地球に惑星が衝突する!となったらどーしましょうというSF映画です
こんにちは。大船シネマ館主よのきちです。今日の映画は、ルドルフ・マテ監督の『地球最後の日』です。もとは1933年に発表された小説ですが、宇宙からやってきた天体が地球に衝突するという究極のシチュエーションを扱った最初の作品といわれています。原題は「When Worlds Collide」で、「Collide」は「衝突する」とか「ぶつかりあう」という意味。「Worlds」が複数形になっていることから、「ふたつの天体が衝突する」事態を示していますし、そんなパニック状態になったときに「我々の住む世界同士が相反する」ことを暗示したタイトルになっています。
【ご覧になる前に】ドライブインシアター向けのB級「ながら見」作品です
南アフリカの天文台で宇宙を漂う惑星ベラスとザイラが地球に衝突する軌道をとっていることが観測されます。パイロットのランドルによって運搬されたデータをニューヨークのヘンドロン博士が微分計算機にかけると、8ヶ月後には地球が破滅するという結果が導かれました。博士は国際聴講会でその事実を発表しますが、各国はまともにとりあわず、やむなく博士はロケットによる脱出計画をスタートさせるのでした…。
惑星が地球に衝突するという設定を聞いて、すぐに思い浮かぶのは東宝映画の『妖星ゴラス』ですね。本多猪四郎が監督した『妖星ゴラス』は、惑星が衝突する軌道を計算したうえで、巨大なジェット噴射を利用して地球自体を動かし、衝突を回避しようとします。それに対して本作は、衝突するという事実への立ち向かい方がちょっと違っていて、地球規模での対策ではなく、かなり局所的な対処法が描かれます。なにしろ1951年という時代で、ハリウッドにおいてSF映画の地位がまだまだ低い時期でしたので、莫大な製作費をかけてスケールの大きな作品をつくるのが無理だったのだと思います。局所的な映画にすれば、場面設定も限定できますし、俳優も白人だけにしておけます。その意味では、脚本段階で製作費の上限を意識した作りになっていたのではないでしょうか。
監督のルドルフ・マテという人は、元はキャメラマンが本職。経歴をみると『裁かるるジャンヌ』とか『海外特派員』とか『打撃王』とかの名作が並んでいて、アカデミー賞撮影賞にもノミネートされている名キャメラマンだったようです。そんな人が監督をやるとなっても、本作のようなB級SFになってしまうのかとも思いますし、キャメラマンらしい映像が見られるような題材とも思えません。なのであまりスタッフに注目する必要はないのかもしれませんね。
それではキャストで注目すべき人がいるかとえいば、こちらもいないんですよね。まあ本作の位置づけとしては、ドライブインシアター向けのB級上映作品のひとつで、車の中でわいわいがやがやしながら「ながら見」する程度のプログラムピクチャーだったのかもしれません。アメリカではモータリゼーションの一般化が進み、第二次大戦の帰還兵が本土に戻ってきたことをきっかけにして、自動車に乗ったまま映画を見られるドライブインシアターが急増しました。全米で1947年に150程度しかなかったのが、本作が公開された1951年には4000以上に増えたという記録も残っています。50年代にはこの手のB級作品がハリウッドでたくさん製作されているので、ドライブインシアターの隆盛と関係があるという説も成り立つような気もしますね。
【ご覧になった後で】ノアの方舟を引用するには、いろんなところが安易かも
うーん、「ながら見」で流して見ればよいのでしょうけど、真面目に見てしまうとちょっといろいろな欠点が出てきてしまう映画ですね。映画の冒頭に引用される「ノアの方舟」は、ノア一家と動物たちが乗り込むだけですが(旧約聖書を読んだわけではなく、映画『天地創造』を見ただけなので違うかもです)、本作は地球脱出用ロケットに多くの人たちの資金と労力が費やされています。それなのに言い出しっぺだからといってヘンドロン博士本人およびその周囲の人は鼻っから乗員としてカウントされています。しかも出資したスタントン氏については、いくら性格が悪いからといって直前にロケットに乗せないというのはどうなんでしょう。しかも車椅子でしか移動できないハンデがあるのを悪用して、ヘンドロン博士自らが車椅子を押さない判断をするのです。これは二重に倫理違反ではないでしょうか。かたや厳正な抽選と言っておきながら恋人同士の片方がハズレたら簡単に二人揃って乗船を許可してしまうし、この博士はノアの方舟の支配者になったつもりなんでしょうか。
脚本に欠点が目立つ一方で、特撮は東宝の円谷組と比較してもなかなかいいところまでいっていると思います。誰もいなくなった街を映すのに、大昔の記録写真をそのまんまインサートするような安易さもあるかたわらで、都市が洪水に見舞われるショットやロケット基地の研究室が地震で揺れる場面などはリアリティがあってうまく撮れていました。また発射後に宇宙空間を飛ぶロケットもピアノ線などの細工を見せることなく仕上がっています。しかし、惑星に不時着するために逆噴射して回転するあたりは、機体をどのような態勢にして着陸しようとしているのかがあまり伝わってこないため、やや盛り上がりを欠いてしまいました。
けれどもどうしようもなくチープなのが着陸に成功したあとの惑星の風景ですね。地球からの脱出と宇宙飛行は手が込んでいたのに、新天地の様子があんな書き割りだけで表現できると思ったんでしょうか。空の雲間から陽がさしていて、緑の山々に囲まれた平原には、赤い実をつけた植物が繁っている、なんてまさに想像力ゼロです。ロケットにはたくさんの動物たちも積まれていたはずですが、少年が拾ってきた犬だけしか映さないし、このエンディングは手抜きだらけでしたね。(A111721)
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