オーメン(1976年)

666の痣をもつ悪魔の少年を主人公にしたホラー映画でシリーズ化されました

こんにちは。大船シネマ館主よのきちです。今日の映画は、リチャード・ドナー監督の『オーメン』です。1973年にワーナーブラザーズが放った『エクソシスト』が記録的な大ヒットとなり、1970年代のハリウッドはオカルト映画やホラー映画がブームになりました。この『オーメン』もそのブームを代表する作品のひとつで、引退状態にあったグレゴリー・ペックを主演に起用したことでB級っぽく受け取られなかったこともあり、1976年の全米興行収入ランキングで第5位に入るほどのメガヒット作となりました。味をしめた20世紀フォックスは2年後に『オーメン2/ダミアン』を製作して、その後もシリーズ化することになっていきます。

【ご覧になる前に】リチャード・ドナーは本作以降ヒットメーカーになります

6月6日午前6時にローマの産院に車で到着した外交官ロバートは妻のキャシーが死産したことを告げられ、ブレナン神父から同時刻に生まれた孤児の男子を引き取るよう勧められます。キャシーはダミアンを実の子として育て、駐英大使に任命されたロバートの一家はロンドン郊外の邸宅に移り住みます。ダミアンの5歳の誕生祝パーティで、若い乳母が突然屋敷の二階から首吊り自殺をする事件が発生し、たまたま写真を撮っていたカメラマンのジェニングスは乳母の首元にロープのような影が写っていたことに気づくのでしたが…。

脚本はデヴィッド・セルツァーのオリジナルで、本作の大ヒットで有名になったセルツァーは1980年代には映画監督業にも進出しています。『ルーカスの初恋メモリー』などの監督作品はパッとせず、結局はオーメンネタの脚本家に戻っていったようで、2006年に製作されたリメイク版『オーメン』でもセルツァーの脚本が採用されています。

一方で監督のリチャード・ドナーにとっては本作は大いなる飛躍のきっかけとなりました。ニューヨーク大学で演劇を学んだリチャード・ドナーは俳優を経てTVドラマで監督をつとめるようになります。映画ではチャールズ・ブロンソンとスーザン・ジョージが共演した『おませなツインキー』があるくらいで、1970年代はほとんどTV業界で仕事をしていたようです。そんなドナーがなぜ本作の監督に起用されたかは定かではありませんが、たぶん低予算で有名監督が使えなかったからでしょう。ところがリチャード・ドナーの起用が見事にハマり、本作の大ヒットをきっかけとして、リチャード・ドナーは『スーパーマン』『グーニーズ』『リーサル・ウェポン』などで次々に監督を任されてヒットを連発するようになったのでした。

低予算ということで主演に起用されたグレゴリー・ペックも本作出演をわずか25万ドルで承諾したそうです。しかし興行収入の10%を受け取る条件を契約に加えていたため、アメリカだけで興行収入が6000万ドルに達したため、グレゴリー・ペックは他のどの出演作品よりも大きな報酬を手に入れることになったんだとか。そもそもグレゴリー・ペックはアメリカ映画では常に良心的な役を演じてきた俳優で、2003年にアメリカン・フィルム・インスティチュートが選定した最も偉大なヒーローTOP50では『アラバマ物語』でグレゴリー・ペックが演じたフィンチ弁護士が第1位になっているほど。そんなペックが本作のようなホラー映画の主演オファーを受けたのは、前年に息子が自殺した際にそばにいられなかったという罪悪感があったからなんだそうです。

ダミアン役を演じたヘーヴェイ・スティーヴンス少年はオーディションでは金髪だったのを悪魔の子に見えるように黒髪に染めて、目の色もカラーコンタクトで変えてダミアンを演じました。オーディションで癇癪を起してリチャード・ドナーの顔を引っかきまくったことで、ダミアンに起用されたスティーヴンス少年は、撮影現場でもドナー監督から罵詈雑言を浴びせられて、それで不機嫌な表情をしたところをキャメラにおさめたというエピソードも伝わっています。

本作のイメージを支えている音楽はジェリー・ゴールドスミスによるもの。1960年代からハリウッドの大作で作曲を手がけてきたゴールドスミスは生涯で18度もアカデミー賞にノミネートされましたが、実際にオスカーを獲得できたのはこの『オーメン』だけでした。ずっとノミネートだけで受賞を逃していたので、『オーメン』でノミネートされたときも授賞式を欠席しようとして、リチャード・ドナーから今回だけは確実だから出席すべきだと諭されて、見事アカデミー作曲賞を受賞したのでした。

【ご覧になった後で】残酷さが目立ちますが悪魔の恐さはさほどでもないです

いかがでしたか?1976年10月に日本公開されたときに劇場で見て以来の再見だったのですが、カメラマンをやるデヴィッド・ワーナーがガラス板で斬首されるショットなどは鮮明に覚えていて、なぜかというとそうした残酷ショットがやたらと予告編に使われていたからです。かなりショッキングな宣伝プロモーションが繰り返された結果、日本でも当時で10億円を超える大ヒットとなったんだなと思い返されるわけですけど、地方都市ではジェームズ・コバーン主演の『スカイ・ライダーズ』というアクション映画と併映で公開されていて、同じ20世紀フォックス配給というだけで全くテーストの合わない組み合わせで鑑賞したのでもありました。

残酷ショットは序盤の乳母の飛び降り首吊りに始まって、ブレナン神父に避雷針が突き刺さる場面や、動物園でヒヒたちに襲われそうになるところ、リー・レミックが階段上と病室とふたつの高所から落下する展開などと次々に繰り出されます。その決定版がガラス板による斬首だったわけで、リチャード・ドナーとしてもとっておきのショックを狙ったんでしょう。公開当時に予告編で見ていてもあまりに衝撃的だったので、首の模型も当時としてはよく出来ていたのだと思います。

そんな残酷描写の一方で、ダミアンが悪魔の子であるという宗教的に見れば究極的に恐ろしい設定については、あまりコワイ感じはしませんでしたね。まあキリスト教のことはよくわからないという前提はあるものの、『ローズマリーの赤ちゃん』のような悪魔の受胎や『エクソシスト』のような悪魔祓いといった悪魔を扱ったホラー映画に比較すると、『オーメン』の場合は残酷描写で盛り上げているだけで肝心のダミアン本人はちょっとイラつきやすい子供といった程度にしか見えませんでした。

髪の毛を黒くしたり目の色を変えたりしてもしょせんは子供なわけで、二階の廊下を三輪車で暴走する場面などはコワイというより視覚的にはカワイイという印象が勝ってしまい、リー・レミックが転倒させられるのも、単なるアクシデントのようでした。ダミアンより印象深いのはベイロック夫人を演じるビリー・ホワイトローで、脚本上では穏やかなアイルランド人だったのをホワイトロー自身の発案で、不愛想で不気味な乳母という設定に変えられたそうです。でもニセモノかもしれない紹介状ひとつで、いきなり自分の子供を新入りの乳母と二人きりにさせるグレゴリー・ペックとリー・レミック夫妻の不用心さにはあきれるしかないですよね。

リチャード・ドナーの演出は1970年代以降に主流となる「それっぽい映像」の積み重ねで、ロングショットや超クローズアップをごちゃまぜにしながら、観客を飽きさせずに物語に集中させるというやり方でした。そのように妙な作家主義っぽいところが皆無だったので、本作以降ヒットを期待される大作を任されるようになったのかもしれません。まあ本作でいちばん作品の雰囲気づくりに貢献したのは、ドナーの演出ではなくジェリー・ゴールドスミスの音楽であることは間違いないでしょう。カール・オルフの「カルミナ・ブラーナ」を思わせるような宗教音楽的なカンタータが実に本作のホラー感を盛り上げていて、アカデミー賞受賞も納得です。

最終的にはダミアン一人が残って大統領夫妻の間で笑顔を見せてエンディングとなります。ダミアンが生き残ることで続編も作れるわけですから、マーケティング的には当然の終わり方だったことでしょう。その反対にまず母親役のリー・レミックが墜落死するという展開には驚きました。ヒッチコックが『サイコ』でジャネット・リーを本編半ばで殺してしまったことは有名ですが、『オーメン』のリー・レミックが簡単に死んでしまうのもすっかり忘れていたのでなおさら驚かされました。そして映画史上最高のキャラクターを演じたこともあるグレゴリー・ペックは子供を殺そうとするイカれた父親として射殺されてしまいます。二人には申し訳ないですが、脚本の上ではこの展開が最も映画らしいのは確かでしょう。

本作はアメリカ映画であるもののどこか落ち着いたしっとりとした映像でまとめられています。というのも大半の場面がイギリスで撮影されているからで、やっぱり乾燥したハリウッドと雨の多いロンドンでは空気の感じも違うんでしょうか。アメリカ・イギリス合作映画ということでイギリスの俳優も多く登場しています。カメラマン役のデヴィッド・ワーナーはサム・ペキンパーの『わらの犬』でヌボーっとし青年役をやっていた人ですし、呪術師ブーゲンハーゲン役を演じたレオ・マッカーンは『ヘルプ! 4人はアイドル』の大司祭であり、『ライアンの娘』の父親でもありました。B級映画にならなかったのは、こうした俳優たちが脇をしっかり固めていたせいでもあると思います。(A062424)

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