プレイタイム(1967年)

『ぼくの伯父さん』のジャック・タチが作った近未来喜劇です

こんにちは。大船シネマ館主よのきちです。今日の映画は、ジャック・タチ監督の『プレイタイム』です。前屈みで膝を曲げずに歩くレインコート姿のユロ氏。ジャック・タチが自ら演ずる『ぼくの伯父さん』が、この映画にも登場します。けれども本作の主役は、そのユロ氏ではなく、幾何学的でガラス貼りの建築物が建ち並ぶ近未来都市。パリの一角にあることは間違いないのですが、パリらしさのない、見知らぬ街。アメリカからやって来た観光ツアーの団体と一緒になって、この不思議な街を見物しましょう。

【ご覧になる前に】完全セットでストーリーのない、不思議な感覚の喜劇です

アメリカからパリにやって来た観光ツアーの団体客が空港に到着します。バスに乗り込んだ一行は、最新電化製品の展示会場へ。そこには商談に訪れていたユロ氏もいて、一緒になって夜の街に繰り出すのですが…。

ジャック・タチはフランスのパントマイマー。マルセル・カルネはフランス映画史上に残る名作『天井棧敷の人々』を作るとき、舞台の仕事と重なっていたジャン・ルイ・バローをバティスト役に起用できない場合には、ジャック・タチに出演交渉するつもりだったとか。あるインタビューでカルネ自身がそう語っていますので、ジャック・タチは第二次大戦の前からその才能を認められていました。そして『ぼくの伯父さん』でアカデミー賞外国語映画賞に輝いたタチが、三年がかりで完成させたのが、この『プレイタイム』です。映画に登場する空港や建物、レストランなどはすべて撮影のために作られたセット。当時のフランス映画の中でもバカ高い製作費がかかったそうです。

そんな現実には存在しない街で繰り広げられるのは、エピソードとも言えないような、ほんの少しだけおかしな光景。きちんとしたストーリーもありませんし、おなじみのユロ氏でさえ、どこの誰だかはっきりしません。それなのに上映時間は2時間もあるので、途中で少し退屈してしまうかも。けれども、読後感というか、見た後に残るイメージはたぶん鮮烈なはず。実に不思議な映画です。

【ご覧になった後で】しつこいほどのリピートと音が印象に残ります

いかがでしたか。空港からバスへ、バスからビルへ、ビルから住宅へ、住宅からレストランへ。やっぱり主役は街そのものでしたね。誰もがどこかでほんの瞬間だけ見かけたような光景が、次から次へと出てきて、しかも執拗にリピートされます。例えば、ユロ氏が面会したい相手である幹部風の会社員となかなか巡り会えないところ。面会室の区画やガラスのドアやエレベーターが邪魔して、あとほんの少しで会えない光景が何回も出てきて、ちょっとイライラしますね。でも夕闇迫る頃にはちゃんと会えるんです。そして会って何を話したのかは、全く描かれていません。また、空港に泣いている赤ん坊がいます。そこに係員が白い布みたいなものを抱えてやってくるので、一瞬オムツを持ってきてくれたように見えます。けれど、係員は男性用の手洗い所に入ってペーパータオルを補充するのです。『プレイタイム』はこのような目的がわからない光景やちょっとした勘違いを誘う光景を並べているだけの映画。なのに、なんだか懐かしい気分にさせられるのは、誰もが経験したり遭遇したりしたよくある光景を、観光客が傍観するようにして並べているからではないでしょうか。

そして、ジャック・タチの作品の特徴である「音」。『ぼくの伯父さんの休暇』からずっと同じことをやっているのですが、ドアの開閉のたびに「プスン」というか「トクン」というか、左右の開き扉が擦れ合う音が聞こえてきます。これが耳に残っちゃうんですよね。空港の呼び出し音やエレベーターのチャイムや団体客の話し声。そういえば、展示会場では日本人の団体による日本語も聞こえていました。どれも音だけの効果を狙っているようで、この音も同様にリピートされて、ストーリーのない映画なので、余計に音の印象だけが強く残るのだと思います。この音の使い方が小津安二郎を彷彿とさせるように思うのですが、いかがでしょうか。

『ぼくの伯父さん』はそのテーマ曲も有名でしたが、この『プレイタイム』の音楽も同じようなフレンチテイストで、とても心地よいです。フランシス・ルマルクという人が音楽の担当としてクレジットされていまして、『ぼくの伯父さん』などと一緒になったCDも発売されていました。現在では廃盤のようなので、なかなか貴重なCDとなっています。(V090421)

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