核兵器利用を止めないと小型爆弾でロンドンを破壊すると脅すサスペンスです
こんにちは。大船シネマ館主よのきちです。今日の映画は、ロイ&ジョン・ボールディング監督の『戦慄の七日間』です。新型小型爆弾UR-12でロンドンを爆破するというストーリーの通り、本作はイギリス映画でして、ロンドン・フィルムの製作です。ロンドン・フィルム社はハンガリー出身のアレクサンダー・コルダが設立した映画製作会社で、戦前にはヨーロッパ各国の有名監督を招いて映画を作っていましたが、第二次大戦後はイギリス映画の代表作になった『第三の男』を送り出しています。本作はロンドンでロケーション撮影を行っていて、クレジットにも「協力:ロンドン市民」と出るくらいに大勢のロンドン市民がエキストラ出演しています。
【ご覧になる前に】なんと第24回アカデミー賞原案賞受賞作なのでした
ダウニング街の英国首相官邸に一通の手紙が届き、それは英国が核兵器の製造を中止しない限り一週間後の日曜日正午にロンドン市街を新開発の小型爆弾で破壊するという脅迫状でした。送り主は国立科学研究所で小型爆弾開発の研究にあたっているウィリントン教授。スコットランドヤードのフォランド警視が研究所を訪問すると、教授は爆弾を持ち出したまま姿を消していました。首相は極秘裏に教授を探し出すよう命じますが、ロンドン市民に紛れ込んだ教授を見つけるのは容易ではなく、やむなく顔写真を新聞に公表することにしたのでした…。
イギリスでは1920年代までは映画館で公開される映画のほとんどはハリウッド製で、イギリス映画の割合はごくわずかだったそうですが、1930年代に入るとアルフレッド・ヒッチコック監督の長編サスペンス映画が人気になると同時に、アレクサンダー・コルダによるロンドン・フィルム社がルネ・クレールやジャック・フェデーなどの監督を招いてイギリスで製作させた映画がヒットするようになりました。第二次大戦後にはパウエル&プレスバーガーのコンビやキャロル・リード、ロレンス・オリヴィエらの監督作品が続々登場し、活況を呈するようになるものの、1950年代に入るとやはりハリウッド映画に押されて徐々に低迷しはじめ、復活は1960年代の007シリーズの登場まで待つことになります。
そんな中でロイとジョンのボールディング兄弟は製作と監督を兼任するコンビを組んで、本作のほかには1950年代後半にはコメディ映画をシリーズ化して成功を収めています。本作のオリジナルストーリーを書いたのはポール・デーンとジェームズ・バーナードの二人。ポール・デーンは後に『007ゴールドフィンガー』やシドニー・ルメット監督の『オリエント急行殺人事件』の脚本を書くシナリオライターで、ジェームズ・バーナードは『吸血鬼ドラキュラ』などホラー映画の作曲家として活躍した人。なんで脚本家と作曲家が原作を書いたのかわかりませんが、なんと本作は第24回アカデミー賞で原案賞を受賞していまして、さらには本作はヴェネツィア映画祭で金獅子賞の候補にもなっていたという驚愕すべき記録が残っています。ホンマかいなって感じですね。
【ご覧になった後で】字幕の曜日表示がテンポのノロさを強調していました
いやいや、実は本作のことを『五月の七日間』と間違えて見始めてしまって、見ているうちに「これ違うよね」とやっと気づいたような次第でした。見終わってみるとイギリスのB級サスペンスという程度の内容で、ロンドンが爆破される日曜正午に向けたカウントダウンの意味合いで「TUESDAY」とかの曜日が字幕表示されるのですが、これがなんともテンポのノロさを強調するばかりで「えー!まだ水曜日なの?早く週末の話に行ってよー」とイラつくような気分にさせられてしまいました。
そもそも顔写真を公開しても誰一人として通報する市民がいないのがおかしいですし、政府が詳細な情報を開示して鞄の形状などを広報すればもっと多くの目撃情報が得られるはずです。教授を探し当てる努力をせずロンドン市民全員を避難させるなんて実に効率が悪すぎてバカバカしくなりますよね。こんなストーリーでよくアカデミー賞を獲っちゃったもんだなと変に感心してしまいました。
当然ながら俳優たちも有名な人はおらず、教授も年増の女優も下宿の女主人もどれもこれも魅力のない年季の入った熟年俳優ばかりで、見るべきところはありませんでした。演出上は、下宿の二階から深夜に足音が聞こえる場面がヒッチコックの『下宿人』のモノマネであったり、避難する市民を描く場面でトイレに行きたい少年が婆さんに叱られて泣きそうになるのが可哀想だったりと、ほんの少しだけ印象的なものが伺えました。けれどもそれ以外は全く印象が薄く、見ていて眠くなるのを我慢するのが精一杯という映画でした。(A070222)
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