カプリコン・1(1977年)

火星有人探査宇宙船の乗組員たちが陰謀に巻き込まれるSFサスペンスです

こんにちは。大船シネマ館主よのきちです。今日の映画は、ピーター・ハイアムズ監督の『カプリコン・1』です。アポロ11号が人類初の月面着陸に成功したのは1969年7月のこと。TV映像を通じてアームストロング船長が月に降り立つ映像に世界中が注目したのですが、1970年代に入ると月面着陸は捏造されたものだという陰謀説がささやかれるようになります。それに着目したのがピーター・ハイアムズで本作は宇宙船「カプリコン・1」の火星着陸が陰謀に巻き込まれるという設定になっています。1978年6月のアメリカでの劇場公開に先立って日本では東宝東和設立50周年記念作品として1977年12月にロードショーされました。よって大船シネマでは1977年作品として扱うことにします。

【ご覧になる前に】宇宙飛行士役以外に当時活躍中の俳優陣が勢揃いします

フロリダ州ケネディ宇宙センターでは火星有人探査宇宙船カプリコン・1打上げのカウンダウンが始まっています。整備長から聖書をプレゼントされた三人の宇宙飛行士を対岸の観客席から見守るのはブルベイカー船長らの家族たち。発射準備が完了したところでいきなりハッチが開けられ、ロケットから降ろされた三人は車に乗せられます。宇宙飛行士不在のままカプリコン・1は火星に向かって打ち上げられ、その様子がTV映像で世界中に送られたとき、砂漠の中に放置された基地の会議室に閉じ込められたブルベイカー船長ら三人はカプリコン計画責任者のケラウェイ博士と対座していたのでした…。

本作を製作したITCエンターテインメントはロシア生まれのイギリス人ルー・グリードが設立した映像製作会社で、1960年代にはジェリー・アンダーソンのAPフィルムズを子会社化して「サンダーバード」「キャプテン・スカーレット」を世に送り出し国際的に大成功を収めました。1970年代になるとルー・グリードは映画界進出を試み、共同製作した1975年の『ピンク・パンサー2』を大ヒットさせたほか、ディック・リチャーズ監督の『さらば愛しき女よ』もITCエンターテインメントの作品です。

ニューヨーク出身でブロードウェイのプロデューサーの父親をもつピーター・ハイアムズは脚本も書ける監督で、監督デビュー作の『破壊!』でも自ら脚本を書いています。1977年にドン・シーゲル監督の『テレフォン』に脚本を提供した後、本作の脚本兼監督をつとめたピーター・ハイアムズは、スタンリー・キューブリック監督の信奉者だったらしく、1984年には『2001年宇通の旅』の続編にあたる『2010年』では脚本兼監督だけではなく製作も担ったうえで撮影まで自分でやるほどの入れ込みようでした。ピーター・ハイアムズはアポロ11号の月面着陸について「重要な出来事なのに目撃者がおらず、我々が確認できるのはTV映像のみだった」と語っていたそうで、月面着陸直後には本作の脚本を執筆していましたが、当時はどの映画会社もプロダクションも相手にしてくれなかったんだとか。数年が経ち『ピンク・パンサー2』を当てたルー・グリードにその脚本を見せると、グリードは5分で製作に同意。当初の製作予算は480万ドルだったといいますから、低予算作品としてスタートしたわけです。

プロデューサーを任されたポール・N・ラザルス三世は1976年に『ウエストワールド』の続編『未来世界』の製作を通してNASAとコネクションをもっていました。『未来社会』はテーマパークのデロスランドに新規オープンした「フューチャーランド」を舞台にしていましたから、NASAからいろんな機器を提供してもらったのでした。ラザルスは本作でも50万ドル相当の機器を借り出すことに成功して、順調にいけばケープ・カナベラルの宇宙基地でのロケも可能になるはずでした。ところが『カプリコン・1』のストーリーを知った途端にNASA当局は協力を全面拒否。結局宇宙基地のシーンはテキサスに作ったロケセットで撮影することになったんだそうです。

キャメラマンのビル・バトラーは『カンバセーション…盗聴…』や『ジョーズ』の撮影を担当して脂の乗った時期の作品のひとつ。音楽はジェリー・ゴールドスミスで、本作のテーマ曲は彼のお気に入りのスコアだったそうです。最初はクルト・グラウンケ指揮のミュンヘン交響楽団による素晴らしい演奏で録音が行なわれたもののゴールドスミスはそれで満足できず、イギリスに飛んでロンドンのナショナル・フィルハーモニック管弦楽団で録り直しする入れ込みようでした。

宇宙飛行士を演じるのは『ウエストワールド』に出演していたジェームズ・ブローリン、『華麗なるギャツビー』でギャツビーの友人役をやったサム・ウォーターストン、アメフトプレイヤーで『タワーリング・インフェルノ』にゲスト出演していたO・J・シンプソンの三人。実はこの三人以外の俳優陣がすごくて、1970年代のアメリカ映画界で活躍していたスターたちが勢揃いしています。『ロング・グッドバイ』でフィリップ・マーロウをやって『破壊!』でピーター・ハイアムズと組んだことがあるエリオット・グールド、『ウィークエンド』で復讐の主人公を演じたブレンダ・ヴァッカロ、『ダーティ・ハリー2』『大統領の陰謀』などのバイプレーヤーであるハル・ホルブルック、『エアポート’75』で注目され『ファミリー・プロット』でヒッチコック監督に起用されたカレン・ブラック、『女王陛下の007』でブロフェルドを演じ1970年代にはTVシリーズ「刑事コジャック」で大人気だったテリー・サバラス、同じくTVの大ヒットシリーズ「チャーリーズ・エンジェル」のボスレーでおなじみのデヴィッド・ドイル。全員が主演を張れる人気俳優にもかかわらず、エリオット・グールド以外は脇役としての出演で、当時の人気俳優たちの豪華な配役が楽しめる一本でもあります。

【ご覧になった後で】懐かしい娯楽大作ですが今見るとやや粗が目立ちます

いかがでしたか?1977年12月のロードショー公開時に地方都市ではリチャード・ハリス主演の『オルカ』と二本立てで上映されまして、そのときに見て以来の懐かしい再見となりました。当時の印象が記憶の中で肥大化していて火星着陸を偽装する場面を含めてSFサスペンスの超傑作だったと思い込んでいたのですが、現在的な目で見直すと結構あちらこちらで粗が目立ってしまい「そうはならないでしょー」みたいな感じの作品でした。

本作の決め手は「宇宙飛行士がロケットには乗らずにスタジオで火星着陸を演じる」&「宇宙船の帰還が失敗に終わり宇宙飛行士が生きていてはいけない状況になる」というオリジナルかつアイディア抜群のストーリーにあります。これを聞いただけでどんな映画なんだろうかと興味が沸きますし見に行きたくなってしまいますよね。けれどもこのストーリーを生かし切るにはリアリティのあるディテールを注意深く積み重ねる必要がありますし、観客に変な疑問を持たせずに一気見させるスピード感が求められます。たぶんロードショーで見たときには連続するアクションのスピード感に圧倒されて娯楽大作の傑作という印象になったんだと思いますが、実は結構ディテールの部分が詰め切れていませんでした。

例えば導入部でコックピットの窓から近づいてくる背広の男が見えてハッチが開けられるところ。ヒューストン宇宙センターはロケットのすべての動きをチェックして何か予期しないことが起きたらすぐさま発射のカウントダウンを中止して再点検することになっているはずです。コックピットのハッチを事務方の人間が外からすぐ開けられるのも変ですしハッチの開閉はすぐにセンターで感知されるはずなので、宇宙飛行士を秘密裡に連れ出すことなんて不可能です。この導入部だけで「おかしいんじゃないの」と観客は疑問を持ってしまいます。

百歩譲って連れ出しに成功したとしても宇宙飛行士三人分の重量の変化はどうするんでしょうか。アポロ計画で地球に帰還する司令船カプセルの重量は5500kgだったと言われていて、宇宙飛行士三人の体重は300kgくらいにはなるはずですから5%程度の影響があります。当初より軽くなったとしたら飛行計画や大気圏突入の際に致命的な計算ミスにつながるはずではないでしょうか。また宇宙飛行士は廃棄された基地跡に幽閉されますが宇宙船による火星往復は数か月に及ぶミッションであり、彼らがいつも宇宙服のままでいたりするので時間の経過が伝わりません。ヒューストンと宇宙船の交信は練習時の録音を使っているという説明が途中で入りますが、本番飛行の細かなやりとりなどが録音で済ませられるわけがありません。交信に数分のズレが発生するわけですから、幽閉した宇宙飛行士三人にヒューストンからの問いかけに応えさせてその音声を通信衛星経由でヒューストンに返すくらいの工夫をするべきではないかと思ってしまいます。

映画では火星着陸の場面を映画撮影さながらのセットで「スローモーション!」などタイミングを計って偽装する過程が細かく描かれます。でも考えてみればこの映像も地球に届くまでにそれなりの時差があるならばわざわざオンタイムで撮影しなくても録画しておけば十分じゃないスかね。おまけに宇宙服のヘルメットのバイザーは透明ではなく遮光処理がされているので宇宙飛行士の顔は見えません。だったら本人でなくてもスタントマンを使えば何とでもなるような気もしますし、曲面バイザーにはかなりの範囲で周囲のものが反射して映ってしまうので撮影スタッフが見切れないかどうか見ているこっちが心配になってきます。

宇宙空間では重量がないので宇宙飛行士は帰還したカプセルから自分で這い出すことができないくらいに筋力が落ちます。それを想定して三人をずっと寝かせておくとかなんでしないんでしょうか。とにかく偽装計画が杜撰過ぎてしまって、見ているうちにそんなディテールの詰めの甘さが気になって集中できませんでした。その最たるものが大気圏突入の失敗を伝えられた三人がいとも簡単に砂漠の基地跡を逃げ出すところ。会議室の扉に鍵をかけたくらいではあまりに手抜かりですしネックレスのコインでヒンジをクイクイした程度で外れてしまう扉ってあるんですか。都合よく小型飛行機が目の前に停まっているのも変ですし、車輪を損傷しているはずなので燃料不足で不時着する際にあんなにうまく胴体着陸できるってプロのパイロットでも不可能ですよね。

そして決定的に許せないのは無人になった基地跡でエリオット・グールドがジェームズ・ブローリンのネックレスを発見して宇宙飛行士が幽閉されていた事実を突き止める流れ。あのネックレスは宇宙飛行でも肌身離さず身につけていた思い出の品であって、さっきの扉粉砕場面でも落としたり投げ出したりはしていないはず。ではなぜ撮影場所の真ん中に落ちていたか。ただ単にエリオット・グールドに確信を持たせたかったからだけで、そこには伏線もありませんし登場人物の感情も考慮されていません。小道具の使い方としては最悪の見本のような扱いでした。

いやいや、傑作だったという勝手な記憶を裏切られたような気分になってしまい粗をつつき過ぎました。いろいろ不満がありますが実は腹を立てて見ていたわけではなく、それなりに楽しんで見られる娯楽作であることも事実です。それが連続するアクションのスピード感というもうひとつの側面で、こっちはアクションを連打することでかなり成功していたと思います。

まずはエリオット・グールドのムスタングがブレーキ制御不能になって暴走するシークエンス。車のバンパーの下にキャメラを仕込んで道路スレスレの視覚から撮った疾走感のあるショットはぶつかりぞうになる車を思わずよけてしまうそうなくらいの臨場感がありました。またテリー・サバラスが操縦する農薬散布双翼機とヘリコプターと追っかけシークエンスも迫力満点で、翼にしがみついたジェームズ・ブローリンのスタント役は死ぬ思いだったのではないかと想像されるくらいリアルなアクションシーンになっていました。スタントで操縦を担当したフランク・トールマンが「映画史上最も複雑で危険な飛行シーンだ」と感想を述べたそうですが、まさに手に汗握るような追跡劇が堪能できました。

そしてジェームズ・ブローリンが自分の葬儀が行われている会場に姿を現すラスト。驚いて振り向く列席者と走りながら近づいてくるジェームズ・ブローリンはコマ送りに近いスローモーションの対比が見事で、陰謀を企てそれを信じていた側と陰謀に巻き込まれそれを暴いた側が映画の最後になってやっと接点をもつカタストロフィが映像化されていました。もちろん大統領が出席する場ですからシークレットサービスが警備しているはずで、あんなに簡単に走って近寄れるわけがありません。でもここだけはエモーションを高めるためにも現実の制約条件を解き放つべきでしょう。このラストショットを見ると、ストーリーは良いのに粗の多いプロットも許せるような気になってくるのが不思議なところでした。(T073026)

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