ザ・スパイダースの大騒動(昭和43年)

ザ・スパイダース主演映画の第三作で、空想好きなマチャアキが主人公です

こんにちは。大船シネマ館主よのきちです。今日の映画は、森永健次郎監督の『ザ・スパイダースの大騒動』です。日本の歌謡界では昭和42年にジャッキー吉川とブルーコメッツが「ブルー・シャトー」で日本レコード大賞を受賞するなどグループ・サウンズブームが到来していましたが、その中でも古参のグループとして活躍していたのがザ・スパイダースでした。7人組のスパイダースの人気に注目した日活はいち早く彼らを主演にした映画を企画し、昭和42年の『ザ・スパイダースのゴーゴー向こう見ず作戦』を皮切りに昭和43年には『大進撃』、この『大騒動』、『バリ島珍道中』の三作が一挙公開されました。7人組の中でも堺駿二の息子で子役として映画界で活躍していた堺正章は一番の芸達者でしたから、本作でも空想好きなマチャアキが主役を演じています。

【ご覧になる前に】ヒロインは奈美悦子、音楽は全曲かまやつひろし作です

新幹線の東京駅から降り立ったザ・スパイダースのメンバー7名はそのままスパイダクションの車に乗り込みます。車の後方を走っていた夕子は後ろから来た脇田に追突されて入院することになり、マチャアキと順の二人は夕子を見舞うため病室を訪れます。夕子のことを好きになってしまったマチャアキは夕子を守護する護衛兵になることを空想するのですが、積極的に夕子に声をかけるのはいつもおしゃべりな順のほうでした…。

ザ・スパイダースはリーダーの田辺昭知によって昭和36年に結成され、ジャズシンガーを父に持つかまやつひろしやキーボードプレイヤーの大野克夫などが参加していました。田辺昭知が目をつけたのが映画にも出演していた堺正章で、バンドに勧誘したものの父親で俳優の堺駿二の許可が下りずなかなかメンバーに誘い込むことができませんでした。しかし田辺が粘り強く誘った結果、堺正章の加入が許され、翌年メンバーとなった井上順とともにダブルヴォーカルのグループが誕生することになったのでした。

作詞・作曲を担当していたのはかまやつひろしで、昭和40年に「フリフリ」でメジャーデビューを果たすも当初はレコードが売れずパッとしませんでした。しかし翌年秋に浜口庫之助作曲の「夕陽が泣いている」が大ヒットすると、一躍グループ・サウンズブームの担い手となり、ジャッキー吉川とブルーコメッツと並んでヒット曲を連発するようになります。しかしブームに乗ってザ・タイガースやザ・テンプターズなどアイドル色の強い若手が台頭してくると、次第にザ・スパイダースはベテランバンドの位置に追いやられ、単独で堺正章が俳優活動を始めると昭和45年にバンドは解散することになりました。

それでもザ・スパイダースは人材の宝庫で、俳優・歌手として芸能界で活躍した堺正章のほか、司会業などでタレントを続けた井上順、ミュージシャンの大御所となるかまやつひろし、芸能プロダクション田辺エージェンシーの社長になった田辺昭知、作曲家として活躍した大野克夫、井上堯之バンドを結成した井上孝之など、それぞれが日本の芸能界でトップレベルのキャリアを築いていくことになります。

ザ・スパイダースの映画は日活の笹井英男が企画して、全四作がすべて日活で製作・公開されました。特に昭和43年は正月・5月・8月と年に三本も公開されていますので、グループ・サウンズブームに乗って映画館にかければスパイダースファンの動員が見込めるというセグメントされたターゲット向けの映画として、次々に製作されることになりました。

脚本の伊奈洸はTVドラマの「寺内貫太郎一家」や「時間ですよ」の脚本を書いていた福田陽一郎の別名で、スパイダース作品としては前作の『大進撃』に続いて脚本を担当しています。監督の森永健次郎は昭和11年から日活多摩川撮影所で監督をやっている長老的な大ベテランで、吉永小百合主演の『潮騒』なんかを監督した人。また共演している奈美悦子は西野バレエ団から映画界に入った女優さんで、本作出演時はまだ十七歳でした。本作に出演する前には「レ・ガールズ」という女性ダンスグループに参加していて由美かおると一緒に活動していたそうです。

【ご覧になった後で】スパイダースの歌以外見る価値が全くない駄作でした

いやいや、ここまでひどい映画を見ることは滅多にないというほどつまらなくてくだらない駄作でしたね。見どころはザ・スパイダースの歌と演奏シーンだけで、その歌の場面もヘンな演出がムダにくっついていて、シンプルにかまやつひろし作詞・作曲の音楽をじっくり聴かせてくれればよいものを、歌自体を台無しにするかのようでした。これほど良いところが見つからない映画も滅多にないというほど、見る価値がひとつもないどうしようもない映画でした。

究極的につまらない映画なのでコメントしようがないのですが、まず脚本が素人以下の内容で、こんなバカらしい脚本ならよほど公募かなんかで一般人に書いてもらったほうがよかったのではないかと思うほど見どころゼロでした。そのうえ演出のセンスがゼロ以下のマイナスレベルで、本来はザ・スパイダースのメンバーによるコメディ映画のはずなのですが、一度たりとも笑える場面がなく、笑うにしてもすべて失笑するしかないくらい、センスのない寒々とした空振りコントが続いていて、1時間26分の短い映画なのに終わることだけが楽しみに思えるような最低の映画でした。

監督の森永健次郎はこの映画をつくるときに六十歳を目前にした歳になっています。若者向けのグループ・サウンズ映画を還暦直前の長老に演出させるなんて、もう日活も本当に末期的な時期であったにしても製作する姿勢そのものを疑いたくなりますよね。こういう映画こそ若い人に自由に撮らせるべきだったのではないでしょうか。戦前から長くやってる森永健次郎も、なぜこの映画の監督の座を辞退しなかったのか不思議でなりません。

その中で堺正章はまあ映画出身なので演技はしてますし、井上順はメンバーの中で唯一顔も良くて声も良いのでそれなりに見ていられるのですが、その他のメンバーは軽妙なかまやつひろしを除いて全員学芸会以下の演技力しかなく、見ているのが恥ずかしいくらいです。ホントにメンバーだからって全員セリフしゃべらせなくてもいいのになあって感じでした。

ここまで良いところのない映画も珍しいのですが、ザ・スパイダースの楽曲のすばらしさを再認識する機会にはなっていまして、特に「あの頃君は若かった」は時代を経過しても十分通用するスタンダードナンバーだと確信しました。かまやつひろしの作曲力は本当にすごかったのだと思います。またダブルヴォーカルだと思っていたザ・スパイダースが実は井上順はタンバリンを叩いているだけのことが多く、実質的には堺正章がリードヴォーカルだったんだなということもわかりました。結局はマチャアキとムッシュの二人の才能がバンドを引っ張っていたのだなと思い返した、ということだけが本作を見た感想なのでした。(A122222)

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