荒野の渡世人(昭和43年)

高倉健が主演、その他は全員外国人という「サムライウェスタン」です

こんにちは。大船シネマ館主よのきちです。今日の映画は、佐藤純彌監督の『荒野の渡世人』です。1964年のイタリア映画『荒野の用心棒』は世界中にマカロニウェスタンブームを巻き起こしました。そこで日本映画でも西部劇を作っちゃえということで、東映が「サムライウェスタン」と称して製作したのが本作。高倉健がただ一人の日本人として外国人俳優の中で孤軍奮闘の熱演を見せてくれます。

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ケンは咸臨丸にのってアメリカに渡っってきた日本の侍カトウの息子ですが、突然襲ってきた一団に両親を殺されてしまい、復讐を誓います。ケンは旅の途中で出会ったマービンから銃の扱いについて手ほどきを受けて早撃ちのガンマンに成長しますが、やっと見つけた仇の一人はマービンの息子でした…。

西部劇風のアクション映画といえば日活の得意領域で、「渡り鳥」シリーズのように銃を持った流れ者といった設定だけを西部劇風にして、舞台は日本の港町だったり炭鉱町だったりというプログラムピクチャーが大量生産されていました。しかし昭和40年代にイタリア製西部劇、いわゆるマカロニウェスタンが大流行することになって、イタリアで西部劇を作れてしまえるのなら日本で作れないわけないだろうと誰かが言ったのでしょう。東映がついに和製西部劇を製作することになりました。本作の公開時の惹句が「高倉健のサムライウェスタン/異国を駆ける日本の一匹狼/そのガンさばき0.35秒/オーストラリアの大平原長期ロケ!」というもので、イタリア製西部劇が「マカロニ」なら日本製は「そば」だとは思うのですが、高倉健が侍の息子という設定でもあるので「サムライウェスタン」と自称することになりました。

西部劇を撮影するとなると広大な草原というか岩と砂漠が続く荒野といった背景が必要になりますが、マカロニウェスタンはスペインが主なロケ地でした。本作も開巻すぐにはるか彼方まで続く大平原が映し出されて、これは明らかに日本じゃないなとわかるのですが、惹句にもあるように全編オーストラリアで撮影されたそうです。パン・アメリカン航空が協力としてクレジットされていまして、当時の日本映画が海外ロケする際には大概パン・アメリカン航空が航空券を提供していました。日本で観光旅行での海外渡航が自由化されたのは昭和39年ですから、昭和40年代において日本の観客に宣伝するには映画とタイアップするのが一番手っ取り早かったのでしょう。
オーストラリアロケですから主演の高倉健以外は、全員オーストラリアの俳優を起用しています。あ、忘れていましたが冒頭に出てきてすぐに殺されるケンの父親は志村喬がやっているので、日本人の主演者は二人だけですね。オーストラリアの俳優のセリフはすべて吹き替えで、ルパン三世の声で有名な山田康雄なんかもアテレコで出てきます。

監督の佐藤純彌は東映に入社して『陸軍残虐物語』で監督に昇進しましたが、本作を含めたその当時の作品よりもパニック映画ブームに乗って製作された昭和50年の 本格的娯楽巨編 『新幹線大爆破』を世に送り出した人として有名です。『新幹線大爆破』も高倉健が主演でしたので、佐藤純爾と高倉健を結びつけた作品のひとつが本作だったのかもしれません。

【ご覧になった後で】珍品ではありますがなにしろ脚本のまずさは隠せません

いやー、マカロニウェスタンの嚆矢でもある『荒野の用心棒』が黒澤明の『用心棒』のパクリであったのまで真似たのかわかりませんが、本作もサムライウェスタンなので本場アメリカの西部劇をそのまんまなぞっているだけでしたね。両親を殺された息子が銃の腕を磨いて殺し屋グループに復讐するという設定は『ネバダ・スミス』(1966年/ヘンリー・ハサウェイ監督)そのもの。ただし『ネバダ・スミス』では主人公を演じたスティーヴ・マックイーンは最後の一人まで追い詰めていくのですが、本作ではなんだか高倉健が途中で復讐するのが嫌になっちゃったみたいで、あと一人残っているのに銃を置いてしまったりします。そういう展開になるのは、後半があの西部劇の名作『シェーン』のモノマネになってしまうからで、なぜか高倉健が仇の一人を殺したうえにその奥さんと心理的不倫状態におちいるからです。さらにその息子を立ち直らせるために銃を置くというのは、観客としてはハテナという感じで全く納得できませんね。まあ、そんな無理のある話の流れにしたのは、ラストに「シェーン、カムバック!」のシーンをやりたかったからでしょうか。本当に息子が高倉健に「行かないで!」と叫ぶ場面が出てくるので、真面目に椅子から転げ落ちそうになりました。加えて奥さんまで走って追いかけていくので、もうこんなんだったらこのまま夫婦になって牧場経営すればいいじゃんと思ってしまいます。

この無理無理な脚本を書いたのは石松愛弘。大映で田宮二郎主演の『黒の試走車』の脚本を書いていますから決して下手な人ではないのでしょうが、なにしろ原作ものの脚色とオリジナル脚本とでは難易度に天と地ほどの差があります。オリジナルを書かなくてはいけない本作において『ネバダ・スミス』と『シェーン』のネタを借りてこなければならないほど、ゼロから創作するのは難しかったようです。でもまあ、ケンがマービンから銃の扱い方を指南される一連のシークエンスは『ネバダ・スミス』の同じシーンよりも銃による闘い方のディテールまで細かく描かれていて、ここだけは見ごたえがありましたけれどもね。

しかし高倉健をこんな映画に主演させてしまう東映という会社も、もう少し俳優を大事に使えないのかと思ってしまうくらい切羽詰まっていたのかもしれません。任侠映画で究極にカッコいいヤクザを演じている高倉健が、不慣れなカウボーイハットをかぶってヘンテコ西部劇の仕事をしなくてはいけないんですよ。こんないい加減な仕事を振ってくる職場にいたら本当に嫌になってしまうでしょうね。高倉健は社長の大川博に出演作を選ばせてほしいと直訴していたそうですから、もしかしたら本作も納得のいかない配役のひとつだったかもしれません。(Y010122)

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