中心でしたが、外部のプロダクションとして東宝以外の映画で特撮を担当し、前年には日活の『大巨獣ガッパ』、松竹の『宇宙大怪獣ギララ』の製作に関わっています。
【ご覧になった後で】リドリー・スコットの『エイリアン』の原型でしょうか
いかがでしたか?序盤における小惑星が地球に衝突するという設定は東宝が昭和37年に作った『妖星ゴラス』そのまんまではないかと思わせるものの、小惑星は案外簡単に爆破されてしまって、本筋は宇宙服に付着した物質が宇宙ステーション内で増殖を始めて巨大生物が何匹も出現するというSFホラー的な展開にありました。緑色の粘液が電気エネルギーによって驚異的なスピードで細胞分裂を繰り返して怪物化するというストーリーは、まさしく1979年に発表されたリドリー・スコット監督の『エイリアン』そのもので、『エイリアン』の10年以上前に東映でその着想を先取りした映画が作られていたのは驚きでした。
『エイリアン』ではいつどこからエイリアンが出てくるのかわからないショッカー的な演出が斬新でしたけど、本作での深作欣二の演出はどちらかといえばアクション映画の手法に近く、怪物が登場する場面では揺れの激しいショットをきわめて短くカッティングしてつなぐことによって、怪物自体の動きにはスピード感がないところを映像によって緊迫感というか切迫感を表現していました。とはいうものの対処法は光でおびきよせて部屋や区画に閉じ込めるという極めて旧来的な「鬼さんこちら」方式なので映像演出の甲斐もなく、怪物が発する声を電気音で表現した音響効果を除くとなんだかのんびりした雰囲気になってしまっていました。
しかしながら本作はすべてセット内で撮影されていて、ロケーション撮影の場面はワンショットたりともありません。すなわち全シーン用にセットを作らなければならないわけで、宇宙ステーションの内部や宇宙船のコックピット、地球の作戦本部、小惑星の地表などどれもが日本特殊撮影株式会社のスタッフの手によるものだったのです。現在的に見ると、特に小惑星の場面なんかではチープさが目立っていますが、宇宙ステーション内の機器類や通路などの美術セットの出来栄えはかなり健闘しているのではないでしょうか。
加えて特殊撮影は特に宇宙船が飛行する映像あたりはTV映画の「サンダーバード」に肩を並べるくらいの表現力がありましたし、UNSCの基地全体を俯瞰するショットでの特殊セットは作るのにかなり苦労したんだろうなと思わせるくらいディテールまで細かく作りこまれていたと思います。まあ無数の怪物たちが機体表面にくっついている宇宙ステーションの遠景はやや滑稽味が勝っていましたけどもね。
アメリカ版の上映時間90分に対して日本版は77分と短縮されていて、おそらくルチアナ・パルッツィと二人の男性の三角関係を描いたドラマ部分が全部カットされているんでしょう。まあアメリカ版にしても主人公二人のライバル関係が深く描かれているわけではないでしょうし、未知の生命体が増殖するという危機的状況で俺が指揮を執るとか執らないとかモメてどうするんだという印象になってしまうのは否めません。全体的にB級感満載でマンガチックな作品ですが、『エイリアン』の10年以上前に公開されていたのは事実ですし、『エイリアン』の脚本を書いたダン・オバノンも「実は元ネタはこれなんだよね」とは恥ずかしくて言えなかったのかもしれませんね。(U021323)
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