大映のガメラシリーズ第三弾は口から超音波メスを発するギャオスが相手です
こんにちは。大船シネマ館主よのきちです。今日の映画は、湯浅憲明監督の『大怪獣空中戦 ガメラ対ギャオス』です。東宝のゴジラシリーズがヒットするのを見て、昭和40年に大映が生み出した新しい怪獣映画が『大怪獣ガメラ』でした。カメを巨大化させたシンプルなキャラクターが子供たちに評判を呼び、翌年には『大怪獣決闘 ガメラ対バルゴン』が製作されて対決もののルーティンができあがりました。シリーズ第三弾にあたる本作では、空中戦と銘打って空飛ぶ怪獣同士の対決を見せようと羽をもつギャオスという対決相手が設定されましたが、空を飛ぶことよりも口から発射される超音波メスの切れ味があまりにも印象的な悪役怪獣が生み出されたのでした。
【ご覧になる前に】ギャオスの造形は吸血鬼ドラキュラが元になっています
富士火山帯で火山活動が活発化する中でついに富士山でも噴火が始まりました。そこへ現れたのが炎を好物にする怪獣ガメラ。科学者たちとマスコミ各社がヘリコプターに乗って噴火口の調査に飛び立ちますが、緑色に光る洞窟の奥から放たれたメスのような光線によってヘリコプターは真っ二つになって撃墜されてしまいます。その近くでは中部縦断高速道路の建設を巡って道路公団と現地住民たちが争っていて、反対派を束ねる村長の孫で小学生の英一は特ダネ狙いの記者と一緒に森に迷い込んでしまいました。英一と記者が緑色に光る洞窟に入ると、そこに光線を口から発する怪獣ギャオスが潜んでいたのでしたが…。
羽をもち鋭角的な頭部が特徴的なギャオスは、元は吸血鬼ドラキュラから着想を得てデザインされた怪獣でした。東宝特撮映画では、昭和37年の『キングコング対ゴジラ』でハリウッドが生んだ最初の特撮映画のキャラクターでもあるキングコングをハリウッドから借りてきていましたし、昭和40年日米合作の『フランケンシュタイン対地底怪獣』では巨大化して怪獣と対決するフランケンシュタインが主人公となっていました。大映としては特撮映画の本家でもある東宝に対抗するために、世界的に有名なキャラクターの中でまだ東宝が扱っていないドラキュラに目をつけて、ドラキュラの怪獣化に挑むことになったらしいです。
造形の基本モデルはコウモリで、折り畳み式の大きな羽によって飛行することが可能である一方、吸血鬼のように人や動物を食い血を好むと同時に紫外線に弱く太陽を浴びると身体の細胞が破壊されてしまうという弱点をもっています。このギャオスのキャラクターがメチャクチャカッコよくて、日本映画界が生み出した怪獣キャラクターの中でも、東宝のキングギドラ、ウルトラシリーズのバルタン星人とともにオリジナリティが際立った怪獣といえるのではないでしょうか。
監督の湯浅憲明は第一作に続いて二本目のガメラ映画となりますが、本作以降のガメラシリーズではリメイク版が製作されるまでの全作品を湯浅憲明が監督することになります。元は大映東京撮影所で島耕二らに師事した人で、大映倒産後はTVドラマの演出家に転じて「おくさまは18歳」や「コメットさん」などのアイドルものを得意とするようになったそうです。
脚本を書いた高橋ニ三(にいさん)はガメラシリーズを第一作から連続して担当していまして、本作をゴジラシリーズの監督である本多猪四郎から褒められて、ガメラシリーズへの自信を深めたというエピソードが残っているほどゴジラを意識していたようです。特殊撮影担当の藤井和文もガメラシリーズの特撮を一貫してつとめた人。大映で映画製作ができなくなると、TVドラマの「キカイダー」を担当するなどして特撮を続けたという記録が残っています。
出演者の中では、本郷功次郎と上田吉二郎に注目です。本郷功次郎は前作の『ガメラ対バルゴン』のときに出演を依頼されたものの子供向けの怪獣映画には出たくないと言って拒否したそうですが、結果的にはガメラシリーズに連続出演することになったほか、『大魔神怒る』でも主演を張ることになりました。後年、他の出演作品よりも「ガメラ」や「大魔神」のほうがグローバルなファンが増えて、やっと自分のキャリアに怪獣映画の出演を載せられるようになったとか。かたや上田吉二郎は怪演で知られる個性派俳優で、本作でもガメラを食ってやるという意気込みで村長役として出演しています。確かに存在感でいえばガメラを上回っているかもしれません。
【ご覧になった後で】すべてが英一少年の指示通りに進むのが笑えました
この映画のキーマンは誰がどう見たってちょっと小太りの英一少年でしたね。「ギャオーと叫ぶからギャオスだ」と勝手に巨大怪獣に命名したかと思えば、ギャオスの目を回すための回転作戦のヒントを出したり、山火事を起せばガメラがやってくるに違いないと断定して山火事作戦を指示したりと、自衛隊がほとんど活躍しない本作における参謀総長の役割を立派に果たしていました。作戦本部に勝手に入っていくと笠原玲子演ずるお姉さんから「邪魔しちゃダメ」と叱られるのですが、それって𠮟り方が間違っていて「この部屋に勝手に入ってはダメ」とすぐに退散しなきゃいけないはず。ところが周りの大人は誰一人として英一少年のことを邪魔にはせず、逆に戦術コンサルタントとして丁重に扱うんですよね。本当に英一少年のシナリオ通りに物語が進んでいくので、笑ってしまうほどの影響力を発揮しています。
ギャオスはキャラクター造形だけでなく、ガメラに足首をとられて太陽が昇り始めたときに超音波メスで自らの足を切断して危機を逃れるところあたりに、怪獣らしからぬインテリジェンスを感じてしまいます。その後、洞窟に潜んで足が再生するのを待つ場面が描かれて、自分の再生能力を知っていて足を切る判断をしたのだとすると、悪役怪獣の中でもギャオスならではの頭の良さが際立っているのではないでしょうか。
そのギャオスの武器である超音波メスは、「首の骨が二本あって音叉のように共鳴しあうときに超音波となって発せられる」なんて無理くりな説明は置いておくにしても、実に殺傷能力が高い必殺技であると同時に、ヴィジュアル的にも非常にわかりやすい効果を発揮するので、見ていると爽快ささえ感じられます。真っ二つにされる戦闘機、斜めに切断されて崩れ落ちる名古屋城、屋根がスパッと切られて乗客たちが丸見えになる新幹線。これらの映像は超音波メスの威力を見た目そのままに伝えていて、ギャオスの発する光線の凄さが印象づけられる仕組みになっていました。
ギャオスに比べるとガメラはもともと亀なので動きは鈍重そのもの。そこへギャオスの超音波メスが来て、よける間もなく腕をグッサリと切られてしまいます。海水に浸って養生すれば元に戻るらしいのですが、そんなんで治るような傷には思えないくらいにグッサリいってしまっているので、包丁で指をグッサリやってしまったときの血の引くような嫌な気持ちにさせられる対決シーンでした。
子供の頃に祖父に連れられて映画館で見た記憶があるのですが、このグッサリシーンや回転レストランの上でギャオスがクルクル回る場面などがそのまま記憶に残っていて、そのときの映画館でのスクリーンの記憶なのか、他の媒体に掲載されたスチール写真などを後になって見直した記憶なのかが定かではありません。しかし当時の映画館では映画の内容をマンガにした小冊子を無料配布していたという記録が残っているので、もしかしたらそのマンガを繰り返して読んだことで覚えていたのかもしれません。それにしてもそのマンガを描いたのが、「はだしのゲン」で有名になる前の中沢啓治だったというのも驚きでして、あの絵柄でガメラを描いても絶対に面白くならないだろうなというくらいギャップを感じてしまうのでした。(A062922)
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