大盗賊(1962年)

ジャン・ポール・ベルモンドが義賊を演じる冒険アクションコメディです

こんにちは。大船シネマ館主よのきちです。今日の映画は、フィリップ・ド・ブロカ監督の『大盗賊』です。ジャン・ポール・ベルモンドはヌーヴェル・ヴァーグ出身ながらフランスを代表する映画俳優になったのですが、その中でもフィリップ・ド・ブロカ監督のアクションコメディに多く主演したことが人気の引き金になりました。本作はベルモンドが初めてフィリップ・ド・ブロカと組んだ記念すべき第一作で、このあと『リオの男』や『カトマンズの男』など次々に二人のコンビ作が製作されることになります。18世紀のパリを舞台にしていますので、当時の色鮮やかなファッションをカラーで堪能することができ、豪華に仕上がった一作です。

【ご覧になる前に】アクションシーンはベルモンドがスタントなしで演じます

18世紀前半のパリで雑踏に紛れて金持ち貴族から宝石や金を掏っているドミニクは、警察署長の妻イザベルに一目惚れしますが、盗賊の頭領であるマリショのやり方に反発したために軍隊へと逃れます。力持ちのドゥーサーと機転が利くモグラとトリオを組んだドミニクは、将軍から金貨を盗み出すことに成功すると、逃走中に知り合った美しいヴェニュスを連れてパリに戻り、マリショを追い出して盗賊団の首領の座につきます。ドミニクはあらたにカルトゥーシュという名前を名乗って、パリのあちらこちらで金持ち宅から強奪した金品を仲間たちと山分けし、パリ庶民の間で義賊として有名になっていくのでした…。

ジャン・ポール・ベルモンドはフランス美術アカデミーの会長をつとめた画家を父親に持ち、母親も画家というアート系の家に生まれました。国立高等演劇学校で演技を学んだのちに映画界に入り、ジャン・リュック・ゴダールの『シャルロットと彼女のジュール』やクロード・シャブロルの『二重の鍵』に出演し、そしてあの『勝手にしやがれ』で大ブレイクすることになりました。もともとしっかりと演劇を学んだベルモンドでしたので、ヌーヴェル・ヴァーグの枠にとどまることなく、ピーター・ブルック監督の『雨のしのび逢い』でジャンヌ・モローと共演するなど演技の幅を広げていきますが、人気俳優としての地位を確立したのがこの『大盗賊』でした。スタントマンを使うことなくすべてのアクションシーンを自分でこなし、しかも18世紀のパリに実在した義賊のヒーローを喜劇的に飄々と演じたことで、ベルモンドの新しい魅力が引き出されたのでした。

ベルモンドの相手役をつとめるクラウディア・カルディナーレはイタリア人ですが、フランス領だったチュニジアで生まれ育ったためにフランス語しか話せなかったそうです。十九歳で映画界入りするとピエトロ・ジェルミの『刑事』やルキノ・ヴィスコンティの『若者のすべて』などでトップクラスの映画監督に起用されるようになり、本作に続いてはフェデリコ・フェリーニ監督から『8 1/2』でミューズともいえる役を与えられています。他のヨーロッパの女優に比べると小麦色の肌が野性味を感じさせて、独特の魅力が一流監督からの寵愛を受けることになったのでしょうか。

監督のフィリップ・ド・ブロカは1933年3月生まれで、なんとジャン・ポール・ベルモンドは一か月後の4月生まれなので二人はほとんど同級生なのでした。フィリップ・ド・ブロカは写真学校で映画について学んだのちに兵役では映画班に編入され、1950年代後半からヌーヴェル・ヴァーグの一連の作品で助監督をつとめるようになりました。特にクロード・シャブロル監督には『美しきセルジュ』『いとこ同士』『二重の鍵』に連続して助監督としてついていますし、ゴダールの『勝手にしやがれ』ではチョイ役で出演もしていたそうです。なので同学年のベルモンドとはそれらの撮影現場で顔を合わせていたわけで、その頃からの関係もあって、本作以降のコンビ作が続いたのかもしれません。

音楽を担当したジョルジュ・ドルリューもアラン・レネの『二十四時間の情事』ではじめて映画音楽を作曲して以降、フランソワ・トリュフォー監督作品には必ず起用されてきた人で、その意味ではドルリューもヌーヴェル・ヴァーグ出身者のひとりといえるでしょう。

本作は1961年に製作されて翌年に公開されましたので、製作年度で1961年の作品として記録されている資料も多いようです。1962年はトリュフォーが『突然炎のごとく』を、ゴダールが『女と男のいる舗道』を撮った年でヌーヴェル・ヴァーグの勢いがピークを維持していた年です。そんな時期にヌーヴェル・ヴァーグ出身者たちが揃って本作のような娯楽映画を作っていたのは意外でもありますし、結果的にフランスでは1962年の年間興行収入で第6位のヒット作となっていますので、ヌーヴェル・ヴァーグがフランス映画界に与えた影響力は思っているよりも広範囲に及んでいたのかもしれません。

【ご覧になった後で】スタジオセットも衣裳も豪華ですがお話自体はどうも…

いかがでしたか?18世紀のパリを再現したスタジオセットはなかなか豪華で見ごたえがありましたね。罪人が処刑される広場の横への広がりとマリショのアジトになっている建物の階段や上層階を使った縦のイメージがうまく交錯していて、立体的な美術を作り上げていました。とくにマリショの隠れ家はそのままカルトゥーシュたちの根城へと引き継がれて、財宝を積み込む場面などで高い吹き抜けの空間をうまく映像で伝えていました。

また衣裳も豪華絢爛でしかも当時のカラーフィルムにふさわしい色とりどりのファッションが映像をゴージャスに見せてくれていました。特に当時のフランス兵の制服は明るいライトブルーの生地にエックス状の白いラインが描かれていて、どこだかわかりませんが敵方は真っ赤な制服でしたし、後半に登場する警察隊はブラックに白い線がトリミングされていました。このような軍服の意匠がファッションを進化させたのだということがビジュアライズされてよくわかりましたし、ファッションの歴史の中で何度もミリタリールックがトレンドになったりするのもファッション自体が元をたどれば軍服の発展をベースにしていたからなんだと納得してしまいました。

しかしながら町のスリ師ドミニクが大盗賊になっていくというストーリー自体があまりエキサイティングに描かれておらず、設定はいいんでしょうけどプロットの作り方が非常にマズい映画でしたね。基本的にはベルモンドが主演なのでドミニクがいる場面のみを直線的に描いているので、場面転換や複数の話を絡ませるなどの手法に欠けていますし、サブキャラクターたちがあまり深く描かれていないため登場人物たちの人間関係が一面的で発展しないのです。カルディナーレ演じるヴェニュスでさえキャラがはっきりしませんし、唯一興味を引くのはジャン・ロシュフォールが演じたモグラくらいでしょうか。

これは脚本そのものの欠点なので、脚本がマズい映画は何をしたってもうどうにもならないわけで、その意味ではフィリップ・ド・ブロカとともにオリジナルシナリオを書いたダニエル・ブーランジェの力不足のせいかもしれません。ブーランジェはフィリップ・ド・ブロカやベルモンドよりひと世代年上で様々な執筆活動をしていて小説も出版していた頃にフィリップ・ド・ブロカと知り合って共同で脚本を書くようになったそうです。本作以降もこの二人は『リオの男』や『まぼろしの市街戦』などでコンビを継続していきますので、お互いに相性がよかったのかもしれませんが、もう少し映画のシナリオづくりの基本を学んでほしいなと思わせるくらいに本作のシナリオは今イチの出来栄えでした。

それでも2時間近い尺を見せるのはひとえにベルモンドの魅力そのものでしょう。とにかく動きがしなやかで軽やかですし、常に余裕と遊びを感じさせて非常に好印象かつ魅力的な人物を創り出してしまうんですよね。本作の主人公もベルモンドではなくアラン・ドロンがやっていたらなんだかイヤなやつにしか見えないでしょうし、ジャン・ルイ・トランティニヤンが演じていたら深刻になり過ぎて2時間持たないと思います。ベルモンドでなくては成り立たない役だったですし、ベルモンドでなければ脚本のアラばかりが目立っていたのではないでしょうか。

クラウディア・カルディナーレもなんだか無駄な死に方をしてしまってかわいそうでしたけど、この映画では警察署長夫人イザベルを演じたオディール・ベルソワの高貴で官能的な美しさが際立っていました。本作以外では日本公開作で目立った作品はないようなのでちょっと残念ですが、カルトゥーシュが憧れる対象としての手の届かない感じをクールに表現していたと思います。でも美人薄命なんていったら現在ではもはやセクハラ用語に入ってしまいますけど、オディール・ベルソワは癌で五十歳の生涯を閉じたんだそうです。美人だけに惜しいことでした。(A080622)

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