ザ・タイガース 世界はボクらを待っている(昭和43年)

グループサウンズブームの頂点にいたザ・タイガースが映画に初主演しました

こんにちは。大船シネマ館主よのきちです。今日の映画は、和田嘉訓監督の『ザ・タイガース 世界はボクらを待っている』です。昭和40年代前半、日本は空前のグループサウンズブームに沸いていまして、その頂点にいた人気グループが沢田研二擁するザ・タイガースでした。本作はザ・タイガースが映画に初主演した東宝作品で、ザ・タイガースのヒット曲満載のアイドル映画になっています。当然のことながら女性ファンを意識した作品なのですが、二本立て興行が当たり前だったので『ドリフターズですよ!盗って盗って盗りまくれ』との併映で公開されたということです。

【ご覧になる前に】星の王女シルビーがジュリーに恋をするファンタジーです

日劇のウェスタンカーニバルでザ・タイガースが「君だけに愛を」を演奏しているとき、宇宙ではサイケ模様のプラスチック製宇宙船がユラユラと地球に向って落ちていきます。砂浜に不時着した宇宙船から逃げ出したアンドロメダ星の王女シルビーは、ファンの女性たちでごった返す日劇の楽屋口で階段から落ちてしまい、タイガースのメンバー5人によって病院に運ばれます。シルビーはナルシス殿下との婚約を嫌がって逃げ出したのですが、タイガースのジュリーに恋をしてしまうのでした…。

グループサウンズの歴史を紐解くと、日劇ウェスタンカーニバルが初開催された昭和33年にさかのぼることができます。夫の渡辺晋と芸能事務所渡辺プロを立ち上げたばかりの渡辺美佐がジャズに続く音楽ムーブメントとしてウェスタンバンドに目をつけたイベントは連日満席の大盛況となり、それがロカビリーブームへと移行していきます。ミッキー・カーティス、平尾昌晃、山下敬二郎は「ロカビリー3人男」として人気を博することになりました。

昭和41年6月にザ・ビートルズが来日して武道館でライヴコンサートを行うと、日本中にエレキブームが沸き起こります。音楽業界ではすでに田辺昭知とザ・スパイダースがビートルズサウンドに刺激を受けた曲を発表していて、ギター担当のかまやつひろしがオリジナルナンバーを作曲していました。そのブームをビジネス的に発展させたのが渡辺プロ社長の渡辺晋。渡辺晋は歌謡曲専門だったプロの作曲家と作詞家に若者向けの楽曲を作らせ、バンド編成したアイドルグループに演奏しながら歌わせることで、著作権で儲けようとしたのでした。この戦略が大当たりして日本中がグループサウンズに熱狂していくのですが、その中心にいたグループがザ・タイガースなのでした。

京都で人気を博していた「ファニーズ」は内田裕也の仲介によって渡辺プロのオーディションを受けて見事合格、上京するとすぎやまこういちから「ザ・タイガース」と命名されます。昭和42年2月に「僕のマリー」でレコードデビューし、5月に発表したセカンドシングル「シーサイド・バウンド」が大ヒットしたことで、グループサウンズの頂点に駆け上っていきます。ヒット曲はすべて橋本淳作詞、すぎやまこういち作曲のコンビによるものでした。

5枚目となる「花の首飾り」「銀河のロマンス」の両A面シングルレコードが発売されたのが昭和43年3月で、本作は翌月に劇場公開されています。製作にクレジットされたのはもちろん渡辺プロの渡辺晋。「若大将シリーズ」と「クレージー映画」を書いていた田波靖男が脚本を書き、監督には和田嘉訓が起用されました。和田嘉訓は黒澤明監督の『用心棒』でフォース助監督をつとめた人で、昭和39年に異例の抜擢を受けて『自動車泥棒』で監督に昇格していました。しかし興行的に大コケしたため、本作は『ドリフターズですよ!前進前進また前進』に続く三本目の監督作品となっています。

【ご覧になった後で】ザ・タイガースファン以外は見る価値なしの駄作でした

いやいや、これはまれにみるくらいの超駄作で、1時間28分の上映時間が苦行のように長く感じられるほどでした。映画を見るというのは現実世界を忘れて作品世界に浸るということなのですが、映画館で見たので早回しするわけにも行かず、暗闇の中で何度も時計を見て「あー、まだ半分も経ってないよ~」と心の中で嘆きながら見るハメになってしまいました。いくらグループサウンズブームだったからといって、こんなクソのような映画を見せて入場料を取るなんてことをしていたから当時の日本映画は観客から見放されていったのでしょう。ザ・タイガースの女性ファンを目当てにするにしても、彼女たちを映画ファンにする絶好の機会なのに「映画ってこんなにつまらないものなのね」という擦りこみをして終わってしまうような、どうしようもない超絶クソ映画でした。

百歩譲ってまだMV(ミュージックビデオ)などがない当時においてはザ・タイガースが歌う映像を見せるだけでも十分に価値があったのかもしれません。本編の中に12曲が収められていて、ザ・タイガースファンにとってはたぶん白黒受像機しか普及していなかった時代ですからTV番組で見るのとは違う、大画面フルカラーでのザ・タイガースの映像は貴重だったことでしょう。そうだとしても楽曲シーンのほとんどが何のデザインセンスも感じられない演出ばかりで、失笑を禁じ得ない噴飯ものでした。

冒頭に出てくる「君だけに愛を」なんかはライブ映像なので、沢田研二が聴衆を指さす仕種が見られてカッコよいのですが、最悪だったのは「花の首飾り」。白いコスチュームを纏った五人のメンバーが女性たちといっしょに踊るといういわばミュージカル仕立てになっているものの、出てくる女性たちがバレエの真似事をしているようにしか見えないくらいに踊りがヘタで、これって練習なのかと思わせるくらいにズルズルベタベタと歯切れ悪い動作をするだけでした。

さらに爆笑してしまいそうになったのは子供バレエ団の登場で、たまにバレエの発表会で「親から無理矢理やらされてるんだろうな」という小さな子供たちが舞台に出てくることなんかありますけど、それを映画でやってしまっていることが衝撃的でした。あんな映像が一生残ってしまうんですから出演した子供たちにとっては生涯の恥としか思えないのではないでしょうか。まあまあ見られるのは箱根の風車をローアングルから仰角でとらえた「イエロー・キャッツ」くらいでしょうか。その他は「花の首飾り」ほど醜悪ではないにしても、全く見る価値はありませんでした。

女性ファンの中では小松政夫を従えるお嬢様役の松本めぐみがひときわ綺麗で思わず目が行ってしまう品の良さがありました。松本めぐみはTVドラマで注目された後に昭和40年に『エレキの若大将』に映画初出演した女優さんですが、昭和45年に加山雄三と結婚して芸能界を引退し、四人の子供の母親になりました。出演時二十一歳だった松本めぐみが見られるのは、下らない本作の唯一の存在価値かもしれないです。

和田嘉訓という監督は本当に黒澤組のフォース助監督をやれていたのか、もう疑問しか感じられないほど本作での演出のクソ加減には吐き気がしてくるほどでした。衣装合わせのおばさんの家でナルシスの手下たちとっ乱闘する場面などは、ザ・タイガースのメンバーがわちゃわちゃ奮闘するのを遠目のキャメラでボーっと撮った凡庸なショットを並べただけで、そこに演出の工夫は全く存在しません。ドラムスの瞳みのるなんかは盛り上げようとしてオーバーアクションの動きをして頑張っているのに、そのアクションが平凡な構図の中の大勢の一人にしか映っていません。振り上げる手のアップショットを短くインサートするとかのカッティングもなく、アクションに演出を施しているようにも見えません。メンバーが女装して楽屋から抜け出すなんてシーンも同じく平板で、こんな凡庸な演出ではとても1時間半がもつわけないですよね。

脚本も最悪で、田波靖男は渡辺プロの子飼いみたいな存在でしたから、適当に書いても誰も何も指摘できなかったんでしょう。アンドロメダ星という設定にはSFっぽさやファンタジーらしさはありませんし、ジュリーが宇宙船に閉じ込められるに至ってはシルビー王女の馬鹿さ加減が可視化されただけで何の盛り上がりにもなっていません。ザ・タイガースの5人のメンバーの個性を活かすことは元から考えもしなかったんでしょう。シナリオライターとしてよくこんなクソ脚本が書けたものだと逆に感心してしまいます。

唯一の見どころは、マンションの部屋が5色に分けれた美術セットとジュリーが観客に向って「映画館のみなさんも歌ってください!」と叫ぶところでしょうか。でも観客はそもそも映画世界に入り切れていないので、たぶん昭和43年の公開時に劇場で声を上げた観客はほとんどいなかったんではないでしょうか。ザ・タイガースファンならともかくとして、普通の人が見るにはあまりにもツライツライ1時間半でした。本作の後でザ・タイガースは『華やかなる招待』『ハーイ!ロンドン』と続けて出演していて、よくこんな下らない仕事につき合ったなと思います。こうしたクソ仕事が加橋かつみの脱退や瞳みのるの京都帰郷の原因になったのは間違いありませんね。(T062325)

コメント

スポンサーリンク
タイトルとURLをコピーしました