拳銃は俺のパスポート(昭和42年)

宍戸錠が殺し屋を演ずる、お笑いなしのハードボイルドアクション

こんにちは。大船シネマ館主よのきちです。今日の映画は、野村孝監督の『拳銃は俺のパスポート』です。「拳銃」をあえて「コルト」と読ませる、日活アクション映画末期の作品。石原裕次郎は昭和38年に石原プロモーションを設立して自ら映画製作に乗り出していましたので、当時の日活は渡哲也、高橋英樹らとともに宍戸錠が屋台骨として支えていました。鈴木清順監督・宍戸錠主演の『殺しの烙印』も同じ年に作られています。「渡り鳥シリーズ」の宍戸錠はコメディリリーフ的な役割も担っていましたが、本作ではシリアス一辺倒。お笑いなしのハードボイルドアクション作品に仕上がっています。

【ご覧になる前に】錠&ジェリーのコンビが男の友情を静かに見せます

殺し屋の上村は、横浜の大田原組からの依頼を受けて、関西島津組組長の狙撃に成功します。国外逃亡のため羽田に急ぐ上村の前には島津組の手が回っており、助けをかりた弟分の塩崎とともに湘南海岸にある渚館に身を潜めることに。そこで働く美奈の協力で、船での脱出を試みるのですが…。

映画の冒頭からライフルを構える宍戸錠が登場して、殺し屋の本格的な仕事ぶりが描かれていきます。脚本は山田信夫と永原秀一の二人がクレジットされていますが、永原はこの作品で脚本デビューした新人シナリオライターでした。翌年には東宝で『狙撃』の脚本も書いています。『狙撃』も本作と同じ殺し屋の話で、加山雄三が一匹狼の殺し屋を演じていました。それに比べると『拳銃は俺のパスポート』の宍戸錠には、ジェリー藤尾が相棒役になっていて、この兄弟分の友情がストーリーの柱にもなっています。

関西の島津組組長をやるのが嵐寛寿郎。ご存じの通り戦前の日本映画を支えた時代劇の大スターです。戦後は新東宝の戦記物シリーズで明治天皇を演じ大ヒットを飛ばしていましたが、次第に影の大物的な配役でのゲスト出演で活躍するようになり、本作もそのひとつです。セリフをひと言も言わずに比較的早くに殺されてしまいますが、その存在感は圧倒的で、殺し屋がしつこく追われるのも納得という重量感です。またヒロインを演ずる小林千登勢は、映画への出演は少なく、テレビで活躍した女優。テレビドラマのおかあさん役をやったり、クイズ番組の解答者で出たりしていました。若い頃は、ちょっと影のある美人女優という雰囲気で、ほかの日活映画の女優にはない個性を発揮しています。

【ご覧になった後で】クライマックスの穴掘りと脇で光る宮部昭夫

この手の作品の共通点は「いつでも殺せる主人公をなかなか殺さないでいて、最後には逆にやられてしまうバカな人たち」でして、宍戸錠とジェリー藤尾を追い詰める島津組も大田原組も、何度も二人を消してしまうチャンスがあるのですが、そのたびに「簡単には殺さないぜ」とか「お前だけはじっくりと死ぬ苦しみを与えてやる」とか言ってその機会を逃してしまうんですね。そして最後に果し合いというか決闘というか、日時と場所を指定した決戦が行われて、しかも相手方は時間通りにそこにやってきて、主人公があらかじめ仕込んでおいた罠に見事に引っかかるという展開になります。本作では、海に近い工場地帯の広大な空き地に、宍戸錠がひたすら穴を掘る場面が見せ場。スーツも脱がずになんでこんな穴を掘るんだろうと思っていると、突進してくる敵の自動車に衝突される寸前に穴へと飛び込み、車体の下に爆弾を張り付かせる奇策に出ます。車が向かってこなかったらどうなるんだろう、とか、遠くから銃撃されるだけになるかもしれないのに、とか、そんな疑問はたくさんあるのですが、そう考えさせないのが日活ハードボイルドアクションの特徴でもあるのです。

登場人物の中で特に後半目立っていたのが、大田原組の三好でした。この三好ですが、どこかでその声を聞いたことがあるのではないでしょうか。そうです。三好を演じた宮部昭夫は、のちにスティーヴ・マックイーンの吹き替えを専門に担当することになった俳優。だから見た目はともかくとして、なんとなく三好がカッコよく見えてくるのも、その声がマックイーンのものだからなのでした。宮部昭夫はもとは俳優座養成所出身。フリーで仕事をしているときに、外国テレビドラマシリーズ『拳銃無宿』の主人公の吹き替えの仕事をつかみました。それがマックイーンと宮部昭夫の出会いで、以来マックイーン出演作品がテレビ放映されるときには必ず宮部昭夫が吹き替えをすることになったのです。1970年代にテレビの洋画劇場は最盛期を迎えることになりますが、そのきっかけとなったのは昭和46年にフジテレビのゴールデン洋画劇場で放映された『大脱走』。二週に分けて前後編で放映されたにもかかわらず、二週続けて視聴率30%超えという快挙を成し遂げました。もちろん主演のマックイーンは宮部昭夫がアフレコしていて、脱走王ヒルツのイメージは宮部昭夫の声に負うところが大でした。宮部昭夫の映画出演作品はあまり多くなく、その中でもしっかりとセリフがあって印象的な役が本作の三好だったのでした。(A080521)

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