電送人間(昭和35年)

円谷英二が特技監督を務めた東宝特撮シリーズの「変身人間もの」第二作です

こんにちは。大船シネマ館主よのきちです。今日の映画は、福田純監督の『電送人間』です。プロデューサー制をとっていた東宝では、『ゴジラ』を製作した田中友幸が円谷英二を特技監督に起用した特撮映画をシリーズ化していましたが、その初期には「変身人間もの」と呼ばれる連作がありました。本作は『美女と液体人間』に続く第二作で、人間を電送して瞬時に空間移動するという斬新な発想が旧日本陸軍の軍人の復讐物語にからむというSFなのかスリラーなのかわからないノンジャンル的作品に仕立てられています。

【ご覧になる前に】東映に移籍する直前の鶴田浩二が科学部記者役を演じます

遊園地に集まった見世物小屋ではカップルや女子高生たちがホラーの洞窟を楽しんでいますが、暗闇の中で帽子を被った中年男が刺殺体で発見されました。刑事たちが捜査をしていると新聞社科学部の桐岡が針金状の電極のような遺留品が残されているのを見つけます。三浦博士によるとそれはクライオトロンという物質で絶対温度4.2度の低温で保管しなければならないとのことでした。桐岡の学友だった小林警部は被害者が軍隊の標識を持っていたことから、軍国キャバレーの支配人に狙いを定めて桐岡と二人で客を装うのですが…。

昭和29年に『ゴジラ』を世に送り出した東宝は、怪獣映画とは別の特撮映画を製作していて同じ年の暮れに円谷英二を特技監督に起用した『透明人間』を公開しました。光学合成を多用したこの作品以降、東宝は怪獣が出てこない『地球防衛軍』のようなSFシリーズを製作すると同時に、SFとスリラーを合体したような特撮映画をシリーズ化していきます。

昭和33年に製作された本多猪四郎監督の『美女と液体人間』は主人公が液体化するという設定で、人間が変身する特撮映画の嚆矢となりました。その2年後に作られたのがこの『電送人間』で、本作に続いて製作された『ガス人間第一号』と合わせて「変身人間もの」三部作と呼ばれることになるのですが、多くの特撮映画が本多猪四郎によって監督されたのに対して、本作では福田純が監督に起用されています。

福田純は前年に『恐るべき火遊び』で監督に昇進したばかりでしたが、プロデューサーの田中友幸が本多猪四郎に続いて特撮映画の監督ができる人材を育成しようと白羽の矢を立てたという話が伝わっています。結果的に福田純は『南海の大決闘』以降のゴジラシリーズで怪獣映画を監督しますし、「若大将シリーズ」でも『日本一の若大将』や『フレッシュマン若大将』など長きにわたるシリーズの要所要所で監督を担当することになりました。

鶴田浩二は松竹から東宝に移籍したものの、東宝ではなかなかこれといった作品に巡り合えない不遇の時期にありました。そんな鶴田浩二と監督助手時代から親交を結んだ福田純は、東宝で鶴田浩二が出演作品で揉め事を起したときに間に入って取り持つなどしていたそうです。福田純にとって監督第二作となる本作の主役に鶴田浩二を起用したのは、田中友幸が二人の仲を知ったうえでのことだと言われています。しかし東宝では良い役がつかないと見切りをつけた鶴田浩二は、本作に出演した半年後には東映への移籍を決断したのでした。

【ご覧になった後で】無表情の中丸忠雄と超美人の白川由美が印象的でしたね

いかがでしたか?昭和35年に「テレポーテーション・テレキネシス」という専門用語を使って人間を電送するというSF的発想を映画にしていたことが驚きでしたが、肝心の電送シーンが受信状態の悪いTV画面のように見えてしまって円谷英二の特撮技術が発揮されたとはいえない出来栄えだったのが残念でした。しかも電送するためには、ニッポー精機の冷却装置を改造した一坪四方もあるような移動部屋が必要で、犯人はいちいち事前にその装置を運送屋に頼んで運搬させるという手の込みようがどうにもこうにもまだるっこしい設定でした。

脚本を書いた関沢新一は『蜂の巣の子供たち』で清水宏監督の同人となって製作に加わった人ですが、新東宝から東宝に移ってアクションものと並行して特撮映画シリーズの脚本を担当しました。戦時中に召集されて南方に従軍したこともあり、ムー大陸のような南洋の伝説を映画のネタに取り込むと同時に、本作や『海底軍艦』のように日本陸軍や海軍を題材にすることも多かったようです。本作で登場する軍国キャバレー「大本営」はホステスやバーテンが全員軍隊用語を使っていたりするのがおかしかったですね。

そんな中で電送人間を演じる中丸忠雄は青白い顔と口を動かさずにセリフを話す演技がかなり不気味な雰囲気を出していて、本作にホラーっぽいテイストを加えていたと思います。中丸忠雄は岡本喜八監督の喜八組の一員となっていくように本作の前には『独立愚連隊』で陸軍士官の役を演じていましたが、本作では旧軍人役とはいっても電送シーンが「お化け」のように感じられて、試写を見てとんでもない映画に出てしまったという感想を漏らしたんだとか。田中友幸から次作『ガス人間第一号』の出演をオファーされたのを断ってしまい、結局ガス人間は本作で刑事役をやった土屋嘉男が演じることになりました。

そして本作の一番の見どころは美しさの盛りにあった白川由美ではないでしょうか。昭和31年にスカウトされて東宝に入社した白川由美は「日本のグレース・ケリー」のキャッチフレーズで売り出された通り、清楚な美人として東宝作品に次々に出演を重ねていました。「変身人間もの」の第一作にあたる『美女と液体人間』での妖艶なキャバレーの歌手を演じたのが強烈に印象的で、それに比べると本作は元の清楚なイメージに戻ってしまいましたが、それでも超美人のポジショニングは変わっておらず、当時東宝に所属していた女優の中でもとびっきりの美人であったことがわかりますね。

そんなわけで鶴田浩二もパッとしませんし、電送シーン自体があまり盛り上がらない特撮映画ではありますが、中丸忠雄の異常な感じと白川由美の抜群の美しさに救われた作品ではないかと思います。もちろん東宝特撮映画は、田島義文や堺左千夫、村上冬樹、佐々木孝丸などの脇役陣の顔ぶれが楽しめる副次的な側面もありまして、プログラムピクチャーとして見る分にはそれなりだったんでしょうね。(Y051724)

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