エル・ドラド(1966年)

ハワード・ホークス監督、ジョン・ウェイン主演の時代遅れと評された西部劇

こんにちは。大船シネマ館主よのきちです。今日の映画は、ハワード・ホークス監督の『エル・ドラド』です。ハワード・ホークスは『赤い河』以降、ジョン・ウェインを主演にした西部劇を作っていて、その一本である本作は1966年に製作されました。西部劇の製作本数が減っていた当時では、時代遅れだと評されたようですが、パラマウント映画が『ネバダ・スミス』と重なるのを嫌って翌1967年に公開したところ、全世界興行収入ランクでトップ20に入るヒットを飛ばすことになりました。

【ご覧になる前に】ロバート・ミッチャムが酔いどれ保安官役を演じています

ライフルを持って酒場に現れた保安官のJ・Pは、洗面所で顔を洗っていたコールと久しぶりに対面すると、この町に戻ってきた理由を牧場主ジェイソンに雇われたためだと聞かされます。ジェイソンは水の利権を持つマクドナルド一家を脅すために早撃ちガンマンのコールを呼び寄せたのですが、実情を知ってコールは、ジェイソンを訪ね手を引くために前金を返します。帰り道にマクドナルドの家を通りかかったコールは、見張りをしていた息子ルークから突然ライフルを向けられ反射的にルークの腹を撃ってしまいます。痛みで自決したルークの遺体を馬に乗せ、コールはマクドナルドに息子が死んだ理由を告げるのでしたが…。

ハワード・ホークスはコーネル大学を卒業して美術部門の仕事から映画界に入った人物で、当時のハリウッドでは珍しい大卒人材でした。パラマウント、MGM、ワーナーブラザーズ、コロンビア、RKOなどメジャースタジオを渡り歩き、ワーナーブラザーズ製作、ハンフリー・ボガード主演の『脱出』『三つ数えろ』で監督としての地位を確立します。1948年にユナイテッド・アーティスツで作った『赤い河』では、主演のジョン・ウェインとはじめてコンビを組み、以後、『リオ・ブラボー』『エル・ドラド』『リオ・ロボ』とハワード・ホークス&ジョン・ウェインの西部劇シリーズが作られることになります。

脚本を書いたリイ・ブラケットは、元は「男のように書く」女流作家としてスペースオペラなどSF小説を書いていました。処女作のハードボイルド小説「非常の裁き」がハワード・ホークスの目に留まり、『三つ数えろ』の脚本執筆を依頼されて以来、『リオ・ブラボー』『ハタリ!』『エル・ドラド』『リオ・ロボ』と映画シナリオの仕事はハワード・ホークス監督作品のみでした。レイモンド・チャンドラーの小説をロバート・アルトマンが映画化した『ロング・グッドバイ』の脚本ではじめてハワード・ホークス以外の監督と仕事をし、最後の仕事は『スターウォーズ/帝国の逆襲』のシナリオでしたが、ほぼ原案のみで、実際はジョージ・ルーカスがほとんどを書き換えたと言われています。

タイトルでは原作ハリー・ブラウンとクレジットされているものの、リイ・ブラケットの脚本は原作を大きく改変しているようで、ハリー・ブラウンは名前を出されるのを拒んだんだとか。またキャメラマンは『眼下の敵』の撮影を担当したハロルド・ロッソン、音楽はアレンジャーとしてフランク・シナトラとコンビを組んでいたネルソン・リドル。もちろん本作では、ジャズの要素は排除して、徹底的に古典的なカントリー調の楽曲を提供しています。ちなみにタイトルバックに出てくる西部開拓の様子を描いたクラシック調絵画を描いた画家は、途中で銃鍛冶屋として登場する人なんだそうです。

ジョン・ウェインとともに主演級で出てくるのはロバート・ミッチャムで、酒に溺れる保安官を演じています。最初に脚本を読んだジョン・ウェインは、ハワード・ホークスに保安官役をやらせろと要求したらしいですが、受け入れられませんでした。この二人にからむのが、本作撮影時二十五歳だったジェームズ・カーン。ミシガン州立大学に通っていた頃はアメリカンフットボールに熱中し、空手も黒帯級だったそうで、本作は映画界でデビューして二年後くらいの出演作になります。

【ご覧になった後で】脚本が面白く俳優たちの息が合った傑作西部劇でしたね

いかがでしたか?本作の一番のポイントはリイ・ブラケットの脚本の面白さでしょう。開巻後いきなり出会うジョン・ウェインとロバート・ミッチャムの旧友同士。ジェイソン牧場の帰路で息子を撃ってしまいマクドナルド家に借りができる展開。再び町に戻ってくる間のジェームズ・カーンの復讐劇とクリストファー・ジョージ演じる早撃ちマクロードとの出会い。酔いどれに落ちぶれたロバート・ミッチャムを復活させる酒場と教会での対決。逮捕したジェイソンとジョン・ウェインの人質交換。そして片手の動かないジョン・ウェインと片足を負傷したロバート・ミッチャムがジェイソン一味をやっつけるクライマックス。何人もの人物が登場して、人間関係が複雑に絡み合っているにもかかわらず、非常にわかりやすく描かれており、しかも勧善懲悪、男のプライド、早撃ちライバル、水の利権など西部劇の古典的要素がたくさんぶっこまれています。リイ・ブラケットのシナリオだけあれば、もう本作の成功は保証されたようなものだったでしょうね。

ハワード・ホークスは、ヒッチコックとは違って映像表現における特徴もなく、B級の職人的映画監督と見られる向きもあるようです。確かに本作でも、会話の場面はバストショットかミディアムショットのきっちりとした切り返しで、室内の場面は人物の配置がしっかり観客に伝わるように固定のフルショットで撮られています。しかしアクションシーンになると途端にキャメラが動き出し、酒場に向うジョン・ウェインとジェームズ・カーンを歩みとともに横移動のドリーショットで捉えますし、銃をぶっ放す撃ち合いの場面では短いショットを積み重ねて、誰が誰を撃ったかが明快にわかるようになっています。映像テクニックはあまり感じられないのですが、ストーリーをしっかり映像化するという意味では、真の職人的手腕が発揮されており、一流のシナリオと映画監督がセットになった本作は、間違いなく西部劇映画の傑作の一本と言えるでしょう。

そのうえでジョン・ウェインとロバート・ミッチャムとジェームズ・カーンのコンビネーションが見事で、俳優たちの魅力が存分に活用されていました。ジョン・ウェインは撮影時に五十八歳になっていて、お腹もずいぶんと張り出していましたが、長身で足を引きずるような独特の歩き方は変わっておらず、本作の心柱となるには十分の貫禄でした。ロバート・ミッチャムは、酔っ払い演技場面でのやり過ぎが目立ったものの、保安官としてのプライドを取り戻そうとする意欲が感動的でしたし、ジェームズ・カーンはまだキャリアが浅い時期の出演にも関わらず、ハリウッドを代表する俳優二人に力負けしないしなやかな存在感を出していました。ラッパを吹くアーサー・ハニカットがジョン・ウェインとジェームズ・カーンを保安官助手に任命する際に宣誓文を伝えないまま、二人に「I Do」と言わせる場面は最高におかしかったですし、ジェームズ・カーンに持たせた散弾銃がさまざまな場面で効果的に使われているのも印象的でした。小道具をうまく使い分けできるのは、一流映画監督の必須条件だということを思い出させてくれるようでしたね。

酒場女のシャーリーン・ホルトは西部劇に出てくるステレオタイプの女性っぽくて目立たなかった一方で、マクドナルド家のじゃじゃ馬娘を演じたミシェル・ケイリーは、本作以外ではエルヴィス・プレスリー主演の『バギー万才!』くらいしか出演作がないようですが、毛量の多い髪の毛とトランジスタグラマーな肢体がカッコよくて、エンディングではジェームズ・カーンとのからみをもう少し入れてほしかったところでした。また早撃ちマクロードを演じたクリストファー・ジョージは、本作でジョン・ウェインに気に入られて、『チザム』『大列車強盗』で再びジョン・ウェイン主演作に起用されています。

ハワード・ホークス監督、リイ・ブラケット脚本、ジョン・ウェイン主演ということで、『リオ・ブラボー』の亜流作ではないかと評されているようですが、しっかりした作りの安定感が抜きんでていると思います。1966年当時は古臭く感じられたのかもしれませんけど、このような西部劇こそクラシック映画のひとつとして再見に足り得る映画なんではないでしょうか。ちなみにジョン・ウェインが着替えるオレンジやブルーなどカラフルなシャツなどの衣裳デザインは、『ローマの休日』『麗しのサブリナ』でオードリー・ヘプバーンを美しく仕上げたイーディス・ヘッド。このような西部劇もやっていたんですね。あと酒場の裏口や保安官事務所の牢獄など普段の西部劇では見られない美術セットのディテールも見事でした。アートディレクターは『ハタリ!』のカール・アンダーソンと『ティファニーで朝食を』のハル・ペレイラだそうです。(V113024)

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