ローラーボール(1975年)

企業が支配する未来で人々を熱狂させるスポーツを描いたSFディストピア

こんにちは。大船シネマ館主よのきちです。今日の映画は、ノーマン・ジュイソン監督の『ローラーボール』です。ウィリアム・ハリソンが書いた短編小説をもとにしてハリソン自身が脚本を書き、ジェームズ・カーンが主人公を演じています。ローラーボールとは企業が支配して平和になった未来で人々を熱狂させるために行われているローラースケート選手たちによるボール争奪戦ゲームのこと。劇場公開されると3000万ドルを稼いで、1975年の全米興行収入ランクで14位だったという記録が残っています。

【ご覧になる前に】ヒューストンの対戦するのはマドリードや東京のチーム

巨大な円形バンクにヘルメット姿の選手たちが姿を現すと観客たちが一斉に歓声を上げます。オレンジユニフォームのヒューストンの対戦相手はグリーンのマドリード。ローラースケートでバンクを回りながら鉄球をゴールするゲームはローラーボールと呼ばれ、エネルギーや食糧、通信などの分野別に大企業が支配する世界では争いごとがなくなり、人々を熱狂させるためのスポーツとして人気を集めていたのでした。試合が始まるとヒューストンの中心選手ジョナサンは相手選手を倒しながらゴールを決めるのでしたが…。

ウィリアム・ハリソンはアーカンソー大学で英文学を教えながら小説や脚本を書いていた人で、「ローラーボール殺人事件」という短編小説が映画化されることになり、自ら脚本として書き上げました。本作以降にも2002年に再度映画化されているものの、ほかにはTVシリーズで数本のシナリオを残しただけで終わっています。

そんな脚本をユナイテッド・アーティスツが配給することになったのはノーマン・ジュイソンが製作したからだったかもしれません。1962年に『40ポンドのトラブル』で監督デビューしたノーマン・ジュイソンは『シンシナティ・キッド』を撮ったあとに『夜の大捜査線』でアカデミー賞作品賞を獲得してその地位を確立。1960年代末から1970年代前半にかけて『華麗なる賭け』『屋根の上のバイオリン弾き』『ジーザス・クライスト・スーパースター』と話題作を次々に監督していましたから、そのノーマン・ジュイソンが製作・監督するならということで企画が通ったのではないでしょうか。

主人公ジョナサンを演じるジェームズ・カーンは『ゴッドファーザー』のソニー役でブレイクする前に『ブライアンズ・ソング』という作品でアメフト選手を演じたことがあり、それを見たノーマン・ジュイソンが本作でのチームキャプテン役に起用されることになったそうです。その妻を演じるモード・アダムスは本作の前年に『007黄金銃を持つ男』でボンド・ガールに起用されたばかりの売り出し中でした。

またエネルギー会社の社長をやるジョン・ハウスマンは演劇界のプロデューサーとして有名な人で、盟友となるオーソン・ウェルズが演出した「ゆりかごは揺れる」を成功させた経緯がティム・ロビンス監督の『クレイドル・ウィル・ロック』という映画になっているほどです。年齢を重ねてから俳優業に進出して本作の前年に出演した『ペーパーチェイス』ではアカデミー賞助演男優賞をゲットしています。あともうひとり注目したいのはラルフ・リチャードソンで『落ちた偶像』『女相続人』などに出ていた英国の俳優さん。本作では短時間の出演ですがコンピューターセンターの司書として印象を残しています。

キャメラマンのダグラス・スローカムは『ジーザス・クライスト・スーパースター』でノーマン・ジュイソンと組んだことのある撮影監督で、本作の前後には『華麗なるギャツビー』『午後の曳航』『ジュリア』と映像が思い浮かぶような作品でキャメラを回しています。撮影時に露出計を使わないことで有名なんだそうで、七十歳を超えてから「インディ・ジョーンズ」シリーズの三部作すべてでキャメラマンをつとめました。

主人公が活躍するローラーボールチームはヒューストンで、映画ではマドリード、東京のチームとの対戦が描かれ、最終戦はニューヨークとのゲームになります。世界各国の主要都市にあるチームとグローバルなリーグ戦を争うという設定なんだと思いますが、なぜヒューストンなのかと思って調べてみると、アメリカで人口が多い都市はニューヨーク、ロサンジェルス、シカゴの順番で、その次に来るのがテキサス州ヒューストンなのでした。

【ご覧になった後で】駄作レベルですがクラシック音楽の使い方がシュール

いかがでしたか?戦争や紛争などがなくなった平和な世界はエネルギー、食糧、通信、輸送、住居、娯楽の分野を司る6つの大企業に支配されていて、人々の闘争心のはけ口として都市別チーム対抗のローラーボールが人気を集めていた、という設定は映画を見終わった後のWikipediaで初めて知りました。映画の中ではほんの少しセリフで説明があっただけで、争いのない世界とか人々が熱狂できる唯一のスポーツというようなイメージが映像的に出てくるわけでもありません。せっかくスケールの大きい未来社会を描いているならその世界観を映像化してくれればよかったのですが、ノーマン・ジュイソンの演出はある企業にとってプロスポーツクラブが経営の負担になっているので高額報酬の選手を引退させよう的なチマチマしたお話に矮小化するばかりだったのではないでしょうか。

ストーリーを引っ張るのはなぜ社長が中心選手のジョナサンを引退させようとするのかです。その真相を突き止めようとジェームズ・カーンは図書館に行きコンピューターセンターにまで行きます。しかしラルフ・リチャードソンに案内された場所にはプラスチック箱に水が詰まったコンピューターがあるだけで、質問すると「拒絶します」と回答するだけ。ジョン・ハウスマン演じる社長はTV会議での取締役会でジョナサンの引退に賛成するよう圧力をかける場面だけが提示されるのみで最後まで「なぜ」は不明なままに置いてけぼりを食わされてしまいました。

モード・アダムス演じる妻と強引に別れさせたとかジェームズ・カーンの相手がブルネットから金髪やせ体形の女性に切り替わるとかも、なんでそんなことをするのかが観客には全く伝わってきませんし、東京からニューヨークに対戦が進む中でどんどんルールが変わっていってスポーツではなく暴力戦みたくなっていくのも理解不能でした。ジェームズ・カーンひとりが邪魔ならば、世界を支配しているエネルギー会社ならば痕跡を残すことなく抹殺するなんてすぐにできてしまうはずです。社長もいちいち本人の希望を聞くための面会なんかしなくて良いので、金髪女に毒を盛るよう指示するだけで済みじゃないスかね。

おまけにショット代わりの最後のタイミングでいちいちキャメラがグッと被写体にズームインするのあはなぜなんでしょうか。ストーリーが盛り上がらないのでググっとズームを繰り返すことで映像的な印象を深めようという意図だとしたら、まったくその効果はありませんでした。TVに映っているボードメンバーにもググっとズームしたりするのを見せられると、本当にこれはノーマン・ジュイソンが演出しているのかなと思うほどの陳腐さで、初めてキャメラを触った素人が面白半分にズームレバーをいじっているだけではないかと疑ってしまうくらいのダメダメさでした。

ついでにクローズアップショットについて加えると、本作の中で一番のクロースアップが使われていたのは東京チームとの対戦前に選手たちに対策を教えようとするアジア系コーチの両目を映し出したショットで、力でねじ伏せるんだという選手たちとカットバックする場面で使われていました。映画の中で最も人物に寄ったショットがストーリーとほとんど関係ない人の顔のアップなんですよ。こんなところでクロースアップショットを使う監督は初めて見ました。

ではローラーボールのゲームシーンの描写が手に汗握るようなエキサイティングかと言えばそんなこともなく、ミュンヘンのオリンピックバスケットアリーナを借りてバンクを造ったもののスピード感も迫力もないただ単にグルグル回っているだけに終始していたのは残念でした。東京での試合はアジア人のエキストラを集めて雰囲気を出そうと試みたそうですが、観客が日本人には見えませんでしたし(まあ無国籍風で猥雑さはありましたけど)鉄球を入れるところにカタカナ縦文字で「ゴール」と表記した安普請さはまさにトホホな感じでした。

ちなみにローラーボールはあきらかにローラースケートを履いた選手たちが追い抜きを競うローラーゲーム(ローラーダービーともいうらしい)を参考にしていて、かつて日本でも東京ボンバーズなるチームが結成されてロスアンジェルス・サンダーバードなどのアメリカチームと試合していたのが思い出されます。とは言ってもどんなルールで何を競い合っていたのか皆目見当もつかないスポーツで、その点では『ローラーボール』は鉄球をゴール穴に入れるという点数争いだとわかるのだけは評価したいと思います。

あと評価点はクラシック音楽の使用で、これがディストピアSFらしい雰囲気づくりに貢献していました。アンドレ・プレヴィンの指揮でロンドン交響楽団が演奏しているバッハの「トッカータとフーガ 二短調」やショスタコーヴィッチの「交響曲第五番第三楽章」などが効果的に使われていて、下手なオリジナル曲よりも近未来感を出すことに成功していました。

加えてロケーション撮影で未来的建築物が出てくるところも見どころになっていましたね。エネルギー会社のビルとして登場するのはミュンヘンにあるBMWの本社ビルで「フォー・シリンダー・ビル」と呼ばれている建物。オーストリアの建築学教授カール・シュヴァンツアーによる設計で1973年に竣工していて、図書館として出てきたのも本社ビルの隣にあるBMWミュージアムです。またワシントンのコンピューターセンターという設定で出てくる広大な建築物はジュネーヴにあるパレ・デ・ナシオン。国際連盟の本部として1936年に完成した「万国宮殿」は現在では国際連合欧州本部として機能しています。

そんなわけで『ゴッドファーザー』で名を成したジェームズ・カーンがよくこんなオファーを受けたなという感じの駄作でしたけど、本がなくなっていてすべて電子化されているとか本の知識がコンピューターに蓄積されているのに人間の問いに答えないとか、2018年という近未来の設定が現在的にはなかなか正しかったことが証明されていました。1970年代前半までのアメリカ映画の牽引役のひとりだったノーマン・ジュイソンが本作を契機にスランプに陥った(1987年の『月の輝く夜に』程度しか目立った作品がない)ことを考えると、駄作というものは関わったスタッフやキャストのキャリアにも影響を及ぼしてしまうんだなと思い知らされるのでもありました。(A092726)

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