大頭脳(1969年)

『大進撃』のヒットを受けて作られたベルモンドの現金強奪大作戦喜劇です

こんにちは。大船シネマ館主よのきちです。今日の映画は、ジェラール・ウーリー監督の『大頭脳』です。監督のジェラール・ウーリーによる1966年公開の『大進撃』がフランス映画史上最大の大ヒットを記録したことを受けて、夢よ再びと作られた本作には潤沢な予算が用意されました。主演のジャン・ポール・ベルモンドに加えて、デヴィッド・ニーヴンとイーライ・ウォラックが参加して、現金を運搬する列車から強奪する大作戦が三つ巴になって展開されます。基本的には喜劇なのですが、国際色溢れた冒険大作ともいえる作品になっています。

【ご覧になる前に】イギリスで実際にあった大列車強盗を再現しています

刑務所で看守を石鹸で滑らせたアルトゥールはいつもの通り独房行きになりますが、それは独房内に掘ってあったトンネルから脱獄するためでした。相棒のタクシー運転手アナトールが運転するシトロエンで逃亡した二人は、NATOの軍資金1200万ドルを盗み出すことを思いつきます。一方で「Brain」と呼ばれる天才泥棒の大佐も、この資金を強奪するためマフィアのスキャナピエコと組んで、パリからブリュッセルに移送する列車の車両を分断する作戦を立案していました。厳重な警備のもとに軍資金が移送される当日、時限爆弾を仕掛けて周到な準備を進める大佐たちに対して、整備士に化けたアルトゥールとアナトールはハンマーとドリルを持って列車に乗り込むのですが…。

1963年8月にイギリスで起きた大列車強盗は史上最大の強盗事件とも呼ばれていて、グラスゴーからロンドンに向うロイヤルメール列車から260万ポンド(現在価値に換算するとなんと90億円くらい!)が奪われた事件でした。15人の強奪犯は、現金を輸送する車両をバッキンガムシャー州のブリデコ橋に停めて、現金120袋をバケツリレーでトラックに載せ、あらかじめ用意してあった農場で等分に山分けすると、散り散りになって逃走していきました。強奪犯は捕らえられて30年の懲役刑を科せられましたが、奪われた現金は40万ポンドしか回収できなかったとか。強奪現場となったブリデコ橋は今でも「Train Robbers’ Bridge」と呼ばれているそうです。

その事件を映画で再現した本作は、ジェラール・ウーリーが脚本を書き監督をしています。第二次大戦後に俳優として活動していたウーリーは1959年の『気分を出してもう一度』などでシナリオライターに転身し、60年代からは自らの脚本を自分で監督するようになりました。喜劇俳優のルイ・ド・フュネスとブールヴィルを起用した『大追跡』で注目を集め、1966年の『大進撃』が大ヒット。その観客動員数は当時のフランス映画史上No.1を記録して、あの『タイタニック』が公開されるまで破られることはなかったほどでした。

『大進撃』の余勢を生かそうとブールヴィルが再び主演に起用されていまして、この人は当時のフランスで一番人気のあるコメディアンだったんだそうで、オープニングクレジットでもジャン・ポール・ベルモンドの次ぎに出てきます。大佐役のデヴィッド・ニーヴンはイギリスからハリウッドに渡った俳優の中で最も成功した人のひとり。『80日間世界一周』に主演すると1958年の『旅路』ではアカデミー賞主演男優賞を獲得しています。マフィア役のイーライ・ウォラックは『荒野の七人』や『続・夕陽のガンマン 地獄の決斗』など西部劇の悪役のイメージが強いのですが、本作ではスーツ姿でイタンリアン・マフィアのボスを演じています。もとは東欧ユダヤ系の出でテキサス大学やニューヨーク市立大学を卒業したインテリなんだそうです。失礼ながらあんまりそうは見えませんけど。

【ご覧になった後で】ゆったりしながらも展開が楽しめる冒険型喜劇でした

いかがでしたか?フランス映画のアクション系やアドベンチャー系はどうもセンスが合わないところがあって、妙にのんびりしてしまってタルくなる作品も多いのですが、この『大頭脳』は素材が面白いだけあってそののんびりしたテンポが逆に展開の妙味のように感じられ、2時間近い上映時間を飽きることなく楽しめました。おそらくコソ泥二人組と大佐とマフィアの三つ巴でストーリーが展開されるので、三組のからみ合いを組み立てたプロットの面白みがポイントになったのでしょう。ベルモンドが出演する映画では、自然と主役のベルモンドだけを追う単調な展開になりがちなのですが、本作はベルモンドがビッグネームのうちのひとりに位置づけられているので、それが幸いしたのかもしれません。

そのビッグネームの中では何といってもデヴィッド・ニーヴンのキャラクターと演技が見どころでしたね。007シリーズの原作者イアン・フレミングが小説を映画化する際に、ジェームズ・ボンド役に一番適しているのはデヴィッド・ニーヴンだと主張していたそうで、イギリス紳士という雰囲気を持ちながらも飄々とアクションをこなしていくので、冒険活劇に出演するとその個性が大変際立ってくるのです。

本作では列車強盗計画をアニメで説明する場面が出てきますが、そのアニメの動きもたぶんデヴィッド・ニーヴンの実写をもとにして描かれているんでしょう。計画上はアニメのように軽快軽妙に進むはずが、現実ではロープを対向列車にもっていかれたり列車の屋根に這いつくばったりしてなかなかスマートにはいかないというところがセンスの良い笑いにつながっていました。それにしても映画のストーリーにこのようなアニメを組み込んだのは本作がはじめてではないでしょうか。もしかしたらクエンティン・タランティーノは本作にインスパイアされて『キル・ビル』のオーレン・イシイのアニメシークエンスを作ったのかもしれないですね。

肝心の列車強盗の場面はこのアニメで計画全体を説明されているので、ベルモンドとブールヴィルの二人組がやろうとしていることの重複感やタイミングの良さというか悪さというか、その喜劇的設定が観客にもわかりやすく伝わっていました。こういうシーンをハラハラドキドキではなくクスクス笑いでうまく見せられるところにジェラール・ウーリーの監督としての手腕が光っていたと思います。二人組はまんまと強奪に成功したはずなのに現金は消えていて、大佐にとっては横取りされたはずなのになぜか現金はしっかりトラックに積まれているという展開もとても皮肉が利いていました。しっかりバケツリレーもしてますしね。

そして自由の女神の台座から現金が降り注ぐ終幕も痛快喜劇大作にふさわしい祝祭感にあふれていましたね。ジャン・ギャバンとアラン・ドロンの『地下室のメロディー』では札束がプールに浮いてしまうという結末でしたけど、港で空から札びらが無限に舞い散るという本作のほうがはるかに絵になりますし、大団円にふさわしい演出だったと思います。ちなみにこの自由の女神像はこの映画のためにわざわざ作られたレプリカ像なんだそうで、壊すのももったいないので撮影終了後にフランスのとある町に設置されたそうです。

そんなわけでなかなか面白い映画ではあったのですが、イーライ・ウォラックの妹役のシルヴィア・モンティというイタリアの女優さんは浅黒い肌を惜しみなく披露していて魅力的でしたが、あんまり他の作品では活躍できなかった人のようですね。本作ではあくまでお色気専門での登場にとどまっていましたけど、このソフィア役をもう少しうまく使えば、娯楽映画としてもうひとつ工夫できたような気もします。ちょっと欲張り過ぎでしょうかね。(A082122)

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