ジョン・フォード監督がジェームズ・スチュワートを初起用した西部劇です
こんにちは。大船シネマ館主よのきちです。今日の映画は、ジョン・フォード監督の『馬上の二人』です。ジェームズ・スチュワートは西部劇でも活躍していますが、主にアンソニー・マン監督作品が中心でした。本作はキャリアの晩年期にさしかかったジョン・フォード監督がはじめてジェームズ・スチュワートを主演に起用した作品で、前年にジョン・ウェイン監督の『アラモ』に出演したリチャード・ウィドマークが共演しています。ウィル・クックという西部劇小説やTVの西部劇シリーズを書いていた人の小説が原作になっています。
【ご覧になる前に】フォードの名作『捜索者』と多くの類似点があります
保安官のマケーブがのんびりとビールを飲んでいるところに陸軍のゲイリー中尉が部下を連れて町にやって来ました。中尉はマケーブを少佐のもとに連れて行くという指令を受けていて、酒場の女主人ベルの誘惑から逃げたいと思っていたマケーブは60km離れた中隊基地を訪れます。基地のすぐそばで集落を形成している開拓民から歓迎されたマケーブは、少佐からコマンチ族に拉致された家族を開拓民のもとに取り戻すよう要請され、開拓民はマケーブを救世主のように待ち焦がれていたのでした…。
ジョン・フォード監督が1956年に製作した『捜索者』はコマンチ族に連れ去られた姪を取り戻す旅を描いていましたが、本作も同様にコマンチ族に家族を拉致された開拓民に主人公が協力するという展開になっています。『捜索者』も原作ものでして、そのシナリオを担当したフランク・S・ヌージェントが、本作でも同じようにウィル・クックの小説を脚色しています。このように『捜索者』と多くの類似点をもつ本作ですので、一般的にも『捜索者』のバリエーションのひとつであると認識されているそうです。
ジェームズ・スチュワートもリチャード・ウィドマークもジョン・フォード監督の作品には初出演だったのですが、撮影時の年齢がスチュワートは五十三歳、ウィドマークは四十五歳とそれなりの年齢になっていたこともあり、演じる役との年代的なギャップには戸惑ったそうです。しかしながら、ジェームズ・スチュワートはジョン・フォードの次作である『リバティ・バランスを撃った男』でも主演に起用されましたので、ジョン・フォードに気に入られたのかもしれません。
キャメラマンはチャールズ・ロートン・ジュニアという人で、ジョン・フォード監督のわずか十歳年下ですから、本作撮影時は六十歳近い年齢になっていました。ジョン・フォード作品に特有のグランドキャニオンの絶景などは登場せず、どちらかといえば基地内や野営の場面が多いので、そちら方面の腕を買われて撮影に起用されたのか、コロンビアピクチャーズが用意したのがこの人だったのか定かではありません。本作完成の四年後に亡くなっていますので、キャメラマンとしての最晩年の作品となりました。
【ご覧になった後で】脚本のまずさが際立ってしまい失敗作となりました
いやいや、この映画はジョン・フォード監督のものだとは信じられないくらい、見ていてつまらない映画でしたね。その根本原因は脚本でして、ストーリーがまるで描けていないですし、キャラクターも中途半端で、見ていてもどこに注目すればよいか全くわからなくなるくらい魅力のない映画になっていました。
プロットのいい加減さにはあきれるほどで、まずなぜジェームズ・スチュワート演じるマケーブがコマンチ族との交渉役としてわざわざ軍に雇われるのかが描かれていません。過去にどこかで捕虜を奪還したような実績があるのかと思えば、そんなセリフも出てきません。それなのにストーリー上ほとんど意味のない酒場の女主人ベルからプロポーズされたみたいな無駄なエピソードが語られたりして、そんな本筋と関係のない話なんて要らないですよね。
またコマンチ族のもとに乗り込んだときにはコマンチ族の言葉を使うことなくずっと英語で話し続けていますし、交渉上手だという割には軍から持ち出した最新型ライフルを無防備に首長に渡してしまうのもどうなんでしょう。狡猾なコマンチ族ならライフル銃を手に入れた時点で、マケーブと中尉の二人を殺してそれでおしまいというシチュエーションです。なのに二人は殺されず、首長は要求もしていないのにエレーナという女性まで連れてきてくれます。セリフでは「ライフル6丁を追加で渡す」という約束をしたはずですが、ジェームズ・スチュワートはその約束のことなどすっかり忘れてしまったようです。なので終盤には「約束を守らなかった」と言っていつコマンチ族が襲ってくるのかと思いながら見ていました。
さらに家族から連れ帰すための金品まで受け取ったにも関わらず、コマンチ族の妻にされていた娘はそのまま放置して帰ってきてしまいます。少なくとも本人の意向を確認すべきですし、エレーナなんて関係ない女性はともかく、娘のほうを連れ帰って、家族に会わせたうえで本人に決めさせればいいはずです。まあなんともいい加減で適当な交渉役なので見ていても全く納得できず、ストレスだけが溜まりました。
ストーリーラインがそんなですからとても登場人物に感情移入することができず、ジェームズ・スチュワートのことが嫌いになりそうになりますし、リチャード・ウィドマークも結果的にはプロポーズしたシャーリー・ジョーンズの弟を開拓民がリンチして殺すのを見ているだけです。オルゴールの音で弟だと判明するんだろうなとは思ったのですが、それがわかったうえで弟を殺させてしまうのはあまりに安易で残酷な展開ですし、そんな状況にありながらシャーリー・ジョーンズがリチャード・ウィドマークに抱きつくなんて、弟を殺されて男に抱きつく姉なんているわけないじゃないスかね。
これがジョン・フォード監督の映画だというのが情けなくなってしまうほどで、実際にジョン・フォード自身も「私がこの20年間で作った中で最悪のくだらない作品だ」と吐き捨てたそうです。監督にそこまでいわれる本作にはちょっと同情してしまいますけど、どこを見ても良いところがひとつもない西部劇なので、ジョン・フォードの言う通りの「最悪にくだらない」映画を見てしまったのかもしれません。(V101722)
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