激突!殺人拳(昭和49年)

千葉真一主演の空手アクションシリーズ第一弾は全米大ヒットを記録しました

こんにちは。大船シネマ館主よのきちです。今日の映画は、小沢茂弘監督の『激突!殺人拳』です。ブルース・リーの『燃えよドラゴン』の大ヒットに乗って東映が創り出したのがこの「殺人拳シリーズ」で、主演の千葉真一が空手使いの達人として敵をバッタバッタと倒していく肉体派のアクション映画となっています。やくざ映画に陰りが見えていた東映は本作のヒットを見て二ヶ月後には『殺人拳2』を公開させ、『逆襲!殺人拳』『子連れ殺人拳』まで全四作が作られることになりました。本作はアメリカで『The Street Fighter』のタイトルで公開されて、全米で100万ドル以上の興行収入を獲得した初の日本映画となったのでした。

【ご覧になる前に】日本正武館館長鈴木正文氏が政岡役で特別出演しています

死刑の宣告を受けた武闘家の志堅原は福岡の拘置所で刑の執行を告げられ、教誨士に化けた剣琢磨と激しい格闘を繰り広げます。剣の一撃によって志堅原は執行台に昇る途中で仮死状態となり救急車で緊急搬送されますが、それを剣と相棒の中国人張の二人が襲撃し志堅原を香港に逃亡させることに成功しました。剣は志堅原の弟と妹から依頼され志堅原を脱獄させたのでしたが、残りの報酬の支払いができないという弟を殺し、妹を牟田口興産に売りつけます。牟田口は香港の犯罪組織五竜会と取引をしていて、石油王の娘を誘拐しその莫大な遺産を乗っ取るために剣の力を借りたいと申し出るのですが…。

ブルース・リー主演の『燃えよドラゴン』が日本で公開されたのは昭和48年(1973年)12月のことで、正月映画として大ヒットした『燃えよドラゴン』は日本中にカンフーブームを呼び起こし、ブルース・リーが主演した香港のゴールデン・ハーベスト社製作による旧作が次々と日本公開されることになりました。『ドラゴン危機一発』は昭和49年4月に東和が配給して洋画系映画館で上映されたのですが、東映が製作・公開したこの『激突!殺人拳』はなんとそれに先んじて2月に上映されています。『燃えよドラゴン』の大ヒットとカンフーブーム到来を読み切ったかのようなタイミングで本作が公開されたのはなぜだったんでしょうか。

で、調べてみたらやっぱり東映は『燃えよドラゴン』が日本公開される前にアメリカで大ヒットを飛ばしている情報をキャッチしていて、東映の岡田茂社長が日本で一般公開される前に『燃えよドラゴン』を鑑賞し、東映でもカンフーアクション路線を作ろうと決断したんだそうです。しかもそれ以前に本作の脚本家高田宏冶はシナリオハンティングで香港を訪問した際に現地のカンフーブームを目の当たりにして、これを東映でも売り物にできると岡田社長に進言していたんだとか。日本映画界はマーケティング戦略がなかったために昭和40年代に衰退していったように感じていたのですが、いちおう世界のトレンドを察知していち早く次の手を打とうとする動きもあったわけですね。

ブルース・リーは千葉真一のファンだったらしく、東映はブルース・リーを客演させて香港のゴールデン・ハーベスト社と合作で新しいアクション映画を作ろうとしたらしいのですが、この企画はブルース・リーの死によって流れてしまいます。そこで大幅に予算を縮小して、昭和48年の年末から本作の撮影がスタートされました。なので『燃えよドラゴン』が日本公開された頃にはもう本作の撮影が始まっていたんですね。監督の小沢茂弘は東映のプログラムピクチャーを作り続けてきた人で、昭和40年代前半まではやくざ映画のシリーズもので監督をつとめていましたが、本作をきっかけにリアルなアクションものを撮りたいと考えます。そこで主人公剣が一戦交える政岡役には本物の武闘家を起用しようということになり、、当時東映京都撮影所長だった高岩淡のツテで正武館館長の鈴木正文の出演が実現しました。鈴木正文も「全身全霊を込める」と言って出演を承諾したという話が伝わっています。

本作に出演している女優陣は東映の中では新進の人たちばかりで、志穂美悦子は本作で映画デビューを飾り、同じ年の夏には『女必殺拳』で主演に抜擢されます。石油王の娘役の中島ゆたかは本作が映画出演三作目でしたが、翌年には「トラック野郎シリーズ」のヒロインになっています。一方で五竜会の女幹部を演じた風間千代子は本作後TV映画に数本出たくらいで消えてしまいました。また、千葉真一の相棒をやる山田吾一はNHKで放映されていた「事件記者」に出演していた舞台出身の俳優さんで、数多くのTVドラマで脇役をつとめました。大河ドラマの「国盗り物語」で火野正平演じる秀吉に仕える蜂須賀小六をやったのが非常に印象的でしたね。

【ご覧になった後で】ひたすらアクションのスピード感で見せる映画でした

いかがでしたか?この映画はただひたすら千葉真一のアクションスターとしての資質でもっているだけなんですが、そのアクションがものすごいスピードで展開されていきます。短いショットを積み重ねるテンポの良い編集にも助けられて、話がよくわからないにも関わらず全編にわたって疾走するような感覚にさせられますね。そして千葉真一が演じる剣琢磨が、父親をスパイ容疑で殺された過去を背負った正義のヒーローとして描かれるのではなく、金や自分の都合で行動するダークヒーローになっているのが特徴でした。

千葉真一は海外でもサニー・チバの名前で知られていて、よくブルース・リーと比較されたそうですが、ボクシングのステップのようなフットワークを見せるブルース・リーと違って、千葉真一はドッシリと構えながらあくまで攻撃のための足遣いをしてみせます。ブルース・リーが舞踏的で千葉真一は実戦的だと言われているように、千葉真一のアクションはひとつひとつが実際の有効打となっていて、肉体同士がファイトするのに無駄な動きがありません。こういうリアルさがアメリカでブルース・リーの二番煎じではなく、本物のアクション映画として受け入れられた要因だったのかもしれません。

そして本作のクライマックスでもあるタンカーの甲板上で繰り広げられる戦いは、暴風雨の中という設定もあいまって非常に見どころの多い場面になっていました。雨風の激しさも半端ないですし、その中で志穂美悦子の身体を通して千葉真一を串刺しにしてしまうエンディングはアッと驚く展開になっていて、まさかそこで刺さないだろうというのをやってしまう意外さが結構笑えてしまうのでした。そして死ぬのかどうかわからないままに「完」のクレジットが出て急に終幕となるのも実にキレの良い終わり方で、アクション映画は最後までアクションのままであるべきというような主張が感じられましたね。こうなるともうストーリーラインなんてどうでもよくなって、アクションがカッコよければそれでOKみたいな気分になります。

一方で伊豆の温泉宿みたいなのが出てくる場面は、無国籍風な本作が一転して日本映画っぽい湿った雰囲気に変わってしまっていて、ちょっと空気感が変わってしまうマイナス点になっていました。山田吾一が港まで五竜会幹部を追いかけて殺されてしまうのもやや唐突で、山田吾一が千葉真一を慕う気持ちがなんだか男色っぽく感じられてしまいます。まあそういう路線を狙ったのかもしれませんけど、アクション一本やりの本作には不要な要素だったんではないでしょうか。

クエンティン・タランティーノやキアヌ・リーヴスなどハリウッドの映画監督や俳優がこの作品の大ファンだという話を聞くと、本当かよ?と疑ってしまう部分がありつつも、たぶん映画としてではなくアクション場面のスピード感に対して特別なものを感じたんではないかなと思います。そして千葉真一というアクションスターがひとりいるだけで、映画が成立してしまうということにも驚いたのかもしれないですね。

ちなみに本作のアメリカ公開時の題名が『The Street Fighter』で1987年にカプコンから発表された対戦型格闘TVゲーム「ストリートファイター」は本作が原型になっているという説もあるそうです。ただしまったく同じタイトルにするわけにいかず、映画と区別するためにもゲーム名では「The」を抜かしたんだとか。まあそこに配慮しなくてはいけないほど、アメリカでは有名な映画だったんですね。(U111123)

コメント

スポンサーリンク
タイトルとURLをコピーしました