トラ・トラ・トラ!(1970年)

真珠湾奇襲作戦に至る日米両国の情報戦がかなりリアルに描かれた戦争映画

こんにちは。大船シネマ館主よのきちです。今日の映画は、日米合作の『トラ・トラ・トラ!』です。「トラ・トラ・トラ」は日本軍による真珠湾攻撃の開始を伝える暗号文。映画の中でも、田村高廣演ずる淵田中佐がゼロ戦の機上から「トラトラトラや」と叫ぶ場面がありました。あくまで「奇襲」が成功したことを伝えるもので、攻撃の成功を報告するものではないんですね。日米合作にあたっては、大変な紆余曲折があり、中でも黒澤明の降板が大きな話題になりました。実際に何があったのかは、本当にその場にいた人にしかわからないのでしょうが、いろいろな人を傷つけてしまった作品には違いありません。

【ご覧になる前に】開戦までを丁寧に時系列で描いたシナリオに注目です

昭和十六年、日中戦争が泥沼化する中で、アメリカから対日原油輸出禁止を突き付けられた日本は、アメリカに対して戦争を始める準備に入ります。連合艦隊司令長官の山本五十六の対米戦に勝ち目がないとの予測とは反対に、軍幹部の気持ちはすでに開戦へと傾いていました。山本は、アメリカの意表を突くハワイ真珠湾への奇襲作戦を実行に移す決意をするのですが、その動きは、日本軍の暗号文解読装置を完成させていたアメリカ軍によって、すべて把握されていたのでした…。

1967年に黒澤明監督により『トラ・トラ・トラ!』の製作発表会が行われました。しかし1968年12月、黒澤は製作会社である20世紀フォックス社から解任されてしまいます。黒澤が不慣れな東映太秦撮影所のスタッフと折り合いが悪かったとか、軍隊経験のある素人たちを俳優に使ったけれどもあまりに黒澤の態度が横柄すぎて反発を買ったとか、いろんな噂話がたくさんあるようで、興味のある方は撮影裏話的なルポルタージュを読んでみてください。しかしながら、日本側シーンの脚本は、ほとんど黒澤明・小国英雄・菊島隆三のトリオによる原案が生かされているようで、山本五十六の人間性がセリフにうまく反映されていたりしています。また、御前会議を経て東條内閣が成立し、日米交渉が決裂するところまでの時系列が、上手に整理されて描写されています。

かたやアメリカ側は、日本の動きを暗号傍受で察知していたにも関わらず、情報の重要度と緊急度の扱いが稚拙であったために、結局は日本軍に奇襲を許してしまいます。よくこんなアホな軍部の動きを自ら映画化したなと感心するくらいにアメリカ軍が間抜けに描かれていて、映画がアメリカでは興行的に大失敗したのもむべなるかなという感じです。

【ご覧になった後で】飛行機マニア以外は後半の戦闘シーンには退屈します

いかがでしたか?前半は時間を感じさせないくらいに、開戦に至る日米双方の動きが緻密に映像化されていましたよね。最終的に黒澤明はクレジットされていませんが、黒澤・小国・菊島の三人は『椿三十郎』の脚本トリオです。面白くないわけありませんよね。黒澤降板以降、一時はのちに『新幹線大爆破』をつくる佐藤純弥が日本側の後任監督になったらしいのですが、結局は、舛田利雄と深作欣二の二人が、アメリカ側のリチャード・フライシャーとともに共同監督となりました。黒澤明はこの前にも『暴走機関車』の映画化に失敗していますし、アメリカの映画製作の基本である契約に基づく分業制を理解していなかったことが大きな敗因だったと思われます。日本映画では監督は天皇とも呼ばれて、製作プロセスのすべてに口出ししますが、アメリカでは「監督=撮影現場で演出をつける人」という契約条件で監督する人も多いみたいです。

シナリオが冴える前半に比べると、暁の中を空母からゼロ戦が飛び立つ美しい映像のあとの真珠湾攻撃以降は、ダラダラと同じような戦闘場面が続いて、退屈に感じた方も多いのではないでしょうか。戦闘機による爆撃戦はあまり人間が登場する必要がないので、攻撃するゼロ戦と攻撃されるアメリカの戦艦を交互に映すくらいしか手がなく仕方ないところかもしれません。けれども飛行機マニアにとっては、当時の戦闘機がかなり忠実に復元されているとかで、局地的に熱烈な支持を受けたそうです。

俳優では山本五十六をやった山村聰が、威厳がありながら人格者の雰囲気を出していて安定していましたし、野村駐米大使役の島田正吾が、なかなか進まない翻訳タイプにイラついているのか、好都合だと思っているのか、よくわからないあたりにうまさが出ています。あとはそっくりさんでいうと、近衛文麿を演じた千田是也。あごのないところが本当に近衛首相に似ていましたね。千田是也は俳優座の創設者のひとりで、よく映画に出演してはその出演料を俳優座の運営にあてていたそうです。東宝の怪獣映画でもたまに博士や大臣役で出ていましたね。(A081121)

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