大いなる勇者(1972年)

ロバート・レッドフォードが山で狩りをして暮らすマウンテンマンを演じます

こんにちは。大船シネマ館主よのきちです。今日の映画は、シドニー・ポラック監督の『大いなる勇者』です。原作は「Crow killer」と「Mountain Man」という二つの小説で、町を離れてロッキー山脈の険しい山に入り狩りをして暮らす男を描いた雄大な西部劇です。西部劇とはいってもガンマンはひとりも出てこないので、1850年代のアメリカを舞台にした冒険ドラマといったほうが適切かもしれません。主人公ジェレマイア・ジョンソンの名前がそのまま映画のタイトルになっていて、『明日に向って撃て!』でブレイクしたロバート・レッドフォードが口髭だけではなく顔面髭だらけの姿で演じています。

【ご覧になる前に】解雇されかけたジョン・ミリアスが脚本を完成させました

ロッキー山脈の麓の町で30口径のライフルと馬を買ったジェレマイア・ジョンソンはひとり狩猟生活を送るために山奥に入ります。激しい吹雪の中で火をつけるのも覚束ないジョンソンでしたが、雪山で凍死した男がしたためた遺書の指示により50口径ホーケン銃を譲り受けました。そんなジョンソンが山の中で出会ったのが山男の先達ベア・クロウで、巨大熊を退治することを生きがいとするベア・クロウの山小屋でジョンソンは山で生きる知恵や技術を教わります。ジョンソンはベア・クロウの仲介でネイティヴアメリカンのクロウ族と知り合いとなり、赤シャツと呼ばれる勇者と煙草のパイプを吸い交わすのでした…。

レイモンド・W・ソープとロバート・バンカーの共著「Crow Killer」の映画化権を手に入れたワーナーブラザーズは、ヴァーディス・フィッシャーが書いた「Mountain Man」という小説を組み合わせて、山男を主人公にした脚本をジョン・ミリアスにまとめるようオファーしました。しかしジョン・ミリアスはシドニー・ポラックとロバート・レッドフォードの二人と意見が折り合わず、執筆途中で一度は解雇されてしまいます。ところが後を継いだエドワード・アンハルトが脚本を完成させることができず、結局は再びジョン・ミリアスが呼び戻されて、最終的な脚本づくりを任されたんだそうです。

ジョン・ミリアスは1973年の『デリンジャー』で監督デビューを果たしますが、それまでは『ロイ・ビーン』や『ダーティ・ハリー2』の脚本を執筆していましたから、本作もジョン・ミリアスにとっては監督になる前の仕事のひとつでした。監督としては『風とライオン』『ビッグ・ウェンズデー』といった映画を残していますが、ジョン・ミリアスのキャリアの中で一番有名なのは、なんといっても『地獄の黙示録』の脚本でしょう。フランシス・フォード・コッポラとの大事業で精魂尽き果てたのか、その後は目立った作品を残していないのが残念です。

監督のシドニー・ポラックはTV業界出身の人で、映画界に進出してからは1966年にロバート・レッドフォードとナタリー・ウッド主演の『雨のニューオリンズ』で注目されました。本作は監督としてはまだ6作目にしか過ぎず、作品のスケール感からすると当時のシドニー・ポラックでは力不足に見られたかもしれません。それでも翌年には『追憶』、翌々年には『ザ・ヤクザ』と話題作を撮り上げて、1985年には『愛と哀しみの果て』でアカデミー賞監督賞に輝くことになります。

ロバート・レッドフォードは1969年の『明日に向って撃て!』のサンダンス・キッド役でブレイクを果たしたものの、その後は雌伏の時を過ごして1972年に本作と『候補者ビル・マッケイ』『ホット・ロック』の三本の作品で全く違った役に挑みました。その甲斐もあってか1973年の『スティング』でハリウッドの大スターの地位を獲得することになります。ロバート・レッドフォードは自分の出演作の中でも本作は特にお気に入りだったようで、当時レッドフォードが所有していたユタ州の土地でロケーション撮影が行われたため余計に印象深い作品になったのかもしれません。ちなみにレッドフォードの所有する土地は600エーカーもあったそうで、1エーカーはサッカー場ほどの広さですから想像を絶する広大な土地を持っていたんですね。

またレッドフォードは本作ではほとんどスタントマンを使わずにほとんどのシーンを自分だけで演じたと言われています。ハリウッドでは俳優の格が上がるほどはっきりと顔が映らないショットはその俳優付きのスタントマンが演じることになっていて、そのスタントマンを映画で演じたのが『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』のブラッド・ピットでした。スタントマンからするとスター俳優がすべてのショットを演じてしまうと自分の出番がなくなり報酬が減ってしまうので、本作ではレッドフォードはスタントマンが演じる予定だった場面の報酬をスタントマンギルドにすべて支払ったうえで、スタントマンを使わない方針を貫いたそうです。

本作は2時間弱の上映時間にもかかわらず、超大作にあるような開幕前の「序曲」と休憩中の「間奏曲」が流れる仕立てになっています。それほど音楽を重視しているなら大家が作曲しているかと思いきや、著名な作曲家を雇う予算がなかったためにティム・マキンタイヤとジョン・ルービンスタインの二人が共同で音楽を書いています。マキンタイヤは俳優としても活躍した人でロバート・レッドフォード主演の『ブルベイカー』なんかに出ているそうですが、アルコールと薬物に溺れて四十一歳で早逝しています。ルービンスタインも『ブラジルから来た少年』など多数の映画に出演する一方、『候補者ビル・マッケイ』でも音楽を担当しています。

【ご覧になった後で】スケール感は大きいのですが後半が端折り過ぎでしたね

いかがでしたか?序曲から始まって、開巻してクラシックな西部劇風に主題歌が主人公ジェレマイア・ジョンソンのこれまでとこれからを紹介する導入部がなかなか魅力的でした。山に入った後はシドニー・ポラックが「この映画はほとんどサイレント映画だ」と語ったように、セリフが少ないアクションだけで見せていくスタイルになります。セリフで伝えるのではないというコンセプトは途中で押し付けられることになる無口な少年と部族の言葉しか話せないインディアンの妻という副主人公たちの登場によって強調されていて、それが本作の最大の魅力を形作っているといっていいでしょう。

町から離れて山奥で暮らすということは、他者とのコミュニケーションから隔絶されることですし、動物としての原初的な暮らし方に戻るということでもあります。少年と妻はその原初的な暮らしの共同生活者ですので、言葉を介さなくても徐々に互いに信頼しあっていくプロセスが静かな感動を呼びます。ロバート・レッドフォードが自作の中でこの映画が一番好きだと語ったというのは、セリフに頼らない純粋な映像作品としての本作で演技できたことが誇らしかったせいかもしれません。

ウィル・ギア演じる老人や土に埋められた坊主頭の男などとの出会いも妙に湿っぽくなく、師弟関係や相棒同士にならないうちに別れていく設定が本作のテーストに合っていました。しかし大長編でもないのに「間奏曲」なる休憩時間が入った以降は、少年と妻を殺されたレッドフォードの復讐物語になり、しかもそれが誰に対する何のための復讐なのかがよくわかりませんでした。

というのもネイティヴ・アメリカン要するにインディアンの部族関係があまりうまく描けておらず、序盤でタバコを吹き交わしたクロウ族とレッドフォードはそれなりの信頼関係があったはずで、レッドフォードは妻子殺しの一団だけ復讐すればそれで事は収まったのではないかと感じてしまいました。それでもひとりずつクロウ族がレッドフォードの命を狙いにしつこくやってくるというシチュエーションが飲み込めず、加えてそこらへんはかなり端折った描写でダイジェストっぽくなっているので、間奏曲以降の後半はかなり失速してしまったように思えます。なのでクロウ族がレッドフォードの墓を作り、赤シャツと挨拶を交わすというエンディングも「?」という感じでしたね。

クロウ族はモンタナ州を中心に生活していた「カラスの人々」と呼ばれる部族で、バッファロー狩りをして生活していました。主に平原で暮らしタバコの栽培なども行って周辺部族と活発に交易をしていたらしく、インディアンとしては珍しく白人を敵視せずに交易することもあったそうです。レッドフォードが映画の序盤でクロウ族の赤シャツとタバコを吹き交わしたり赤い織物をもらったりするのも、クロウ族の生態を反映しての場面だったようです。

でもクロウ族に殺された少年をレッドフォードがクロウ族からもらった赤い織物にくるんでベッドに横たえるのはちょっと理解できませんでしたね。さらにせっかく妻が繕ってくれた熊の毛皮のコートも一緒に焼いてしまいますが、あの毛皮のコートだけはインディアン妻への思いとしていつまでも身にまとっていたほうが絵的にもしっくり来たんではないでしょうか。雪山の映像も素晴らしいですし、山小屋を作る過程なんかも丁寧にショットを積み上げていて見応えがあったのに反して、こういう細部の演出に手抜かりがあるのはちょっと残念でした。

本作のレッドフォードは、ハンサムな二枚目の外見をほぼ髭面で隠していることもあり、俳優としての実力そのものでジェレマイア・ジョンソンというキャラクターを表現していました。でもクロウ族のひとりと闘った際に大きな槍で腹部を刺されたのに、その次のショットでは普通に回復している風だったのはどんなもんでしょう。もっと後遺症が残るとか前屈みで不自由そうに歩くとか出来なかったのかなあと見ていて疑問が残りましたので、やっぱり後半から終盤にかけてが本作の評価を落としているような気がします。(V012924)

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