007シリーズ第四作は世界的大ヒットでシリーズ最高の興行収入となりました
こんにちは。大船シネマ館主よのきちです。今日の映画は、テレンス・ヤング監督の『007サンダーボール作戦』です。007シリーズは前作の『ゴールドフィンガー』で世界的な人気映画となり、世界市場をターゲットにした本作は、なんと日本の日比谷映劇でワールドプレミア上映が行われたという記録が残っています。結果的に1965年の世界興行収入ランキングでは『サウンド・オブ・ミュージック』に次ぐ第二位となり、007シリーズの中では最高のヒット作となったのでした。
【ご覧になる前に】バハマの海を舞台にして水中アクションが展開されます
重要任務を終えたジェームズ・ボンドが保養施設で休暇をとっている頃、原子爆弾二基を運搬中のNATO空軍の輸送機が何者かによって乗っ取られる事件が発生します。犯人は国際犯罪組織スペクターのNo.2ラルゴで、NATOに対して2億ポンドを超えるダイヤモンドを支払わなければ米英の主要都市を破壊すると脅します。MI6本部に緊急招集された00ナンバーの秘密諜報員たちは、世界の各方面に原子爆弾の秘匿場所を探索する「サンダーボール作戦」に従事しますが、カナダに行けと命じられた007は、捜索先をバハマに変更したいと上司Mに直訴するのでした…。
007シリーズといえば、言うまでもなくイアン・フレミングが書いた小説が原作になっているわけですが、本作のクレジットでは「Based on the original story by」としてケヴィン・マクローリー、ジャック・ウィッティンガム、イアン・フレミングの三人の名前が出てきます。というのは、原作になった「Thunderball」はもとはマクローリーとウィッティンガムの二人による映画用脚本で、その映画化が実現する前にイアン・フレミングがノベライズして小説にしてしまった作品なのでした。勝手に映画化権を売却したイアン・フレミングを二人が訴えた後に和解が成立して、ケヴィン・マクローリー側に映画化権が認められたので、本作はマクローリーがプロデューサーとなったシリーズ唯一の作品となりました。
脚本はリチャード・ベイボームとジョン・ホプキンスの共同名義になっていて、ベイボームは第一作の「ドクター・ノオ」からずっと007シリーズの脚本を書いてきた人です。いきなり派手なアクションシーンからスタートする導入部やMからの指令を受けて007が活動し始めるみたいな基本フォーマットは、ベイホームが作り上げたのではないでしょうか。かたやジョン・ホプキンスはそのキャリアを見るとほとんどTVドラマの脚本を専門にしていた人で、映画は本作くらいしか書いていない程度のライターさんです。なぜそんな人とベイホームが組んだのかわかりませんが、全世界的ヒットを狙ってこれまでの三作分が作れるくらいの巨大な製作資金が投入された本作ですので、TVドラマに慣れた観客にいかに映画館に来てもらうかを重視していたんではないでしょうか。1965年はすでに映画産業がTVに打ち負かされていた時期でして、TVドラマのシナリオノウハウを積極的に導入するためにホプキンスの力を借りたのかもしれません。
海洋ものを得意としていたマクローリーが大元の原作を書いたことで、本作は水中撮影を主体としたマリンアクション映画仕立てになりました。アクアラング、水中銃、水中スクーター、ジェットクルーザーなど海洋アクションに必要な小道具がいろいろ登場します。主演のショーン・コネリーも短パン姿だったり、胸毛モロ出しの上半身裸だったりと、そういうのが女性客にアピールした時代だったのかどうか知りませんが、いつものタキシード姿はほとんど見せる場面がありません。当然ボンドガールのクロディーヌ・オージェもほとんど水着姿で通しているので、白と黒のカラーデザインで統一されたファッションは見どころのひとつになっています。
本作はロンドンのMI6本部に00ナンバー全員が集まる場面が出てきまして、遅刻したジェームズ・ボンドが最後に入室して左から七番目の席につくことになります。全員椅子の背中しか映らずに、正面から切り返しになっても007の横にいるたぶん006の肩あたりがチラリと見えるだけといった処理がされているのですが、当初はここで00ナンバー全員をスパイ映画のオールスターキャストで揃えようというプランがあったそうです。「0011ナポレオン・ソロ」のロバート・ヴォーンとデヴィッド・マッカラム、「電撃フリント」のジェームズ・コバーン、「ハリー・パーマー」のマイケル・ケイン、「サイレンサー」のディーン・マーティンという豪華メンバーをひとつの部屋に集めてしまうという、なんともウレシイ企画だったものの、スケジュール調整とギャラが折り合わず実現しなかったとか。でも1960年代中盤は世界的にスパイものが乱立していたので、実現されていればそれこそ映画史に残る名場面になったでしょうね。
【ご覧になった後で】いろいろ盛り過ぎて散漫で緩慢になってしまいました
いかがでしたか?子供の頃にリバイバル上映で見た記憶があって、そのときはシリーズの中でもすごいゴージャスな作品だという印象があったのですが、再見するとなんだかスパイ映画とアクションものと海洋ものと観光映画のいいとこどりを欲張ってしようとしたのが、かえって要素を盛り込み過ぎて全体を散漫にしていたような気がします。またこれは毎度のことですが、007が敵方に捕らえられていつでも始末できるのになぜか生かしておいて逃げられるというパターンが繰り返されて、ストーリーに緊迫感が出てきません。特にルチアナ・パルッツイという女優がやるラルゴの部下フィオナが007を狙った弾丸を受けて死んでしまうところなんか、007とダンスを踊っているときにくるりと反転させられて弾除けにされるという悪役にしてはあまりにアホな死に方で、三流スパイ映画レベルの工夫のなさでした。
本作は水中撮影を多用した潜水アクションが売り物ですが、水の中というのは抵抗があって動きが緩慢に見えてしまうので、スピード感が出ないという欠点があります。それを補うために水中スクーターやサメを出してサスペンスを盛り上げようという意図だったとは思うものの、やっぱりゆったり感はいかんともしがたく、クライマックスが盛り上がりませんでした。そしてショーン・コネリーはカチッとしたスーツスタイルが抜群に似合う人なだけに、アロハ風のシャツと短パンにビーチサンダルではなんだか持ち味が発揮できず、逆に動きのモッサリ感が強調されてしまっていました。本作が2時間10分の長尺になっているのは、いろんな要素の盛り込み過ぎとアクションのゆったりさが原因だと思いますし、やっぱり前の三作品のように1時間50分程度で小気味よくまとめないとダメですね。
本作で一番盛り上がるのはモーリス・ビンダーのデザインとトム・ジョーンズが熱唱する主題歌によるオープニングタイトルでしょうか。ビンダーは『ドクター・ノオ』以来のタイトルデザイン起用でかなり気合いが入っていたと見えて、裸で泳ぐスイマーの映像をモノクロで撮影して、それを光学合成で重ね合わせたうえでカラフルに彩色したのだそうです。デザインの志向性はロバート・ブラウンジョンが投影派だとすると、モーリス・ビンダーはシルエット派ですよね。どっちがいいかは好みの問題ですが、『ゴールドフィンガー』の金粉女性があまりに完成されていたので、なかなかあれを超えるのは難しいような気がします。(A051922)
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