カンバセーション …盗聴…(1974年)

フランシス・フォード・コッポラがオリジナル脚本を書き製作・監督しました

こんにちは。大船シネマ館主よのきちです。今日の映画は、フランシス・フォード・コッポラ監督の『カンバセーション …盗聴…』です。『ゴッドファーザー』の興行的大成功によってフランシス・フォード・コッポラは自らオリジナル脚本を書いてあたためていた企画を復活させることにしました。それがこの作品で、コッポラが設立した映画製作プロダクション「アメリカン・ゾエトロープ」とパラマウント映画が共同製作して興行的には今ひとつに終わったものの、1974年度のカンヌ国際映画祭でグランプリ(後のパルムドール)を受賞するなど内容的には高い評価を受けました。

【ご覧になる前に】盗聴をテーマにしたのはウォーターゲート事件発覚前です

サンフランシスコのユニオン・スクエアには道化を演じるパントマイマーが通行人にちょっかいを出していますが、その広場を見下ろすビルからは高性能の指向性マイクがある男女の会話に向けられていました。その会話は道路に停車中の車に集められていて、録音技師ハリー・コールの指示でスタン以下数人の仕事仲間たちが三方向から男女の会話を盗聴していたのでした。自宅に戻ったハリーは室内にワインが置いてあるのを見て、誕生日のプレゼントに贈ったという階下の女性に電話をして、無断で合鍵を使って部屋に入らないように伝えます。そのワインをもって半地下の部屋に住むエイミーを訪ねたハリーは、どこに住んでいて何をしているのかを質問するエイミーに何ひとつ答えず、金だけ置いてそのまま立ち去るのですが…。

フランシス・フォード・コッポラがこの作品の構想を練ったのは1960年代半ばまでさかのぼるそうで、監督仲間のアーヴィン・カーシュナー(後に『スター・ウォーズ 帝国の逆襲』を監督することになります)との会話やミケランジェロ・アントニオーニ監督の『欲望』にインスパイアされたんだとか。コッポラは盗聴の技術や盗聴の専門家がいることに興味を抱き、カーシュナーから当時盗聴の世界の第一人者だったハル・リップセットに関する資料を送ってもらい、このオリジナル脚本をしたためました。なので公開時には1972年に起こったウオーターゲート事件を参考にしたのではないかと疑われたそうですが、そのはるか以前からコッポラが企画していた題材だったわけです。

1969年に自らの映画製作プロダクションであるアメリカン・ゾエトロープ社を設立したコッポラはジョージ・ルーカス監督の『THX1138』を製作しますが、興行的に失敗に終わりワーナーブラザーズへの借金を背負ったうえに契約を破棄されてしまいます。経済的に窮地に陥っていたコッポラに目をつけたのがパラマウント映画でTVから移ってきたばかりの新進プロデューサーだったアルバート・S・ラディ。ラディがパラマウントから低予算で完成させろと任されていたのが『ゴッドファーザー』で、ラディは安いギャラに興行成績コミッションを加えた条件でコッポラを監督に起用します。『ゴッドファーザー』の作品的・興行的大成功によって、コッポラは経済的に大いに潤い業界的な発言権も得ることになりました。

パラマウント映画は当時の歴代興行成績を塗り替えた『ゴッドファーザー』の続編製作を早々に決定し、すぐに『ゴッドファーザー PARTll』の製作に取りかかりますが、コッポラは長年自らあたためていた本作の製作を優先しようとして続編の監督を引き受けません。そこでパラマウントはこの『カンバセーション …盗聴…』の共同製作を引き受けることを約束して、コッポラを翻意させました。コッポラは『ゴッドファーザー』公開9ヶ月後の1972年11月から1973年3月まで本作の撮影に没頭し、1973年10月から1974年6月まで行われた『ゴッドファーザー PARTll』の撮影期間中に編集作業を行うことになります。その結果、製作費180万ドルの本作は1974年4月に公開され、1300万ドルの巨費が投じられた『PARTll』はクリスマスに合わせて同年12月に封切られたのでした。

ですから1974年度のアカデミー賞を本作と『ゴッドファーザー PARTll』が争うことになりますが、作品賞は『PARTll』が受賞。本作で脚本賞にノミネートされたコッポラは、本作では受賞を逃したものの『PARTll』の監督賞と脚色賞の二部門でオスカーを獲得しました。

主人公ハリーに起用されたジーン・ハックマンは『フレンチ・コネクション』『ポセイドン・アドベンチャー』『スケアクロウ』と毎年話題作に主演してハリウッドを代表するビッグスターになった時期ですので、本作のクレジットも「GENE HACKMAN in」と出てきます。普段は明るくカジュアルなジーン・ハックマンでしたが、本作に出演するにあたっては時代遅れの衣装をあてがわれ、クラシックな眼鏡に口ひげを蓄え地味な盗聴屋になることを強いられました。内にこもる性格設定だったため、撮影現場ではジーン・ハックマンはいつもイライラして神経質そうな様子だったそうですが、コッポラはそんな役柄に集中するハックマンとうまく関係性をつくりながら撮影していたと言われています。

【ご覧になった後で】その道の専門家が罠にはめられるコワいお話でしたね

いかがでしたか?表向きは「録音技術」で展示会まで開催されていてますが実は「盗聴」という裏の世界があり、盗聴する側の専門家が逆に盗聴されることになって内面を破壊されるとてもコワいお話でした。そういう見方をするとやっぱり勝因の第一はコッポラのオリジナル脚本でしょうか。コッポラ自身が自分の監督作品の中で本作を一番のお気に入りだと言っていたそうで、原作ものの脚色ではなく自分がゼロから発案したシナリオであるというところがやっぱりコッポラにとって最も可愛い作品に思えるのだと思います。そして一流のサスペンス小説に引けを取らないどんでん返しが用意されていて、自身が行う盗聴によって誰かが殺されたという過去にさいなまされている主人公ハリーが、再び同じ過ちを犯そうとしているお話に見せかけて、実は殺人者に利用されていただけだったという展開が見事にハマっていました。

主人公ハリーが熱心なキリスト教信者であるという設定は無宗教の日本人にはなかなか理解しがたいところがありますが、熱心な信者だからこそ自分が盗聴される立場になったときにはマリア像を破壊してまでも内部に盗聴器が仕掛けられていないか確かめたくなってしまう盗聴エキスパートとしての性(さが)がより強調されることになっていました。ある評論家によるとテナーサックスの中に盗聴器がある可能性が高いのに楽器を壊さないのは音楽だけが主人公の最後の拠り所だからだということらしいですけど、いくら盗聴器が小型のものだったとしても繊細な楽器にそんな装置を仕掛けたら吹いた途端に音色ですぐに気がついてしまうでしょうし、誰にも入ってほしくない自分の部屋を床から天井まですべてはがして壊してしまう設定は主人公ハリーが自らの内的な精神世界を粉々にされてしまうメタファーなわけなので、サックスに仕掛けた説はあまりに薄っぺらい邪推ではないでしょうか。

『ゴッドファーザー』に続いて製作されたということで、美術監督のディーン・タボウラリスや脇で出演するジョン・カザール、ロバート・デュバルといったゴッドファーザーファミリーがコッポラを支えているのも見どころでした。ディーン・タボウラリスは『ゴッドファーザー』のセットをいかに低予算で作るかを腐心したスタッフですし、ロバート・デュバルに至っては本作にはクレジットなしの特別出演で出てくれています。意外だったのは駆け出し時代のハリソン・フォードが結構重要な役で出演していたこと。脚本段階では本当の端役だったらしいのですが、ハリソン・フォードが自らゲイの秘書として役作りをしたのをコッポラに認められて出演場面が増えたんだそうです。

キャメラマンは当時まだ経験の浅かったビル・バトラーで本作の次に『ジョーズ』や『カプリコン・1』などの大作を撮ることになるのですが、当初は『ヴァージニア・ウルフなんかこわくない』でアカデミー賞撮影賞を受賞したハスケル・ウェクスラーがキャメラマンに起用されていたものの製作途中でコッポラと意見が合わず解雇されたんだそうです。映画の冒頭、空中からユニオンスクエアを見下ろした空中からの超ロングショットが次第にズームインされていき、コート姿のジーン・ハックマンをとられる見事な導入部がありますが、このショットだけは撮り直しがきかずどうやらウェクスラーの仕事が残されたようです。どうやったらこんなロングショットが撮れるのか、ヘリコプターの空撮なのかなとも思いましたが、広場に隣接する百貨店の高層ビルの屋上から超望遠キャメラで撮ったらしく、最後まで見事にピントがきっちり合っているのには驚かされますね。

またピアノの旋律をモチーフにした音楽も効果的で、これはデヴィッド・シャイアの作品。シャイアというラストネームはどこかで聞いたことがあるなと思ったら、コッポラの実妹であるタリア・シャイアの旦那さんだったんですね。もちろん本作製作から10年も経たないうちに別れてしまっていますけど。この音楽はハックマンが殺しに加担したのではないかと恐怖しながら見る霧のかかった悪夢の場面とホテルの部屋で行われたロバート・デュバルの専務殺しをイメージする場面にぴったりの感じで、得体のしれない不安な雰囲気を醸成していました。

実は劇場公開時に見て以来の超久しぶりの再見だったのですが、陰気な映画だったという印象以外内容は全く忘れていて、覚えていたのはホテルの浴室でトイレから大量の血があふれ出すあの身の毛がよだつようなショットだけでした。今でも白いトイレが血であふれる映像は消えていなかったので、長年の記憶に刻まれるくらいに印象的というかショッキングなイメージでしたね。そして地方都市ではおなじみの二本立てで公開されていて、同時上映はなんとベストセラー小説を映画化した『かもめのジョナサン』。実は『かもめのジョナサン』を目当てに見に行ったのですが、かもめが分身の術を使うようなタルい観念的動物記録映画で、まあどんなターゲットを狙ってそんな組み合わせでの上映にしたのか当時の興行担当者に聞いてみたいもんです。(V091123)

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