ジーン・ハックマンのポパイ刑事がフランス・マルセイユで捜査する続編です
こんにちは。大船シネマ館主よのきちです。今日の映画は、ジョン・フランケンハイマー監督の『フレンチ・コネクション2』です。1971年のアカデミー賞作品賞を獲得した『フレンチ・コネクション』の続編で、ジーン・ハックマン演じるポパイ刑事が単身フランスのマルセイユに乗り込んで、麻薬取引を仕切るシャルニエを追い詰めるストーリーになっています。実話をもとにした前作とは違ったオリジナル脚本作品で、麻薬中毒の恐ろしさが描かれていたためか、興行的には前作をはるかに下回る期待外れの結果となりました。
【ご覧になる前に】仏語を話せないポパイ刑事が地元警察と捜査で協力します
マルセイユの漁港で麻薬が隠されているというタレコミがあり、バルテルミー警部が水揚げされた魚を片っ端から解体しています。そこにタクシーで到着したのはニューヨーク市警から派遣されたポパイことドイル刑事。便所前にデスクをあてがわれたポパイは、麻薬の一斉摘発に同行した際に潜入スパイを追いかける不始末を起し、外出時には必ずバルテルミーの部下が尾行につくことになります。ビーチバレーを見物するポパイをみかけた麻薬取引の黒幕シャルニエは、尾行を巻いたポパイを誘拐してホテルの一室に監禁するのでしたが…。
1970年代のハリウッドではヒット作の続編で安定的な興行成績を狙う手法が流行っていて、1973年の『ダーティハリー2』は「Magnum Force」という題名でしたが、1974年の『ゴッドファーザー PARTⅡ』で明らかに「第二部」と称する作品が出現しました。この『フレンチ・コネクション2』はその流れに乗って製作されたものと思われ、原題も「French Connection Ⅱ」となっています。とは言っても、本作の場合は前作の大ヒットには遠く及ばず、20世紀フォックスとしては期待外れの結果に終わりました。それでも続編やシリーズ化はリスクが少ないということで、『ジョーズ2』『ロッキー2』『ザッツ・エンターテイメントPARTⅡ』などが次々に登場することになりました。
ウィリアム・フリードキンに代わって監督に指名されたのはジョン・フランケンハイマーで、1960年代には『終身犯』『影なき狙撃者』『五月の七日間』『グラン・プリ』と話題作を連発していたフランケンハイマーにとっては、『ブラック・サンデー』とともに1970年代の代表作となりました。でもその後に発表した作品にはこれといったものが見当たらなくなり、B級っぽいものしか残っていませんので、この『フレンチ・コネクション2』と1977年の『ブラック・サンデー』がジョン・フランケンハイマーのキャリアのピークだったのかもしれません。
実際の麻薬捜査事件に基づいていた第一作とは違って、本作のために映画用オリジナル脚本が書かれました。脚本にクレジットされているアレクサンダー・ジェイコブズとロバート&ローリーのディロン夫妻は、本作以外には目立った作品はなく、おまけにプロデューサーのロバート・L・ローゼンの指示によって脚本のほとんどは撮影開始直前の三日間でほとんど書き直されたらしいです。クレジットされなかったシナリオライターはピート・ハミル。日本では山田洋次監督の『幸せの黄色いハンカチ』の原作者として有名で、日本人の女性と結婚して生涯添い遂げた人でした。
マルセイユが舞台となっていて、ロケーション撮影もマルセイユで行われており、キャメラマンとして起用されたのがクロード・ルノワール。あのジャン・ルノワールの甥にあたるクロード・ルノワールは、1930年代からフランス映画界を代表するキャメラマンとして活躍していて、1970年代からはアメリカやイギリスの映画でもキャメラを回すようになりました。本作撮影時には六十二歳になっているので、手持ちキャメラや移動撮影は助手にやらせていたのだと思われます。本作の二年後には『007私を愛したスパイ』の撮影を担当することになりますので、年齢なんか関係なかったのかもしれません。
【ご覧になった後で】前作と比べて地味ですが生の肉体を感じさせる傑作です
いかがでしたか?前作はニューヨークの街を走る高架列車と自動車の追跡シーンが刑事アクションものの代表的名場面になっていましたし、ジーン・ハックマンとロイ・シャイダーのコンビによる荒っぽい捜査現場がリアルな迫力を持っていましたから、それに比較すると続編である本作はやや地味な印象になってしまっているのは否めないところです。しかし麻薬中毒にさせられてしまうポパイを刑事を続けられるように表沙汰にせず薬抜きさせるシークエンスはポパイとバルレルミーの噛み合わないやりとりが目を離せませんし、車を運転しないポパイはひたすら自分で走って足で稼ぎますので、息が切れて動悸がする息苦しさがダイレクトに観客に伝わってきます。まさに肉体そのもので体当たり演技をするジーン・ハックマンの生の魅力というか、機械に頼らない人力の捜査手法が前面に出されたのが、本作の魅力につながっていたような気がします。
薬が切れて感情が抑えきれなくなる地下室の場面では、バルテルミーはポパイにコニャックを飲ませて野球の話をさせます。ここでミッキー・マントルの逸話が出てきて、メジャーリーグの名選手の名前を出すためにミッキー・マントル本人に許諾を得る必要があったのですが、撮影されたラッシュフィルムを見てマントルはこの場面が気に入り、即OKを出したそうです。もちろんジーン・ハックマンも巧いのですけど、バルテルミーをやったベルナール・フレッソンの受けの演技があってこその珍妙なやりとりになっていました。フレッソンはコスタ・ガヴラスの『Z』にも出演していた俳優のようですが、徐々にポパイと信頼関係を築いていき、終盤に船長を泳がすことに同意するあたりの心の動きをうまく表現していました。
この終盤で一気に本作のペースがアップするわけで、シャルニエの片腕を演じたフィリップ・レオタールがアジトである麻薬製造工場に戻る際に地元警察がチームワークで交代しながら尾行するシークエンスは望遠レンズを効果的に使っていて、サスペンスをうまく盛り上げていました。ドックに上がらない限りは発見されない船底に麻薬が入ったケースを溶接したり、麻薬を精製して食品の缶に偽装したりという密輸の手口がかなり緻密に映像化されているので、実際の密輸現場を詳細に取材したんじゃないかと思いますし、これだけネタバレされると犯罪者側も困ってしまうだろうなと思うほどのリアルさがありました。
しかしながらホテルにガソリンを撒いて火事を起こしてシャルニエ一味の下っ端から麻薬取引現場を聞き出したあとで、ドックに潜入したものの水浸しになって取り逃がしてしまうドジな展開にはちょっとゲンナリしてしまいました。あんな少人数で押しかけても相手を拘束できるわけないですし、英語が話せる部下が殺されてしまうのはポパイの責任ではないのに、それを理由に本国送還になるというのも筋が違うのではないでしょうか。
さらには尾行の末掴んだアジトを一斉検挙するのも、マルセイユの警官を集結させて大編成で押し込むべきなのに、ここでも急ぎ過ぎて数人の刑事がマシンガンの餌食になります。本来ならもっとじっくり攻めるところなのに、映画のシナリオ的な都合で急襲しているように見えてしまい、せっかくの生の現場の雰囲気が壊れていたのは残念なことでした。
それでもそういうミスを補って余りあるのが最後のジーン・ハックマンの足による追いかけで、シャルニエが狭い路地裏から市電に乗るのを見て、その市電を走って追っていき、信号で市電が止まるかと思えばギリギリ交差点を抜けていくあたりのサスペンスの作り方がジョン・フランケンハイマーの腕の見せ所になっていました。港で市電を降りたシャルニエを一時的に見失うものの、ヨットに乗り込む後ろ姿を見たジーン・ハックマンが、意を決して埠頭の横を走り出すのが非常にエキサイティングで、観客も一緒に息切れしてくるような思いになります。たぶん柵を乗り越えたりする手持ちキャメラが臨場感を伝えるからなんでしょう。そしてシャルニエがヨットの船板上に姿を現して煙草を一服する瞬間の「シャルニエ!」のセリフ。二発の銃音とともに暗転する幕切れは、あまりにもカッコよくて、ハリウッド映画史に残るエンディングのひとつなんではないでしょうか。
黒地に白い文字が横から飛び出してくるクレジットタイトルは前作同様で、しかも「マルセイユ」のテロップで本編に入るので、本作もロイ・シャイダーのルッソが出てくるような気になってしまいますよね。でもロイ・シャイダーは『ジョーズ』への出演が決まっていて、当初はマルセイユに出張してきたルッソが殺されて、ポパイがシャルニエに復讐するという話だったのを、麻薬中毒エピソードに切り替えたという話もあるようです。あと、ポパイがバーでフランス人バーテンダーと意気投合する場面が笑いを誘うのですが、撮影最終日にほぼ即興で撮られた最後のテイクだったんだとか。いかにもこれでマルセイユの撮影は終わりだという開放感が伝わってくるような、楽しいワンシーンでした。(V120824)
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