ショウ・ボート(1951年)

ブロードウェイ・ミュージカルをMGMがテクニカラーで再映画化しました

こんにちは。大船シネマ館主よのきちです。今日の映画は、ジョージ・シドニー監督の『ショウ・ボート』です。エドナ・ファーバーの小説がブロードウェイでミュージカル化されたのは1927年のことでしたが、ハリウッドではユニバーサルピクチャーズが1936年に製作したのが最初の映画化でした。経営危機にあったユニバーサルを救う大ヒットを記録したそうですが、本作はミュージカルを得意とするMGMが1951年にリメイクした作品で、ターザン映画で使用されていたMGMスタジオ内の巨大な池をミシシッピ川に見立て、旅公演を行うコットンブロッサム号が鮮やかなテクニカラーで描かれています。

【ご覧になる前に】ハマースタインⅡ世のコンビはジェローム・カーンです

ミシシッピ川を下って町にやって来たのは蒸気船コットンブロッサム号。芸人一座を率いるホーク船長が妻のパーシィに注文をつけられながらにぎやかに口上を披露すると、芸人たちが次々に今晩上演する出し物のさわりを演じてみせます。混血の花形女優ジュリーを巡って男優と機関士が喧嘩を始めたところへ、一文無しになった賭博師のゲイロードがやってきて、船長の娘マグノリアが芝居の真似事をしているのを見つけました。女優志望のマグノリアとゲイロードは恋に落ちてしまい、異人種間結婚の罪で連行されそうになり船を降りたジュリーに代わってマグノリアとゲイロードが旅公演の主役をつとめることになったのですが…。

ブロードウェイミュージカルの作詞と脚本を書いたのはオスカー・ハマースタインⅡ世。ブロードウェイに多くのオペラ劇場を建設したハマースタイン1世を祖父に持ち、ブロードウェイの劇場主だった父を早くに亡くしたハマースタインⅡ世は、ショーやレビュー主体だったブロードウェイに物語性を組み込み、現在のミュージカルの基礎を作った人でした。ハマースタインⅡ世といえば、すぐに「ロジャース&ハマースタイン」の名が連想されるほど、作曲家にリチャード・ロジャースを迎えたコンビが有名で、「オクラホマ!」「フラワー・ドラム・ソング」「回転木馬」「南太平洋」「王様と私」「サウンド・オブ・ミュージック」というブロードウェイミュージカルの代表的作品を次々に送り出した偉大な作詞作曲家コンビでした。

本作でハマースタインⅡ世の作詞に曲をつけたのはジェローム・カーンで、ジャズのスタンダードナンバーを数多く世に出した作曲家です。すぐに思い浮かぶのは『有頂天時代』でフレッド・アステアが歌った「The way you look tonight」やザ・プラターズがリバイバルヒットさせた「煙が目にしみる」あたりでしょうか。ビッグネームではありますけど、今でも歌い継がれている曲を残したという面ではコール・ポーターほどではないような気もします。

監督のジョージ・シドニーはMGMでアシスタントから映画監督になった人ですので、ミュージカル映画を得意としていました。本作の前にはエスター・ウィリアムズ主演の『世紀の女王』やキャスリン・グレイソンがジーン・ケリーの相手役をつとめた『錨を上げて』を監督していますし、本作後には『キス・ミー・ケイト』や『愛情物語』、そして1960年代にはアン・マーグレット主演の『バイ・バイ・バーディー』など、時代の変化に即したミュージカル作品を残しています。

主演のキャスリン・グレイソンはソプラノ歌手としての実力を買われてMGMでデビューした女優さんですし、父親の船長役ジョー・E・ブラウンは『お熱いのお好き』でジャック・レモンに熱を上げる富豪役が有名です。ジュリー役のエヴァ・ガードナーは本作が出世作となりましたが、ミッキー・ルーニーと短い結婚をしたり本作公開の年に結婚したフランク・シナトラとは6年ほどで別れていたりと、私生活上のスキャンダルで注目されることのほうが多かったようです。確かに本作以外の代表作といっても『モガンボ』とか『裸足の伯爵夫人』くらいしかないかもしれません。

【ご覧になった後で】黒人問題を取り上げた意欲作ですが後半がもたれますね

いかがでしたか?1927年にブロードウェイで黒人問題を取り上げたミュージカルが上演されたこと自体が画期的なことだったと思いますが、「オールマン・リヴァー」に象徴されるように抑圧された黒人の現状に目を向けてはいるものの、物語自体はそれに対して異議を申し立てるわけでもなく不平等をなくそうと提案するわけでもないので、これが限界だったのかなとも思わされます。後半はマグノリアとゲイロードの二人のお話になってしまってもたれますし、賭博から足を洗ったわけでもないゲイロードと最後に復縁するのもなんだかご都合主義のように感じられました。

登場する黒人は、白人に何かを問われれば最初に「Sir」をつけて返事をするような使用人のステレオタイプしか出てきませんし、「オールマン・リヴァー」を歌う黒人は劇中では何の役割も与えられていません。コットンブロッサム号の甲板の上でキャスリン・グレイソンとエヴァ・ガードナーの二人が歌い踊るミュージカルシーンは、スウィングする曲がなかなかゴキゲンでエヴァ・ガードナーの歌声(吹き替えらしいです)が低音のハスキーヴォイスで魅力的なのですが、下を見下ろすと係留されたボートの上で黒人の使用人たちが寝っ転がって仕事をサボっているように描かれています。この上から下を見下ろしたショットがなんとなく象徴的に感じられてしまうのは穿ち過ぎかもしれませんけど、本作に無意識の差別感が通底しているのは間違いないでしょうね。

しかしながら「一滴の血の掟」とも言われた異人種間結婚禁止法がアメリカの多くの州で1960年代まで施行されていたのは驚くしかないですね。1967年にラヴィング夫妻が起こした裁判でヴァージニア州が敗訴したことで、はじめてこの法律が無効であるという判決が下ったわけですから、黒人差別は非常に長い期間にわたる苦難の歴史であったと思わないわけにはいきません。異人種間結婚で逮捕されそうになるジュリーの役は、MGM専属の黒人歌手レナ・ホーンが演じる予定だったのを世間の批判を恐れてエヴァ・ガードナーに変更することになったそうです。そのエヴァ・ガードナーも父親が白人とインディアンの混血だったことから、本作のような黒人役やエキゾチックな役をふられることが多かったようですので、アメリカにおける「一滴の血の掟」が多くの差別意識を是認して助長させていたことは間違いないでしょう。

まあ勇気をもって黒人問題を取り上げたことで、その中途半端さを責められるというのも良くないことなので、本作の良いところに目を向けるとコットンブロッサム号上で繰り広げられるドラマを描いた前半がこの映画の魅力を表現していたと思います。オープニングシーンで船のデッキ全体を使って歌い踊るレビューシーンは本当にワクワクしますし、外輪式スクリューがグルグルと回り出す蒸気船のデザインがちょっと郷愁を誘うような雰囲気を持っていました。

そしてコットンブロッサム号が町に到着する昼、ショーが行われる夜、船がニューオーリンズに向って出航する早朝、この三つの時間帯が極めて詩的な映像で表現されていたのも見事でした。特に早朝の空気感はキャメラと照明とスモークが三位一体となって完成されたもので、キャメラマンのチャールズ・ロッシャーが本作でアカデミー賞撮影賞にノミネートされたのも納得です。しかしなんと監督のジョージ・シドニーは病気療養のためこのシーンの撮影には参加していなかったらしく、1949年の『イースター・パレード』から3年連続でアカデミー賞作曲賞を受賞したロジャー・イーデンスが指揮をとったという話もあるそうです。

本作の見どころはすべて1974年公開の『ザッツ・エンタテインメント』に収められていて、エヴァ・ガードナーがクローズアップになるエンディングまでしっかり取り上げられていました。この映画のサウンドトラック盤がMGMレコードから二枚組で発売されていて、本作の音楽は二枚目のB面の一曲目に収録されています。先日マンガ家手塚治虫の特集番組をTVでやっていて、手塚治虫が高田馬場の手塚プロの部屋でマンガを執筆するときにまずレコードをかけるという場面が出てきたのですが、そのレコードがなんとこのサントラ盤で、針を落とした途端に『ショウ・ボート』のオープニングテーマが鳴り出したのでした。手塚治虫の創造力を刺激するなにかがジェローム・カーンの曲にあったんでしょうかね。とても懐かしく興味深い映像記録なのでした。(A033123)

コメント

  1. gavardini より:

    よのきち様こんにちは。愛読者のgavardiniと申します。
    エヴァ・ガードナーの代表作。私見では『殺人者』(ロバート・シオドマク監督)であると。
    スクリーンデビューのバート・ランカスターと共演しています。

    • yonokichi より:

      gavardini様、ご来場ありがとうございます。
      『殺人者』は未見でしたので、今度拝見してエヴァ・ガードナーの美貌を堪能させていただききたいと思います。
      ご紹介くださいましてありがとうございました!

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