ジョン・フォード騎兵隊三部作の最後は疎遠だった妻子との再会が主題です
こんにちは。大船シネマ館主よのきちです。今日の映画は、ジョン・フォード監督の『リオ・グランデの砦』です。『アパッチ砦』『黄色いリボン』に続くジョン・フォードの「騎兵隊三部作」の最終作にあたる本作は、騎兵隊の中佐が南北戦争をきっかけに疎遠になっていた妻と息子に再会するという展開になっていて、西部劇でありながら妻との愛を取り戻すロマンスを織り込みつつ息子が一人前の軍人になっていくのを父が見守る師弟ものにもなっています。ジョン・ウェインとモーリン・オハラは本作ではじめて共演しましたが、この後もジョン・フォード監督作品で共演を繰り返すことになるのでした。
【ご覧になる前に】『静かなる男』を製作するために撮られた映画です
メキシコ国境に近いリオ・グランデにあるスターク砦にカービー・ヨーク中佐率いる騎兵隊が帰還しました。彼らはこの一帯を荒らしてはメキシコに戻っていくアパッチ族に手を焼いており、今回の出兵で捕虜とした9人のアパッチを砦に収容したのでした。その頃クインキャノン軍曹は入隊した新兵に対して馬の騎乗訓練を行っていましたが、ヨーク中佐は新兵の中に15年前に別れた息子がいるのを見て驚きます。息子のジェフは士官養成学校で数学の点が足らず不合格になったところで、母親であり中佐の妻であるキャサリンがスターク砦を訪れてジェフを除隊させると申し出るのでしたが…。
本作の冒頭に出てくるオープニングロゴは鷲のマークで、製作会社は「リパクリック・ピクチャーズ」となっています。この製作会社はMGMやパラマウントなどのメジャースタジオとは違って、B級映画や西部劇を専門に製作していて、創設者のハーバート・J・イエーツが社長をつとめていました。ジョン・フォードはこのリパクリック・ピクチャーズで自身の故郷であるアイルランドを描いた『静かなる男』を製作する予定でしたが、イエーツはその企画では興行的に失敗するだろうと予測を立てており、『静かなる男』を作る前に製作資金を先に確保しようとジョン・フォードに西部劇を一本作らせてそれを保険にしようと考えたようです。ジョン・フォードは仕方なく本作の製作に取りかかり、しかも騎兵隊三部作の第一作『アパッチ砦』の製作費の半分くらいしかない低予算で本作を仕上げたのでした。
主演のジョン・ウェインは『アパッチ砦』と同じカービー・ヨークという名前の上官を演じていますが、『アパッチ砦』とのストーリー上の関連性はありません。妻キャサリンを演じるのは、『わが谷は緑なりき』でジョン・フォード監督に気に入られたモーリン・オハラで、本作のあとには『静かなる男』『マクリントック』『100万ドルの決斗』でジョン・ウェインとの共演を重ねることになります。
脚本のジェームズ・ケヴィン・マクギネスはトーキー映画初期からのシナリオライターで本作はキャリア末期の作品になります。またキャメラマンのバート・グレノンは『駅馬車』の撮影監督で、騎兵隊とアパッチ族との戦闘シーンでの移動撮影は本作でも見どころのひとつ。音楽は『80日間世界一周』や『シェーン』で有名なヴィクター・ヤングが担当していますが、本作の中では騎兵隊によって歌われる何曲かは別の人が作っているようです。
【ご覧になった後で】ジョン・フォードにしては出来栄えが少々落ちますね
うーん、やっぱりジョン・フォード監督も製作費捻出のための映画だと力が鈍るんでしょうか。本作はジョン・フォードらしい「勇壮かつ哀愁溢れる西部劇」にはなり切れていなくて、ジョン・フォード監督作品の中では少々出来栄えが悪いほうに入ると思います。そもそもアパッチ族の捕虜を連れ帰るところから映画が始まるのになぜ騎兵隊がアパッチ族と対立しているのかが描かれていないのですよ。スターク砦(この砦の名前は『黄色いリボン』と同じ)の周辺にはアメリカ人の居住地域はないみたいですし、牧場なんかも見当たりません。アパッチ族がアメリカ合衆国に対してどんな蛮行を働いたのかがわからないので、騎兵隊が一方的にアパッチ族を虐待しているように見えてしまうのが最大の欠点になっていました。
さらにはモーリン・オハラ演ずるキャサリンのキャラクター設定がちょっとボヤけてしまっていて、ジョン・ウェインの妻にしては若過ぎるように見えます(撮影当時ジョン・ウェイン四十三歳、モーリン・オハラ二十九歳)し、とてもジェフのような息子がいるとも思えません。ジェフを演じるクロード・ジャーマン・ジュニアは当時十六歳で、モーリン・オハラが息子にキスするとき、頬へのキスは母親として当然としても唇にもキスをしてしまうので、この二人がただならぬ関係なのかと疑ってしまうような描写になっていました。ちなみにクロード・ジャーマン・ジュニアはどこかで見た顔だなあと思って調べてみると、あの『子鹿物語』の子役をやった人でした。ずいぶん背が高くなったもんですね。
ジョン・ウェインのヨーク中佐との関係もなんだか微妙で、南北戦争で北軍所属のヨークが南軍支配地域を攻撃するためにキャサリンの代々続く実家の農園を燃やしたという設定なのはわかったのですが、なぜ北軍士官のヨークと南部の農園の後継ぎ娘が結婚したのかが説明されないのです。だからジョン・ウェインが大事そうに南軍の10ドル紙幣を差し出すところで、モーリン・オハラが怒ったように銀貨を投げ出す展開が、はてなんでだろうかとうまく呑み込めなかったのでした。
そんな曖昧さはエンディングまで引きずっていて、砦に帰ってきた兵士たちを心配そうに見守るモーリン・オハラがたぶん負傷したジョン・ウェインのもとに駆け寄るのかと思ったら、一番先に息子ジェフのところへ行ってしまいます。結局息子第一だったのか、と見ていると、担架にのったジョン・ウェインにいやいやそうに手を差し伸べるというように映っていて、モーリン・オハラへの印象が一気に悪くなってしまうんですよね。映像のテクニシャンではなく物語を映像で語ることのプロであるジョン・フォードにしてはずいぶんといい加減な作り方になっていて、本作はちょっと評価しがたい映画になってしまっていました。
ベン・ジョンソン演じるタイラー大尉は殺人罪で起訴されているにも関わらず騎兵隊が組織ぐるみで逃亡させる展開で、ここも法律を破ってまで助けていいのかという疑問がわいてしまいます。一方でヴィクター・マクラグレンがやるクインキャノン軍曹は情が厚い部下思いのキャラクターが伝わってきて好印象でしたが、この軍曹もアパッチ族との戦闘でやられたのかやられていないのかはっきりしませんでした。ちなみにこの二人は『黄色いリボン』にも全く同じ役名で出演しています。本作の出来を考えると、もしかしたらジョン・フォードも新しいキャラを考えるのが面倒で、同じ役名を同じ俳優に演じさせただけなのかもしれません。
本作に登場するインディアン役の俳優たちはナバホ族の人たちだそうで、出演した後になってやっと自分たちがナバホ族としてではなくアパッチ族として映画に出ていたことを知ったそうです。これもひどい話ですね。全くの余談ですが、ナバホ族の言葉は非常に複雑でアメリカ人にはほとんど理解不能だったそうです。この理解不能な言語に目をつけたのがアメリカ軍で、第二次大戦中に英語が話せるナバホ族出身者に暗号文をナバホ族の言葉に翻訳させ、それを電信で送り、受信側でもナバホ族の兵士が英語に変換して暗号文を伝えたという逸話が残っています。アメリカ人に理解不能だったら、もし日本軍が暗号を傍受したとしてもそれが言語であることすらわからなかったことでしょう。(V080422)
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