ゲーリー・クーパーとバート・ランカスターがメキシコで活躍する西部劇です
こんにちは。大船シネマ館主よのきちです。今日の映画は、ロバート・アルドリッチ監督の『ヴェラクルス』です。南北戦争終結後、グループを組んでメキシコに流れていく南軍兵士たちの中には単独行動する者もいたという前説から始まる通り、1860年代のメキシコを舞台にした西部劇で、プロデューサーを兼ねていたバート・ランカスターがゲーリー・クーパーを主演に招いて製作されました。バート・ランカスターは170万ドルの製作費で1100万ドルの興行収入を稼いだと言われていて、全米興行ランキング第8位の大ヒットを記録しました。
【ご覧になる前に】全編メキシコでロケーション撮影された初の西部劇でした
メキシコに流れ着いた元南軍少佐ベン・トレーンは前足を骨折した馬を撃ち殺し、ジョー・エリンから馬を買います。実はその馬はメキシコ軍からジョーが盗んだもので、二人はメキシコ皇帝軍に追われ、崖を飛び越して難を逃れます。落馬したベンはジョーに銃を突きつけジョーの馬で盗み返し、町の荒くれ者たちと合流したベンとジョーたちは革命軍の兵士たちに包囲されてしまいます。子供を人質にしてその場を切り抜けたベンとジョーは、知り合った伯爵夫人に招待されてマクシミリアン皇帝に謁見するのでしたが…。
バート・ランカスターは体育教師を目指してニューヨーク大学に通ったものの、大学を中退しサーカス団の空中アクロバットで活躍するようになりました。除隊後に出ていた舞台で注目され1946年の『殺人者』で映画デビューし、注目を浴びます。しかしハリウッドの映画製作システムに疑問を感じたランカスターはわずか2年後にプロデューサー業にも進出し、ハロルド・ヘクトと出会うと「ヘクト・ランカスタープロダクション」を設立して『真紅の盗賊』などのアクション映画を製作・主演するようになります。本作はそこに合流したジョージ・ヒルが製作を担当し、ヘクト・ヒル・ランカスタープロダクションとクレジットされている通り、バート・ランカスターが自ら企画・製作した西部劇となりました。
本作の前年には『地上より永遠に』に主演してアカデミー賞主演男優賞にノミネートされたランカスターですから単独主演でも十分に興行価値があったにもかかわらず、本作ではゲーリー・クーパーを主演に招いて、自らはダークヒーロー役に回りました。クラーク・ゲーブルはゲーリー・クーパーに「あの若造は君をスクリーンから吹き飛ばしてしまうだろう」と言ってランカスターと共演しないようアドバイスしたそうですが、撮影当時五十二歳だったクーパーは四十歳のランカスターを相手役にする道を選択しました。
監督のロバート・アルドリッチは1953年に『ビッグ・リーガー』という作品で映画監督デビューを果たしたばかりでした。本作はアルドリッチにとってキャリア四作目にあたり、まだ実力も定まっていない頃にゲーリー・クーパーとバート・ランカスターの二大スター共演作の監督を任されたことになります。ランカスターとしてはなるべくギャラの安い監督しか起用できなかったという事情があったのかもしれませんが、アルドリッチは本作で大いにネームバリューをあげることができました。
原作者のボーデン・チェイスの作品には『赤い河』や『ウィンチェスター銃’73』があり、脚色はローランド・キビー(後にTVドラマ「刑事コロンボ」シリーズを手がけます)とジェームズ・R・ウェッブ(『西部開拓史』や『恐怖の岬』の脚本家)が担当しました。キャメラマンのアーネスト・ラズロは、前年には『第十七捕虜収容所』で撮影をやっていますし、『ニュールンベルグ裁判』『おかしなおかしなおかしな世界』『大空港』など幅広いジャンルで長く活躍した人でした。本作ではテクニカラーでメキシコの乾いた空気感を映像化しています。
本作は全編メキシコでロケーション撮影されていて、ハリウッドの作品でメキシコで撮影して映画が製作されるのははじめてだったんだそうです。本編の最後にメキシコの協力に感謝するというメッセージが出てくるほどメキシコ政府が全面的に撮影をバックアップしたのですが、完成した作品を見たメキシコ当局はメキシコ人の描き方があまりに酷いと憤慨し、以後、メキシコでアメリカ映画が撮影されるときには厳格な基準が設けられるようになりました。1960年の『荒野の七人』でメキシコ農民がみんな真っ白な服を着ているのも、本作での撮影の反省が生かされた結果ということです。
【ご覧になった後で】主演の二人はカッコいいですがキャラクターが雑でした
いかがでしたか?大昔にTV放映されたとき以来の再見で、以前は圧倒的に面白い傑作だと思った記憶があるのですが、久しぶりに見てみるとキャラクターの雑なところが気になってしまい、それほどの良作だとは感じられませんでした。ゲーリー・クーパー演じるベン・トレーンがバート・ランカスター演じるジョーを敵とするか味方とするかのせめぎ合いが本作の妙味なはずなのに、ベンのエモーションがうまく描写されていないので二人が火花を散らすという感じにならないんですよね。なのでゲーリー・クーパーの演技が非常に中途半端な感じに見えてしまいました。
本作の二年前に『真昼の決闘』でオスカーを獲得したクーパーは、非米活動委員会では委員会よりの発言をしていた人であり、『真昼の決闘』の脚本を書いたカール・フォアマンはその非米活動委員会によってハリウッドを追放されていました。赤狩りが吹き荒れたハリウッドで結果的にうまく立ち回ったクーパーなのですから、皇帝軍と革命軍の間で蝙蝠のように立場を変えて金塊を手に入れようとするベン・トレーンのキャラクターはうってつけだったはずです。しかし、クーパーは撮影現場でベンが善人として描かれるように脚本の変更を要求したようですので、要するにクーパーはやっぱり正義のヒーローでいたかったのかもしれません。
一方のバート・ランカスターはプロデューサーとして自ら悪役を買って出たものの、クーパーを食ってやろうという気持ちも捨てきれなかったんでしょう。衣裳デザインや所作もすべてクーパーより目立つように設計されていて、黒ずくめの衣裳の中でニヤっと笑う白い歯が印象に残りますし、鶏の足にガブリとしゃぶりつく荒っぽさも逆に魅力的に見えます。けれども、ジョーが自分の過去を正直に告白したり、負傷したジョーの腕からベンが弾をナイフで抜いたりという場面も描かれ、この二人の間に友情が芽生えるような雰囲気になります。にもかかわらず、最後になってジョーがベンを裏切って金塊を独り占めしようという行動に走る展開にはどうしても納得できませんでした。
「育ての親を結局は殺した」ジョーと「誰にでも優しい」ベンの二人の対決は結果的にベンが勝ちます。ニヤッと笑いながら銃をホルスターに収めるバート・ランカスターはめちゃくちゃカッコいいのですが、仲間を次々に撃ち殺し伯爵夫人から船の場所を聞き出して金塊を奪おうとするのであれば、ベンと一騎打ちの勝負なんかせず、背中から一発ドキュンとやれば済む話です。ここらへんがキャラクターより見せ場を優先してしまった矛盾点で、結局はゲーリー・クーパーとバート・ランカスターの一対一を見せたいだけの映画だったのだなと思わざるを得ませんでした。
シーザー・ロメロ演じる侯爵が皇帝側の参謀として活躍しますが、マクシミリアン皇帝というのは歴史的人物だったようで、オーストリア皇帝の弟として生を受けた人でした。1864年にフランスのナポレオン三世と帝政の復活を目指す王党派に支援されてメキシコ皇帝に即位したものの、アメリカをはじめ主要各国からは承認されず、1867年には革命軍によって捕虜となった末に処刑されたそうです。アメリカの南北戦争と同時期にメキシコではこのような歴史が動いていたわけで、本作でメキシコが舞台として取り上げられてからは、西部劇の世界にメキシコが登場するようになり、はてはイタリアでマカロニウエスタンが登場する遠因になったのでした。
脇役で出演していたアーネスト・ボーグナインは本作の翌年に出演した『マーティ』でアカデミー賞主演男優賞を獲得しますから、あまりの出世ぶりに驚いてしまいます。またチャールズ・ブロンソンは本作では本名であるチャールズ・ブチンスキーを名乗っていて、リトアニア系移民でリプカ・タタール人の血を引いていてメキシコ系あるいはメスティーソのような容貌を特徴とする大部屋俳優の時期でした。チャールズ・ブロンソンがスターになるのは1960年代ですから、アーネスト・ボーグナインよりは雌伏の期間が長かったといえるかもしれません。
キャリア四作目のロバート・アルドリッチは短いショットを連打していく演出を徹底していましたが、前半のところどころにスーパースコープの横長画面を活かした構図のうまさが光っていました。右手前にバート・ランカスターのクローズアップを置き、左手奥にやや離れた悪党ふたりの顔を映すという配置で、ご存知の通りこれはマカロニウエスタンの巨匠セルジオ・レオーネ監督がよく使う画面構成です。メキシコを舞台にした本作がマカロニウエスタンの源流になったと同時に、セルジオ・レオーネの映像演出になんらかのインスパイアを与えた作品と言えるのかもしれません。(V032225)
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