四人の兄弟が亡き両親への思いで戦うヘンリー・ハサウェイ監督の西部劇です
こんにちは。大船シネマ館主よのきちです。今日の映画は、ヘンリー・ハサウェイ監督の『エルダー兄弟』です。1957年の『失われたものゝ伝説』以降ジョン・ウェインとコンビを組むことが多くなったヘンリー・ハサウェイが監督した西部劇で、母親の葬式で長男が帰郷するところから始まる四人兄弟の戦いの物語です。1965年の全世界興行成績でトップ20に入るくらいのヒットを飛ばしていて、当時はまだ西部劇が鉄板コンテンツだったことが伺えます。
【ご覧になる前に】肺癌治療を克服したジョン・ウェインが喝采を浴びました
テキサス州クリアウォーター駅で汽車の到着を待っているのはエルダー家の三人の兄弟と町の保安官。しかし汽車から降りたのは黒ずくめのガンマン一人だけで、兄弟は母親の葬式に向います。町の人々からの惜別の言葉の中でエイミー・エルダーが1年前に死んだ夫の墓の横に埋葬される様子を丘の上から長男ジョンが見つめていました。母親の仮住まいにジョンが現れ、四人兄弟は久しぶりの再会を祝いますが、母親が苦労して大学に進ませた末っ子バドは勉強を続けろと言う兄たちに反発します。母親が仮住まいしていたのは、所有していた牧場をヘイスティングス一家に乗っ取られたからだったのですが…。
本作を製作したハル・B・ウォリスは、1930年代からワーナーブラザーズのプロデューサーとして活躍した人。1943年の『カサブランカ』でアカデミー賞作品賞を獲得したほか、優れた業績を残した製作者に贈られるアービング・G・タルバーグ賞を二度も受賞しました。本作の四年後にハル・B・ウォリスはヘンリー・ハサウェイ監督と組んで『勇気ある追跡』を製作し、ジョン・ウェインにアカデミー賞主演男優賞をもたらすことになります。
ハリウッドで常にヒーローを演じてきたジョン・ウェインですが、五十七歳のときに肺癌と診断されて闘病生活に入りました。片方の肺を摘出するほどの大手術を乗り越えたジョン・ウェインのために、本作は1964年10月に撮影が開始される予定を1965年1月まで延期することになりました。肺癌手術の後だったにもかかわらず、ジョン・ウェインは撮影中も葉巻を吸うことを止めず、ガンマン役のジョージ・ケネディは驚かされたそうです。また、ジョン・ウェインは完全に回復したことを示そうとして、本来はスタントマンが演じるアクションシーンを自分でやると主張してスタッフを困らせたという話も伝わっています。
長男ジョン・エルダーを演じたジョン・ウェインは五十八歳で、末っ子バドを演じたマイケル・アンダーソン・ジュニアは二十一歳でした。本来なら三十代と十八歳くらいの関係ですから、ジョン・ウェインとしてはあまりに歳を取り過ぎていたと言って良いでしょう。けれども不幸中の幸いと言うか、肺癌手術を経て、260ポンド(118kg)だったジョン・ウェインの体重はかなり減っていたので、見た目的にはギリギリ兄弟に見える関係に踏みとどまっています。
ヘンリー・ハサウェイは、ジョン・ウェインが設立したバドジャック・プロダクションの第一回製作作品『失われたものゝ伝説』を監督したことがきっかけになり、ジョン・ウェインの出演作品でメガホンを取るようになりました。『アラスカ魂』『エルダー兄弟』『勇気ある追跡』はジョン・ウェインの西部劇キャリアの最終期を形成する作品群で、本作は『リオ・ブラボー』で共演したディーン・マーティンやデニス・ホッパーが起用されていることも、集大成的な位置づけのひとつにもなっています。
【ご覧になった後で】ホームドラマ風味が加わったアクション西部劇でしたね
いかがでしたか?「ケイティ・エルダーの息子たち」の原題通りに四人の兄弟が久しぶりに再会して、喜び合いつつも、互いに主張し合ってケンカになり、それでも長男ジョンのもとに一致団結するというホームドラマ風味の設定がコアになっていたのが本作の一番の特徴でした。ホームドラマがサイドストーリーで出てくる西部劇はたくさんありますが、四人の兄弟の関係が主題になるような作品はあまり他では見られません。人生経験豊富で弟たちの言い分に耳を傾けつつすべての決定権を持つ長男ジョン、ギャンブル好きなのにいつのまにか周りの人たちを巻き込む力をもった次男トム、三男マットはやや性格がはっきりしないのですが、母親の期待を一身に背負って大学に行くものの兄たちとタメを張って荒くれ者の生活に憧れる四男バド。彼らが取っ組み合いのケンカをする場面は、本作のハイライトのひとつになっていて、そこから馬の商売にでかける流れは興味深いものがありました。
もちろんホームドラマ西部劇というだけでは観客を呼べないので、本作は後半にガンアクションのヤマ場がたっぷり設けられています。馬追いをしている兄弟が捕まって移送される途中の橋での襲撃シーンは、崖の上から撃つヘイスティングス側と橋と川で守勢に回る兄弟側の対比が空間の上下を活用して映像化されていて、ヘンリー・ハサウェイの演出もその位置関係を明確に伝えるよう工夫されていました。ここでキャラクターとして今ひとつはっきりしない三男マットが死ぬことになるのは、やや余分な筋立てで、双葉十三郎先生が指摘しているように四兄弟が揃ったまま終幕を迎える設定にしたほうが本作のホームドラマ調には合っていたと思います。
もうひとつのアクションシーンは町の納屋に兄弟が籠城するクライマックスで、ここではジョン・ウェインがヘイスティングスの銃砲店を火薬の力で爆発させるところがカタストロフィを感じさせました。たぶん西部劇で敵役を爆死させるなんていうのは本作が初めてだったのではないでしょうか。ガンファイトのバリエーションは語り尽くされていたでしょうから、当時大流行していたスパイアクションと同じような爆発シーンですっきりとエンドタイトルにもっていくのはさすがヘンリー・ハサウェイと思わせる展開でした。
とは言っても敵役の小粒感は否めないわけで、ジェームズ・グレゴリー演じるヘイスティングス家の父親は、ジョン・ウェインの相手をするにはどうにも寸足らずな感じでした。実の息子のデニス・ホッパーを撃ち殺しても顔色ひとつ変えない冷酷さはありましたが、水源を抑えて町全体を乗っ取ろうとするスケールの大きさが脚本でも演技でも表現できておらず、しかも自分でライフルを撃つので最前線の兵隊程度の印象になってしまっていました。雇われガンマンのジョージ・ケネディもジョン・ウェインとの初対面で顔面を棒で張られてノックアウトされてしまうだけで、『シェーン』のジャック・パランスのような殺しのプロとしての見せ場がないままあっけなくやられてしまいます。まだ『シャレード』くらいしかキャリアがない時代のジョージ・ケネディではこの程度の出番しかもらえなかったのかもしれないですけど。
西部劇としてはやや長めの2時間の上映時間を退屈することなく見られたので、ジョン・ウェインが主演する西部劇の中では及第点の作品といって良いでしょう。ただひとり出てくる女優マーサ・ハイヤーも、四兄弟の物語の邪魔をせずに花を添えるまで行かない端役でとどまっていたことが奏功していました。エルマー・バーンスタインの音楽は『荒野の七人』の亜流のようでしたし、『勇気ある追跡』を撮ることになるルシアン・バラードのキャメラも特に見るべき点はありませんでしたが、ホームドラマを織り交ぜたところが本作の成功ポイントだったように思われます。(V082525)
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