砂漠の鬼将軍(1951年)

「砂漠の狐」と呼ばれたドイツ軍のロンメル将軍が主人公のアメリカ映画です

こんにちは。大船シネマ館主よのきちです。今日の映画は、ヘンリー・ハサウェイ監督の『砂漠の鬼将軍』です。原題が「The Desert Fox The Story of Rommel」となっているように、この映画は「砂漠の狐」と呼ばれたドイツ軍ロンメル将軍の物語です、エルヴィン・ロンメルはアフリカ戦線で英国軍と戦った英雄で、大戦中のドイツではヒトラーに次いで国民から人気があったとか。そのロンメルがどんな人で、ドイツ軍の中でどのように振る舞い扱われたのかを丁寧に描いていますので、ヨーロッパ戦争の勉強にもなる映画です。

【ご覧になる前に】ドイツを賞賛した映画として各地で上映を拒否されました

アフリカ戦線でドイツ軍の捕虜となったヤング中佐は爆撃を中止するよう英国軍に指示するように命じられますがそれを拒否します。その様子を見ていたロンメル将軍が捕虜は敵軍の命令を拒否する権利があるのだと諭してその場をおさめてくれました。戦争終結後ヤング中佐は1944年に死亡したロンメル将軍について調査研究を行います。その調べによると、エル・アラメインで戦っていたロンメルは、補給を断たれて孤立した自軍に対して「戦いか死か」と戦闘継続を指令するベルリンに不信感を抱くのでしたが…。

エルヴィン・ロンメルは最終的には元帥にまで昇り詰めたドイツ軍の軍人で、アフリカ戦線での巧みな戦術によって英国軍を何度も敗退させ「砂漠の狐」の異名をとるほどの戦略家でした。英国首相チャーチルがロンメルのことを「大胆で有能な敵手で、優れた将軍である」と演説の中で評したんだそうです。家族を大切にしたことでも知られていて、戦場にいても妻とは頻繁に文通を続けました。ドイツ軍の将校たちはユンカーと呼ばれる地主貴族出身者が多数派を占める中で、ロンメルは中産階級出身では初めて元帥になり、他の将校たちが会議室での指揮を好んだのに対してロンメルは常に最前線に出て陣頭指揮を執ったそうです。現場にいるのはいいことですが、あまりにあちらこちらに移動するのでなかなか連絡がとれずベルリンを困らせたようですけど。

ロンメル将軍の姿をアフリカ戦線で目撃した経験のある英国軍将校のデズモンド・ヤングが戦後にジャーナリストとなって描いたのが、本作の原作となった「ロンメル将軍」という評伝でした。ロンメルの未亡人や知人・友人に取材したこの著作は、戦後における「ロンメル=名将」論を裏付ける書としてロンメルのイメージを決定づけることになったそうです。しかしながら1970年代になると歴史家や軍事史家たちが様々な視点でロンメルの業績を再検証することとなり、英雄像だけではないロンメルのマイナス面も指摘されるようになりました。もちろん完璧な英雄なんてものはあり得ませんし、戦争であればどんな軍人も勝ちもすれば負けることもあったでしょうから、当事者と同じ時空を共有していない限り、後になったら何でも言えるものです。

監督のヘンリー・ハサウェイは娯楽映画を専門にしたハリウッドの職人監督でした。1930年代にはランドルフ・スコット主演の西部劇、その後はゲーリー・クーパー主演作を監督するようになり、1947年に代表作ともいえる『死の接吻』を発表しています。この作品はリチャード・ウィドマークのデビュー作としても有名ですが、1960年代以降はジョン・ウェインと組んだ『アラスカ魂』やスティーヴ・マックイーン主演の『ネバダ・スミス』なんかも作っています。そして1971年には連合軍の視点からアフリカ戦線を描いた『ロンメル軍団を叩け』の監督をしていて、奇しくもロンメル将軍をテーマにした映画をドイツ軍視点と連合軍視点の両方から作ることになったのでした。

ロンメル将軍を演じるのはジェームズ・メイスンで、ロンメル役にはカーク・ダグラスやリチャード・ウィドマークが候補にあがったそうです。共演するのはレオ・G・キャロルとジェシカ・タンディ。この顔ぶれはなんとなく既視感があって、ジェームズ・メイスンとレオ・G・キャロルは『北北西に進路を取れ』、ジェシカ・タンディは『鳥』でアルフレッド・ヒッチコック監督作品に出演していた俳優さんたちでした。

本作はロンメル将軍を英雄的に描いていて、それは原作に忠実だからなのですが、1951年といえばまだ第二次大戦終結から6年しか経過していない時期です。まだまだナチスドイツへの拒絶感は生々しい時代でしたので、ワーナーブラザーズ系列の映画館では本作は上映拒否にあっていますし、当時の西ドイツをはじめオーストリアやフランスでも上映禁止の対象にされたそうです。そんな中で本作を支援したのは英国で、冷戦に突入しようとしている時期において西ドイツの再軍備を奨励する英国が、戦時中のドイツの課題は軍にあったのではなくヒトラー個人のためだったということを喧伝したいという思惑があったようです。

【ご覧になった後で】ロンメルの死の謎に迫る戦記物として貴重な作品でした

いかがでしたか?ロンメル将軍については砂漠で活躍したドイツの軍人という程度の知識しかなかったため、ロンメルがあのヒトラー暗殺計画にからんでいたという史実は全く知りませんでしたし、自死を強制されたというのも本作ではじめて知りました。全くの無知蒙昧だったわけですが、未亡人のルーシー夫人が本作のコンサルタント兼アドバイザーをつとめていて、本人が着用していた軍服まで提供したのはロンメルの名声を守りたかったためかもしれないので、一概に本作の内容がすべて真実だと信じるわけにはいかないのでしょう。しかしながらヒトラーの狂気やVロケットの開発などを思うと、実戦経験豊富なロンメルがヒトラーには任せておけないと考えたことはある程度本当なのかなと受け止めてもよいのかもしれません。

謎解きの戦記物として見ると非常に面白く見られましたし、英国で戦時中に製作されたドキュメンタリー映画から戦闘場面のフィルムの挿入が臨場感を醸し出していて、ドイツ軍の内幕ものとして非常に貴重な作品だと思われます。ヒトラー暗殺計画はよく知られた第二次大戦のエピソードではありますけど、その大事件にロンメルが関与していたとは思ってもみなかったですし、その関与の仕方が積極的だったのか消極的だったのかは暗闇の中だとしても、当時のドイツ軍幹部の多くがヒトラーの命令に疑問を感じていたのは紛れもなく真実だったんでしょう。

またヒトラーがロンメルの死を自分の都合の良いように利用しようとして、名誉と家族の安全を保つことをあえて交換条件として自死を選択させるという結末には、まだまだ近代史には謎が多いんだなと再認識させられました。特に敗戦国においては重要文書が焼却されたり戦争犯罪追及を恐れていろんな事実が伏せられたりしたわけですから、本作はそんなタブーに果敢に挑んだチャレンジャブルな映画だったという点については評価に値すると思います。

けれども映画として見ると結構アラが目立つところがあって、例えばロンメルにヒトラー暗殺を望む気持ちを確認させるシュトローリン市長は、途中でぱったりと出て来なくなって暗殺計画の一味として処刑されたのかどうかも描かれていません。また市長に夫の本音を告げ口する形になったルーシー夫人はそのことが結果的にロンメルを自死に追い詰めることになったのを振り返りもしませんし反省もしません。まあアドバイザーとして協力した夫人を悪く描くことはできないでしょうけど、ドラマとして見た場合にはどうしても描き方に甘さが出てしまって、映画としての完成度を落としているのはいかんともしがたい点でした。

またリアリティの観点からすると、ドイツ軍人すべてが流暢な英語を話すのは見ていても非常に違和感があり、たまに街中の風景が映るときちんとドイツ語表記がされているのにセリフがすべて英語だというのはいかにも作り物っぽく見えてしまいました。簡単にいえば太平洋戦争下の日本軍を描く映画で、日本人が全員英語を話すのと状況は同じなわけですよ。リアルさを重視するなら『史上最大の作戦』のようにドイツ軍人は全員ドイツ語を話すべきでしたし、『ニュールンベルグ裁判』のようにドイツ語を話させておいてあるときから「ずっと字幕では見づらいでしょうからここから英語に切り替えますよ」的な処理が必要だったと思います。

エンディングでは戦車のうえで指揮を執るロンメルがいかにもヒーロー然として映像化されており、本作を作った20世紀フォックスはアメリカでバッシングに合わなかったのか心配になるほどでした。アメリカ映画にしては偏見も偏向もなく、騎士道精神的な公正さが感じられて、ある意味ですがすがしい作品であることは否定できないのではないでしょうか。(A112322)

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