ボルサリーノ(1970年)

ジャン・ポール・ベルモンドとアラン・ドロンが共演したギャングの物語です

こんにちは。大船シネマ館主よのきちです。今日の映画は、ジャック・ドレー監督の『ボルサリーノ』です。フランス映画界を代表する大スターのジャン・ポール・ベルモンドとアラン・ドロンが共演した作品で、アラン・ドロンからベルモンドに共演のオファーを出し、脚本を読んだうえでベルモンドが出演を承諾したという話が伝わっています。1930年代のマルセイユが舞台となっているため、街を一部改造したり、30年代の新聞や雑誌を調査して当時の服装や小物を調達したりして、1930年代のマルセイユが再現されているのが見どころです。

【ご覧になる前に】アラン・ドロン自らプロデューサーをつとめた二作目です

四ケ月の刑期を終えて刑務所から出てきたシフレディは自分のことを密告したダンサーと呼ばれる男を訪ね、恋人ローラの行方を聞き出すとダンサーのキャバレーに火を放ちます。ローラは詐欺師のカペラの情婦になっていて、シフレディとカペラはビリヤード台のあるカフェで殴り合いをしますが、勝負がつかないまま二人は親友としてコンビを組むことを誓い合います。酒の卸売主からの依頼で運搬中の競争馬を奪うことに成功した二人は、その機転を買われて弁護士のリナルディに見込まれ、魚市場を支配するエスカルケル夫人からライバル会社を潰すように頼まれるのですが…。

「ボルサリーノ」は19世紀半ばにイタリアで創業された帽子メーカーで、本作でボルサリーノ製の中折れ帽が取り上げられたことで、現在でも「ボルサリーノ」はソフトハットの代名詞になっています。もちろん中折れ帽だけを作っているわけではなく、ハンチング帽やベレー帽など帽子全般を扱っていますし、スカーフやネクタイ、手袋などの小物も製作しています。しかし近年はファッション雑貨だけで経営するのが難しくなり、150年以上続いた創業家は経営破綻してしまい、現在ではイタリアのブランド管理会社に買収されて製品製造だけが維持されているようです。

本作には「マルセイユの山賊」という原作があり、ジャック・ドレー監督、アラン・ドロン主演の『太陽は知っている』の撮影中にドロンがその本を読んでいたことから、次回作として企画が始まったそうです。アラン・ドロンはプロデューサー業にも進出していて、自らの製作会社「アデル・プロダクションズ」を立ち上げ、1969年に第一回製作作品『ジェフ』を送り出していました。「マルセイユの山賊」はかつてマルセイユを支配していた二人のギャング、カルボネとスピリトが主人公でしたから、ドロンは相手役にはベルモンドが適役だと考えて、直接オファーを出したのでした。

最初は何の返事もなかったベルモンドでしたが、ルイス・ブニュエル監督の『小間使いの日記』や『昼顔』の脚本家ジャン・クロード・カリエールが仕上げた脚本を送ると、ドロンとの共演をやっと承諾してくれました。アラン・ドロンはなかなかプロデューサー業の才覚のある人だったらしく、アメリカのパラマウント映画に配給権を渡すことで製作費を拠出させるとともに、小道具でも多くのボルサリーノ製品が出てくることから映画のタイトルを『ボルサリーノ』に変更して、ボルサリーノ社からも製作資金を引き出すことに成功しました。

しかしマルセイユでは実在したギャングの名前を使用することに反対する声が大きく、撮影スタッフは地元のギャングから脅迫を受けることになりました。ジャック・ドレーはやむなく主人公の名前を変更し、実録的な描き方だった脚本を修正させ、なんとかマルセイユで撮影することができたそうです。ここらへんの製作経緯は1972年に公開された『ゴッドファーザー』と似たところがあるかもしれません。

ジャン・ポール・ベルモンドとアラン・ドロンは実は1966年にルネ・クレマンが監督した『パリは燃えているか』で一度共演していますが、フランスのオールスターキャストが出演した作品でしたので、主演級での共演は本作のみです。本作が大ヒットしたのでアラン・ドロンは1974年に再度プロデューサーを兼ねて『ボルサリーノ2』を作りますが、当然ながらベルモンドは出演していません。

【ご覧になった後で】二大スターを眺める娯楽作なのでクオリティは今ひとつ

いかがでしたか?フランス映画界を代表するベルモンドとドロンが共演するというのが本作の最大の眼目ですから、とにかくこの二人を前面に出しておこうという映画でしたね。もっともこういう二大スター共演というのはどちらかを立てればどちらかが損をすることになるので、バランスを取り過ぎてうまく行かなくなることが多いのですが、さすがにアラン・ドロンがプロデューサーをやっているだけあって、見事にドロンは一歩下がって常にベルモンドを立てるやり方が徹底されていました。クレジットタイトルからして、二人の名前はトップに出てくるもののしっかり左がベルモンドで、ドロンは右に控えています。役柄上もベルモンドのカペラが先に行動してドロンのシンレディはやや後追いの立場になっていますし、女優とからむ場面もベルモンドの方が多く設定されていました。

こうした配慮はジャック・ドレーも計算していたんでしょうけど、実はそんなバランスを取る以前に俳優としての存在感自体ベルモンドのほうがはるかに格上に見えてしまうのはなぜでしょうか。1970年代の日本では洋画専門雑誌で俳優の人気投票をやると必ずアラン・ドロンがトップで、ベルモンドはベスト10にも入らない程度だったように記憶していますが、本国フランスではベルモンドのほうが圧倒的に人気があって、アラン・ドロンはベルモンドに比べるとメジャー感がないというかちょっとアートよりというかそんなポジショニングだったようです。

ヌーヴェル・ヴァーグ出身のベルモンドのほうがアートっぽい出自ではあるものの、『大盗賊』以降『リオの男』『パリの大泥棒』『大頭脳』など冒険アクションものでワールドワイドに飛び回るアクションスターというイメージがベルモンドには定着していました。一方のアラン・ドロンはアントニオーニ監督の『太陽はひとりぼっち』やルキノ・ヴィスコンティ監督の『山猫』など一流の芸術家たちによるイタリア映画への出演や『冒険者たち』や『さらば友よ』でのリノ・ヴァンチュラ、チャールズ・ブロンソンとの共演が印象に残っているため、単独で大ヒットを飛ばせるようなスターとしての安定度はやや不足していたように思います。

まあそんなことはともかく、ベルモンドとドロンが並んでカジノに入ってくるショットなんかはそれだけで十分に見応えがあるわけですから、ストーリー上で多少辻褄が合わないところがあったり、キャメラがやたらに二人を追いかけたりズームしたりするのも、二大スターの共演の前では些細なことのように思えてしまいます。一番の疑問は市長に立候補したリナルディを殺したのがダンサーだったのかどうかというところで、なぜボスのマレーロが推しているリナルディを子分格のダンサーが狙うのかがよく理解できませんでした。わからなくても話が進むからいいんですけど。

女優がたくさん出てきて、特に浴室であっさり殺されてしまうジネット役のニコール・カルファンはフランスの女優にしてはちょっと可愛い感じで印象的でした。この人は本作の翌年にベルモンドとオマー・シャリフが共演した『華麗なる大泥棒』にも出演することになります。またローラ役のカトリーヌ・ルーヴェルは最初の登場シーンでベルモンドとドロンの二人から呼ばれるたびにコートを着たり脱いだりするところがとても素直なチャーミングさが出ていましたけど、『ボルサリーノ2』で同じローラ役を演じている程度で、主にTVドラマで活躍した女優さんみたいです。

そして現在でも一番有名なのは主題曲をはじめとした音楽ですよね。作曲者はクロード・ボリングで、ケニー・クラークあたりと一緒に演奏した経験のあるジャズピアニストの出身です。本作以降も『ボルサリーノ2』『フリックストーリー』『ル・ジダン』なんかでも音楽を担当していますけど、他で何をやっていようともこの『ボルサリーノ』の主題曲に優る作品はないでしょう。(V100423)

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