いつも2人で(1967年)

オードリー・ヘプバーンが映画出演を中断する直前に作られた傑作です

《大船シネマおススメ映画 おススメ度★》

こんにちは。大船シネマ館主よのきちです。今日の映画は、スタンリー・ドーネン監督の『いつも2人で』です。オードリー・ヘプバーンは1967年に出演した『暗くなるまで待って』を最後に映画出演を中断し子育てに専念するようになるのですが、同じ1967年に公開されたのが本作で、オードリーとしてははじめてベッドシーンや水着姿や不倫などに挑戦しています。監督のスタンリー・ドーネンは『パリの恋人』『シャレード』に次いでオードリーと組むのは三作目。一流映画監督のもとで映画出演してきたオードリーにとっては三度も組んだ監督はスタンリー・ドーネン以外にはいませんでした。

【ご覧になる前に】アルバート・フィニーはオードリーより7歳年下でした

メルセデス・ベンツ230SLに乗ってパーティに向う結婚12年目のジョアンナとマークは車の中で口喧嘩が絶えません。結婚したてのときには中古で買ったMGのオープンカーで愉快な旅をした二人でしたが、彼らが出会ったのはマークが建築家を目指していた学生の頃。合唱コンテストに向うためにジョアンナたちのチームが乗っていたバスにマークが同乗して宿舎に到着すると他のメンバー全員が水疱瘡(chicken pox)にかかってしまい、ジョアンナとマークだけでヒッチハイクの旅を続けることにしたのでした。一方で結婚したばかりのときにマークの友人マンチェスター親子の車に乗り合わせてフランスへ旅したこともあり、娘のルースのわがままに振り回されたのをジョアンナは思い出すのでしたが…。

この映画のあらすじを紹介するほど難しいことはありません。たくみに現在と過去を織り合わせて夫婦の恋愛と愛情のシナリオを書いたのはフレデリック・ラファエル。作家であり脚本家であり俳優でもあったラファエルはジョン・シュレシンジャーの『ダーリング』『遥か群衆を離れて』を脚色していますし、スタンリー・キューブリックとともに『アイズ・ワイド・シャット』の脚本を書いています。それらに比べると彼が創作した本作のオリジナルシナリオは非常に印象的な作品になっていて、本人も「この映画の製作に参加していたときほど幸せな気分だったことはない」と語っています。

そのシナリオには倦怠期の妻が不倫するエピソードが入っていて、それを読んだオードリー・ヘプバーンは一度は出演オファーを断ったそうです。しかしオードリーに自分の殻を破ってほしかったスタンリー・ドーネンはしつこくオードリーに再考を求め、メル・ファーラーとの間の子を流産したばかりだったオードリーも気持ちを新たにして本作への出演を決意したのだとか。

ジヴァンシーのオートクチュールを着ることを禁じられたオードリーはパリで自ら選んだマリー・クワントやパコ・ラバンヌなどのプレタポルテを時代ごとシーンごとに着こなすことになりました。また超多忙で本作への楽曲提供を断ったヘンリー・マンシーニにはオードリーが直接電報を打ち「すばらしいシナリオの映画なのでぜひあなたに作曲して欲しい」と切願し、ヘンリー・マンシーニもオードリーからの頼みでは断るわけにもいかなくなったそうです。結果的には、本作のテーマ曲はヘンリー・マンシーニにとって数ある名曲の中でも特にお気に入りの作品になりました。

オードリーの夫役で共演するアルバート・フィニーは撮影当時三十歳。かたやオードリーは撮影時に三十七歳のバースデーを祝っていますので、なんとアルバート・フィニーのほうが7歳年下になるのです。役柄上は夫のマークは妻ジョアンナより年上として描かれていますので、俳優の実年齢が大きく逆転していたわけですが、それをオードリー・ヘプバーンのメイクアップチームが化粧と髪型で補っていて年齢差が目立たないように見せています。ちなみにアルバート・フィニーはピーター・オトゥールとはイギリスの舞台仲間で、『アラビアのロレンス』の主役をオファーされたフィニーが舞台出演でスケジュールが合わず、ロレンス役がピーター・オトゥールに回ってきたという因縁があったそうです。本作のマーク役も同じくイギリスの舞台出身のマイケル・ケインに出演依頼があり、ケインが断ったのでアルバート・フィニーに話がいったということで、マイケル・ケインはオードリーとの共演機会を逃したことを後年までひどく後悔していたんだそうです。

キャメラマンのクリストファー・チャリスは『アラベスク』でも撮影を担当していましたから、スタンリー・ドーネンに信頼されていたキャメラマンのようです。また『シャレード』『アラベスク』でタイトルデザインを担当したモーリス・ビンダーも本作のオープニング&エンディングクレジットのデザインをやっていまして、開巻後すぐにこのすばらしいタイトルデザインを見ることができます。

【ご覧になった後で】いつの話なのか車やファッションで一目でわかります

いかがでしたか?現在を基軸にいくつかの過去が交錯する話で、普通でいえばいつの話なのかが伝わらずこんがらがってしまうところですが、本作がすばらしいのはすべてをビジュアルで表現してしまう演出力です。乗っている車が違っていて、オードリー・ヘプバーンの髪型と洋服が変わるので、一目で結婚直後に切り替わったな、とか、子供が生まれた後だな、とかが理解できてしまうんですよね。それも無駄なフェードアウトやオーバーラップなどの現像処理は一度も使用せず、全部をカッティングだけで表現していて、本当にフレデリック・ラファエルのシナリオはよくできていますし、スタンリー・ドーネンの演出センスが最高に冴えていました。スタンリー・ドーネンの前作はやる気をなくした『アラベスク』だったので、失敗を繰り返さないためにもまずは優れたシナリオを選ぶところから始めたのかもしれません。

そしてそのスタンリー・ドーネンに引っ張り出されたオードリー・ヘプバーンにとって、本作は彼女のキャリアの中でも非常に重要な作品になったといえるでしょう。もちろんかつての妖精のような美しさはありませんし、女学生や新婚ホヤホヤの若いジョアンナを演じるのには歳をとり過ぎていたのは明らかでしたが、女優として本格的な演技を見せることができたのはこの役のおかげでしょうし、『暗くなるまで待って』のようなシリアス一辺倒ではなく、普通の女性の喜怒哀楽というか山あり谷ありというか笑いもあれば涙もある幅広い演技を見せられたことは、オードリーにとって達成感のある仕事だったのではないでしょうか。オードリーは『暗くなるまで待って』で1967年度のアカデミー賞にノミネートされたのですが、本人は本作のほうでノミネートされたかったらしいですね。メル・ファーラーとの結婚生活がうまく行かず、二人の間に息子がひとりいたこともオードリー自身の実生活とジョアンナの設定に共通点があって、オードリーはジョアンナ役をかなり気に入っていたようでした。

また本作はアルバート・フィニーの演技の巧さにも支えられていて、マークというキャラクターが非常に魅力的なのはアルバート・フィニーが演じたからだったのではないでしょうか。実際の撮影現場でもアルバート・フィニーは常に明るく冗談を言ってはしゃいだりしてオードリーもつられて笑うことが多かったそうです。このような外向的な明朗さが苦みも渋みもある本作を基本的には明るいイメージにしていたのだと思います。

スタンリー・ドーネンの映像表現としては、すれ違う車で時代変換していくショットが見事な切れ味を見せていました。またすべての時代の車での切り替えが一度に見られるエピローグも映画全体を振り返るようで、ちょっとセンチメンタルな気持ちにさせられるようでしたね。また現在のシークエンスではメルセデス・ベンツに乗るオードリーとアルバート・フィニーを車の窓ガラス越しに撮影して、窓に映る森の影が二人の心象表現につながっていたのが印象的でした。そういえばフランスのシャンティイ観光のコマ落としなどもスラップスティック的で斬新でしたよね。

主役の二人以外ではジャクリーン・ビセットの若くはちきれそうな美しさが圧倒的で、あのジャクリーン・ビセットを前にしたらオードリーよりジャクリーンを選んでしまいそうです。またおかしなマンチェスター一家の妻キャシー役をやっているのはエレノア・ブロン。この人はビートルズが出演した映画の第二作『ヘルプ!4人はアイドル』でリンゴの指輪を追う王女エーメ役を演じたことで有名で、ポール・マッカートニーがつくった「エリナー・リグビー」はこのエレノア・ブロンのことをイメージしてできあがったという話らしいです。

そしてヘンリー・マンシーニの音楽とモーリス・ビンダーのタイトルデザイン。このコンビネーションは本当に最高で、YouTubeでもこのオープニングの2分程度の動画だけがよくアップされて膨大な閲覧数をカウントしています。テーマ曲「Two for the Road」は歌詞入りのものもあって、ヘンリー・マンシーニ&ヒズ・オーケストラ&コーラスによるバージョンは何度聴いてもロマンテイックな気分にさせてくれます。そんなわけで、この『いつも2人で』は、俳優も演出もシナリオも音楽もデザインセンスも、すべて一級品が揃った傑作といえるでしょう。(T073122)

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