オール・ザ・キングスメン(1949年)

田舎町の法律家が州知事に当選して脅迫や買収など権力欲に溺れる政治劇です

こんにちは。大船シネマ館主よのきちです。今日の映画は、ロバート・ロッセン監督の『オール・ザ・キングスメン』です。ハリウッドにしては珍しく政治の裏側に潜む腐敗を暴き立てたような作品になっていまして、1949年度アカデミー賞作品賞を受賞したにもかかわらず、GHQ占領下にあった日本では公開されませんでした。1976年になってやっと公開が実現したとき、日本ではロッキード事件での収賄罪で田中角栄元首相が逮捕されるという一大事が勃発していて、本作は政治のカネにまつわる腐敗を予言するような作品として話題となりました。またウォーターゲート事件を映画化した『大統領の陰謀』の原題「All the President’s Men」が、本作を本歌取りしたものであることも有名です。

【ご覧になる前に】ロバート・ペン・ウォーレンの実話小説を映画化しました

新聞記者のジャックは編集長からの指示で休暇前にカノマタウンで起きている会計官選挙の取材を命じられます。守旧派が再選を繰り返し公共施設や学校の修繕もしない現状を打破しようと立候補したのはウィリー・スターク。正直者で家族思いのウィリーは落選して法律家になるための勉強を始めますが、あるとき学校の非常階段が崩れ多数の生徒が亡くなる事故が起きると、ウィリーの主張が間違っていなかったとジャックが新聞で訴え、州民はウィリーに注目し始めます。州知事選挙の際、二番手候補と票の食い合いをさせる人物探しが始まると、その当て馬候補者としてウィリーが指名されることになり、陣営のいうままにウィリーは州各地での選挙運動に向うのですが…。

アカデミー賞作品賞を受賞するほどアメリカで高い評価を得た本作は、ロバート・ペン・ウォーレンが書いた小説を原作としていて、詩人・小説家として活動していたウォーレンの「All the King’s Men」は1947年度のピューリッツアー賞小説部門に輝いた作品でした。ウォーレンは詩部門でも二度ピューリッツアー賞を受賞していて、アメリカでは文学界の巨匠として知られている人物だそうです。

ウォーレンの原作には実在のモデルがいて、1928年から四年間ルイジアナ州の州知事をつとめたヒューイ・ロングという政治家が本作の主人公ウィリー・スタークに置き換えられています。ヒューイ・ロングがモデルだということは本作の製作スタッフ・キャスト全員が知っていたものの、撮影現場ではその名前を出すことはタブーとされていたんだとか。ウィリーを演じたのはブロデリック・クロフォードで、その熱演によってアカデミー賞主演男優賞を獲得しています。驚くべきことには角川映画の『人間の証明』のニューヨーク・パートでジョージ・ケネディの上司役の署長さんを演じたのがブロデリック・クロフォードなのでした。

製作・脚本・監督を担当して本作の生みの親となったロバート・ロッセンは、ワーナーブラザーズで脚本家をつとめていましたが、コロムビア映画に移籍してボクシング映画で監督業に進出したばかりでした。監督第二作の本作が大評判となり、アカデミー賞監督賞と脚本賞にノミネートされ本命視されていたものの、元共産党員だった経歴から非米活動委員会に召喚されたことが伝わって受賞を逃してしまいました。召喚される度に証言拒否を貫きましたが、ついに転向して非米活動委員会で証言したあとは、ハリウッドから離れてニューヨークやヨーロッパなどで映画製作活動を継続。本作以外ではポール・ニューマン主演の『ハスラー』が有名です。

新聞記者ジャックを演じるジョン・アイアランドと故郷の恋人アン役のジョアン・ドルーは本作の共演をきっかけに結婚していますが、十年も続かずに離婚することになります。ジョン・アイアランドは『荒野の決闘』でクラントン兄弟の末弟ビリーをやりましたし、ジョアン・ドルーは『黄色いリボン』のヒロインオリヴィアを演じた人ですから、たまたまジョン・フォード監督作品で大きな役をもらった二人が本作の重要な役で共演して、夫婦になったという不思議な巡り合わせの二人でした。

【ご覧になった後で】意欲作ながら話が飛んで登場人物の描写が不十分でした

いかがでしたか?本作は日本初公開のときに地方都市でヒッチコックの『バルカン超特急』との二本立てで上映されまして、あまりに『バルカン超特急』が面白過ぎて本作の印象が薄まってしまった記憶があります。それ以来超久しぶりに再見したのですが、政治の裏側を描いた意欲作だと思うものの、全体的に話が飛び過ぎていて、なぜ理想主義者で正直者のウィリーが脅迫や買収などに手を染める悪徳政治家になってしまったのかがわからないですし、ジャックの恋人アンがウィリーの演説を聴いただけでいきなり愛人関係に陥るのも解せませんでした。その点でいえば脚本自体がダイジェスト版っぽく原作をまとめたようにしか思えず、ちょっとアカデミー賞の作品賞を獲得するのはどうなのかなというような出来栄えに感じられました。

実はダイジェストっぽいというのは本当のようで、撮影したフィルムをロバート・ロッセンがまとめあげたらなんと4時間を超える大長編映画になってしまったんだとか。そこでロバート・ロッセンは編集のロバート・パリッシュに「ストーリーの中心と思われるシーンを選んで、何が起こっているか関係なく、選んだシーンすべての前後100フィートずつをカットしてつないでみてくれ」と頼みました。セリフやアクションにお構いなく前後を削除したシーンをつなぎ合わせた結果、上映時間は109分と短縮されてそのバージョンが完成版となったのです。本作を見ていても、なんだか各場面が不自然にフェードアウトで終わったり、いきなり別の場面が始まったりと感じられたのは、そういう経緯があったからなのでした。

なのでなかなかお話がつながらないような映画だったのですが、ラストはなかなか衝撃的で、アンの実兄の医者が弾劾裁判を勝利で終えた州知事を暗殺して、自らもその場で射殺されるという驚きの展開になります。これもなんと実話に基づいていて、モデルとなったヒューイ・ロングは州知事から上院議員に転身して、政敵だったベイリー判事を排除する州法を強引に成立させます。判事の娘婿で医者のワイスがその報復として、ルイジアナ州議事堂でヒューイ・ロングに銃弾を浴びせ、ロングは二日後に息を引き取ることになりました。ワイスもその場で射殺されていますから、本作における州知事・判事・医者という人間関係図は、1935年に実際に起きたヒューイ・ロング暗殺事件に基づいていたのです。

そんなわけで脚本上の無理があったにもかかわらず、本作が一気見できるレベルの作品になっているのは、ブロデリック・クロフォードをはじめとした出演俳優たちがみんなリアルな演技で登場人物になりきっていたからではないでしょうか。ロバート・ロッセンは俳優たちにその場で台本を渡してセリフを覚えさせると、すぐにその台本を取り上げてしまい、撮影は台本なしで進められたそうです。つまりセリフの細部を脚本通りにしゃべらせるのではなく、登場人物の考えや感情を台本に書いてあるセリフをもとにしながら自分の言葉にして演技をさせたわけです。本作の俳優たちがみんなそれなりのリアリティを持ち得ているのはその演出法があったからなんですね。

秘書サディを演じたマーセデス・マッケンブリッジは本作が映画初出演でしたが、見事にアカデミー賞助演女優賞を獲得しました。一見ジュディ・ガーランドに似ているように見えるマーセデス・マッケンブリッジは、1957年にはジョージ・スティーヴンス監督の『ジャイアンツ』でも助演女優賞にノミネートされています。さらには1973年のホラー映画『エクソシスト』で悪魔パズズの声を吹き替えたことでも有名で、映画デビューの本作でもその強烈なキャラクターは印象深いものがありましたね。(U060423)

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