イタリア旅行(1954年)

ロベルト・ロッセリーニによるイングリッド・バーグマン主演作の一本です

こんにちは。大船シネマ館主よのきちです。今日の映画は、ロベルト・ロッセリーニ監督の『イタリア旅行』です。イングリッド・バーグマンとロベルト・ロッセリーニが不倫関係の末に結婚したことはハリウッドの一大スキャンダルとなりましたが、1950年から1955年までの間にロッセリーニがバーグマン主演で撮った5本の作品のうちのひとつがこの『イタリア旅行』です。フランスのヌーヴェル・ヴァーグの作家たちに大きな影響を与えたと言われていて、2012年に実施されたSight&Sound誌によるThe 100 Greatest Films of All timeでは41位に選出されています。

【ご覧になる前に】相手役のジョージ・サンダースもオスカー受賞者でした

アレックスとキャサリンの英国人夫妻はアレックスの叔父から相続された別荘を売却するために車でナポリに向かいますが、車中で詩人チャールズの思い出に耽るキャサリンにアレックスは苛立ちを覚えます。到着したナポリのホテルのバーで偶然旧友のジュディたちに再会し一緒に食事に出かけると、ジュディと親密に語り合うアレックスをキャサリンは横目で睨むばかり。翌日管理人トニーの案内で別荘を案内された二人は、しばらく別荘に逗留することにしたのですが…。

ハリウッドで人気女優となっていたイングリッド・バーグマンはロベルト・ロッセリーニ監督の映画に感銘を受け、ロッセリーニに手紙で賞賛の気持ちを伝えるとともに、一緒に映画を作りたいと訴えます。戦時下のイタリアで海軍省から委託されたドキュメンタリーで長編映画の監督になったロベルト・ロッセリーニは、戦争終結直後の『無防備都市』『戦火のかなた』でアメリカやフランスから高い評価を受けてネオリアリズモの旗手となっていました。ロベルト・ロッセリーニはイングリッド・バーグマンと共同プロダクション「ベリット・フィルム」を設立して映画製作に乗り出します。

大物プロデューサーだったサミュエル・ゴールドウィンに資金調達を掛け合ったものの『ドイツ零年』を見たゴールドウィンは協力を拒否。結局ハワード・ヒューズに買収されたばかりのRKOと組むことになって製作されたのが『ストロンボリ』でした。スウェーデン出身のバーグマンは歯科医リンドストロームと二十一歳のときに結婚していて娘もいたのですが、『ストロンボリ』の製作中にロッセリーニと不倫関係に陥り、『ストロンボリ』が劇場公開された同じ月にロッセリーニとバーグマンの間に男の子が生まれます。

その直後にバーグマンとリンドストロームは離婚したものの、ハリウッドでは二人の不倫が一大スキャンダルとなり、『ストロンボリ』は教会や女性団体から非難の対象となり多くの州で上映中止に追い込まれます。このスキャンダルによってイングリッド・バーグマンは1956年の『追想』でオスカーを受賞するまでハリウッドで仕事ができなくなり、『ストロンボリ』以降イタリアでロッセリーニ監督作品に出演し続けるのですが、そんな二人の関係も次第に険悪なものとなって1957年に離婚が成立しています。

本作は監督ロッセリーニ・主演バーグマンの作品群のうちの一本で、二人の関係が破綻しつつあった1954年に作られています。同じ年の『不安』で二人のコンビは解消され、バーグマンは1956年にジャン・ルノワールの『恋多き女』とアナトール・リトヴァクの『追想』でハリウッドに復帰していくことになり、『追想』では1944年の『ガス燈』に続き二度目のアカデミー賞主演女優賞に輝きます。

本作でバーグマンの夫役を演じるジョージ・サンダースも1950年の『イヴの総て』でアカデミー賞助演男優賞を受賞していて、シニカルな演劇評論家役が印象的な役者さんです。友人のデヴィッド・ニーヴンによるとサンダースは三十代のときから「六十五歳になったら自殺する」と宣言していたそうで、実際に1972年に「退屈だからこの世を去る」という遺書を残して服毒自殺しています。ジョージ・サンダースもロッセリーニ監督作品を高く評価していたようですが、本作の撮影はサンダースにとっては苛立たしく不快なもので、後に著した自伝の中でロッセリーニを「映画製作よりもスキューバダイビングに興味がある人物だ」と痛烈に批判しています。

【ご覧になった後で】映画史に残ると言われてもピンと来ない退屈さでした

いかがでしたか?オールタイムベストにも入ってくる作品ですし、ゴダールが「男と女と一台の車とキャメラがあれば映画ができる」と言ってヌーヴェル・ヴァーグの原石的傑作とも評価されていますけど、そんなに面白いと思いませんでしたしどちらかといえば退屈な映画にしか感じられませんでした。黒澤明もお気に入りの100本に本作を選んでいるそうで、退屈とか言ってはいけないのかもしれませんけど、映像的にも演技的にもあまり興味をそそられなかったというのが正直な感想です。

ストーリーは要するに互いの欠点が気になって夫婦関係が破綻している男女が離婚寸前で思いとどまるというもので、となるとその二人の心情描写が肝になってくるはずです。イングリッド・バーグマンはちょっとした目線の使い方や表情などで心の底では夫を愛しているということが伝わってきましたが、ジョージ・サンダースのほうは始終苛立っているだけで、妻の何が不満で最終的に妻を受け入れるのはなぜかがあまりよくわかりませんでした。

象徴的なのは夫がカプリ島に遊びに行ってしまい、別荘でひとりつまらなそうにトランプ遊びをしていた妻が、夫が帰ってきた物音にそわそわ反応するというシーン。バーグマンはひとりでいることが気楽なものには思えずやっぱり夫と一緒にいたいと思っているのに、その気持ちを素直に伝えることができず電気を消して眠っていたふりをします。対するジョージ・サンダースはカプリ島で足を怪我した女性と親密になりかかったりナポリのホテル前で自殺願望の娼婦を拾ったりと羽を伸ばすこともできずに別荘に戻ってきたのでそんな妻の様子を見ても「寝室に戻っていいかな」と会話を拒否します。この描写を見ると夫婦の関係を壊そうとしているのは明らかにジョージ・サンダース側であって、イングリッド・バーグマンは遺跡巡りで時間つぶしをしているだけで夫に未練があるようにしか見えません。

なのでラストで聖ジェンナーロ祭の人波にバーグマンがさらわれてしまい「アレックス!」と助けを求めてジョージ・サンダースと抱擁して和解する展開があまりに唐突に見えてしまうんですよね。しかもサンダースが「なぜぼくらは傷つけあう?」と問うとバーグマンは「つい意地を張ってしまうの。でも愛している」みたいに正直に答えるのにサンダースが「弱みにつけ込まないと誓う?」と返すんですよ。「弱みにつけ込まない」って要するに多少の浮気は勘弁してねみたいな言質をとるということではないでしょうか。だとするとアレックスという人はこの期に及んで非常に卑怯な男性に見えてしまいます。聖ジェンナーロ祭で人々が「奇跡だ」と叫ぶのをロッセリーニは夫婦関係の修復になぞらえたのかもしれませんが、ジョージ・サンダースのセリフからはこの二人が早晩ダメになるのは明白なように見えてしまいました。

映像的にもロッセリーニの演出には特に注目するところはなく、クローズアップなど極端なショットは使わずに、夫婦の会話の場面でもきくつかの切り返し的ショットをつないでいくだけでした。バーグマンの遺跡巡りではたまにドリーショットが出てきて、音楽がかぶさってドラマティックな演出が見られましたが、それが人物描写に組み付いていないのでちょっと空振り気味だったような気がします。

一番面白かったのは車から見た街の風景ショット。車を運転する場面が多いので特にバーグマンの主観ショット的に出てくるショットはたぶんナポリの街を車から即興的に撮った素材を使っているのでしょう。そこに後で「ナポリには妊婦が多いのね」みたいなセリフを付け加えたのだと思いますが、こうした車窓ショットには当時の生活者たちのリアルさが感じられて、ネオリアリズモ時代のロッセリーニであればこうしたショットをもっとうまく使いこなしたのではないでしょうか。本作はこのような身近なリアルさよりも作り物の夫婦のドラマを優先しているので、結果的にこれらの風景ショットも効果を生むまではいかなったのかなと思います。

とはいえイングリッド・バーグマンの美しさは本当に独特ですよね。ほとんどお化粧っけがないにも関わらず髪も肌もきれいですし、何よりも立ち居振る舞いに品位が感じられます。身長が175cmもあってハリウッドで活躍した女優の中では抜きんでて大柄なのですが、映画の中では内気でセンシティブな女性に見えます。最終的にはロベルト・ロッセリーニと別れてしまうわけですが、自ら手紙を書いて独立プロダクションまで作ってロッセリーニと新しい映画製作に乗り出したエネルギーはどこから沸いたんでしょうか。イングリッド・バーグマンはその美しい外見とは違って内面はかなりの激情家だったのかもしれないですね。(A101126)

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