4人のプロフェッショナルが誘拐された人妻を助け出す西部劇アクションです
こんにちは。大船シネマ館主よのきちです。今日の映画は、リチャード・ブルックス監督の『プロフェッショナル』です。原題は「The Professionals」で四人のプロフェッショナルが誘拐された人妻を助け出すために金で雇われるというプロットになっています。舞台はメキシコ革命期のテキサスとメキシコの辺境。ほとんど砂漠と岩山という厳しい環境を背景とした痛快アクション巨編になっています。
【ご覧になる前に】メキシコ革命を背景にした20世紀初頭の時代設定
メキシコ革命がまだ終結しないテキサスで、油田や鉄道を支配する資本家グラントが三人の男たちを金で雇います。メキシコ革命派の山賊一味ラザに誘拐されたグラントの妻を救い出すというのが目的でした。ラザとともに革命軍で戦った経験のある戦略家のリコ、馬の調教が得意なハンス、弓矢を使い斥候と追跡に優れたジェイクの三人に、ダイナマイトの専門家ビルを加えて、四人のプロフェッショナルたちはテキサスからメキシコへと侵入するのですが…。
本作は銃と馬とカウボーイハットが出てくるので西部劇にジャンル分けされることも多いようですが、舞台設定は1916年頃のメキシコ辺境です。第一次世界大戦が1914年から1918年のことですから、近代から現代に移り行く時代背景を考えると、西部劇とくくるのはちょっと古めかしい感じがしてしまいます。メキシコ革命とは、1910年から1917年にかけて独裁政権打倒や農地改革、民主化を求めて勃発した革命運動のこと。19世紀末にフランス軍の侵略からメキシコを守ったディアス政権は独裁色を強め、外国資本に土地を売却することで巨万の富を独占し、その代わりに農民たちは自分たちの土地を失ってしまいました。本作に登場するグラントもたぶんディアス政権から土地を購入し、自分の鉄道をメキシコまで敷設して利益を得ていたのではないでしょうか。アメリカの景気が悪化するとメキシコでの貧富格差が拡大し、いよいよ農民たちが政権に反旗を翻して革命運動が起こります。そこにアメリカ西部のガンマンたちが傭兵として革命軍に参加したというのが本作のバックボーンになっています。
リチャード・ブルックスは脚本家出身の映画監督で、自ら脚本を書き監督もするというスタイルで多くの作品を作ってきた人です。『雨の朝巴里に死す』(スコット・フィッツジェラルド)、『カラマゾフの兄弟』(ドストエフスキー)、『熱いトタン屋根の猫』(テネシー・ウィリアムズ)という1950年代の監督作品を見ると文芸路線一本やりのような感じなので、本作のようなアクション映画は似合わないように思えます。けれども脚本と監督に加えて製作まで自分でやるようになると、プロデューサーとしては映画に投じた資金の回収まで考えなければなりません。製作を兼務した初回の『ロード・ジム』の興行収入が奮わなかったようですので、リチャード・ブルックスとしたらお得意の文芸作品ではなく、大衆受けする娯楽作品を作らなければならない状況だったのかもしれません。おかげで本作は2000万ドル近い興行収入を記録し1966年のランキングで13位に入るくらいにヒットしたのでした。
主役の四人を演じたのはバート・ランカスター、リー・マーヴィン、ロバート・ライアン、ウディ・ストロード。リー・マーヴィンとウディ・ストロードはジョン・フォード監督の『リバティ・バランスを射った男』で共演して以来の親友同士で、本作で旧交を温めたとか。またクラウディア・カルディナーレは本作主演時はまだ二十八歳の若さ。イタリアでルキノ・ヴィスコンティやフェデリコ・フェリーニなどの一流監督に使われるほどの美女でしたので、1960年代半ばにはフランスやアメリカに活躍の場を移そうとしていて、本作もその世界進出作のひとつです。
あとは音楽に注目で、音楽監督はモーリス・ジャール。『アラビアのロレンス』や『ドクトル・ジバゴ』などデヴィッド・リーン監督作品での壮大かつロマンティックな作風が印象的な音楽家ですが、本作ではメキシコを舞台にしているということで、中南米っぽいスコアを提供しています。
【ご覧になった後で】スケールは大きいのですが細かい演出が今イチでした
いかがでしたか?まず四人のプロフェッショナルを紹介するとともに俳優のクレジットが出るオープニングシークエンスがカッコよかったですね。驚かされたのはリコを演じるリー・マーヴィンがいの一番に出てくること。あれ、バート・ランカスターが主演じゃなかったっけ、と一瞬戸惑ってしまいました。でも逆にいえば四人の中でトリとして出てくるのがバート・ランカスターなわけで、エンドクレジットではもちろんバート・ランカスターがトップビリングされていて、やっと安心できましたね。ちなみに本作撮影時のリー・マーヴィンはほとんどアルコール中毒状態で酒を飲みながら撮影にのぞんでいたそうです。それをバート・ランカスターがけしからんと非難していたようです。ま、バート・ランカスターが怒るのも当然ですけどね。
本作は脚本が面白くて、四人のプロがそれぞれの専門分野でのスキルを発揮しながら人妻奪回を成功させるプロセスがよく描けていますし、追跡を交わす仕掛けやラストのどんでん返しなども目を離せない展開になっています。しかしながら、それを映像として見せる手法が今イチで、盛り上がるべきところが盛り上がらないんですよね。例えばラザのアジトからマリアを奪還するシークエンス。時計の針を合わせて5時半に導火線がダイナマイトに達して爆発することが観客にも伝わるのですが、その5時半に向けてのサスペンスが全く描けていません。ここはラザに気づかれるのとダイナマイトが爆発するのをカットバックさせればもっとハラハラできるところですが、5時半だと示されないままに爆発が起こってしまいます。またトロッコを利用してアジトから逃走するのですが、このトロッコの説明も一切ないためいつのまにそんな便利な移動手段を見つけたのか不思議に感じてしまうんですよね。さらにはラザの追跡を防ぐために崖を崩落させるダイナマイトの仕掛けも、ラザたちが来る前に爆発させてしまいます。観客としてはもっとうまく使ってほしいところでした。
そんなリチャード・ブルックスの演出のまずさとは裏腹にちょっと光量を抑え気味にして発色を深めにしたキャメラはメキシコの乾いた空気感をうまく表現していました。撮影はコンラッド・ホールで、本作ではアカデミー賞撮影賞にノミネートされていまして、本作の三年後には『明日に向って撃て!』で見事にオスカーを獲得しています。
本作の映画化権を獲得したコロンビア映画は、主役にグレゴリー・ペック、フランク・シナトラ、ロバート・ミッチャムを起用することを計画していたそうです。だとするとリコがグレゴリー・ペックで、ビルがフランク・シナトラになるんでしょうか。確かにグレゴリー・ペックは『ナバロンの要塞』(1961年)でマロリー隊長を演じていて、四人のリーダー役にはぴったりな感じがしますし、フランク・シナトラがビル役をやれば、粗野ではなく甘めの感じのキャラクターになったのかもしれません。でも、本作のリー・マーヴィンとバート・ランカスターは実際には仲が悪かったようですが、なかなかの名コンビぶりで、特にリー・マーヴィンの戦争のプロっぽいところが見どころだったように感じます。またいつもは悪役や差別主義者っぽい乱暴者をやることが多いロバート・ライアンが、思慮深い馬の調教師を演じていて、非常にいい味を出していました。あまりセリフも多くないのですが、寡黙な方が儲け役になるってことなのかもしれませんね。(V011222)
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